気仙沼「みらい造船」 中小造船4社が踏み出した未来への一歩

2015年5月、宮城県気仙沼市で「みらい造船」が産声を上げた。東日本大震災で壊滅的な被害を受けた造船業。中小造船4社が、自らの看板を打ち捨て力を合わせ、未来への1歩を踏み出した。そこから地方創生へのいかなる示唆が読みとれるか。

「海と生きる」をテーマに復興を進めている気仙沼市。この水産都市を支え続けてきたのが、造船産業だ Photo by raneko

これまでにない造船所を創る

世界三大漁場の一つである三陸沖沿岸に位置する気仙沼市は、古くから東北有数の水産都市として発展してきた。漁師たちの活躍を支えてきたのが、地域の造船関連事業者だ。造船会社に加えて漁具資材、燃料、製氷などの事業者が集積しており、創業100年を超える企業も存在する。漁船建造から修繕までの「フルラインナップ」があったからこそ、気仙沼は漁港として成長を続けてこられた。

しかし、4年前の東日本大震災で、波打ち際に位置する造船業者の設備の多くが破壊された。被害に拍車をかけたのは、地震による地盤沈下だ。地面が沈んだことで、海岸線が約10m後退。作業スペースは浸水し、作業者は水につかりながらの点検・修繕作業を余儀なくされた。

気仙沼で創業80年以上の歴史を持つ木戸浦造船の木戸浦健歓社長は、「近くを船が通るたびに波にのまれないよう海から上がる。水の冷たい冬は命にもかかわる。こんな作業を続けるわけにはいかないと、強く感じました」と話す。

木戸浦健歓 みらい造船社長

気仙沼湾奥部の浪板地区沿岸には約800mにわたり造船所が点在していたが、どこも同じような現象で困っていた。問題を解決するには、造船所を移動させるしかないが、中小事業者にはその資金力がない。

「ならば、皆で新たな土地に設備を集約して設備投資のトータルを下げ、さらに、各社の技術を集結することで品質を上げ、これまでにない新たな造船所を創ろうと計画を始めたのが、震災から半年後でした」

みらい造船が2017年に完工予定の新造船所(イメージ)。“チャレンジ”を合言葉に新規分野に挑戦していく

造船業者として、果たすべき責務

5月に設立された新会社「みらい造船」は、吉田造船鉄工所、木戸浦造船、小鯖造船鉄工所、澤田造船所の4つの造船業者が合併し、さらに他の3社が出資して構成される。合併する4社はどれも歴史の長い造船業者だが、「たとえ自身の“看板”を失っても、気仙沼の造船業を残したい」と合併を決意した。

みらい造船の代表を務める木戸浦社長は、「造船業は、気仙沼の漁業、水産業の基盤となるものです。船を造る、保守することへの責任を放棄することは絶対にできない。それが、4社共通の想いです」と話す。

朝日町地区に建築予定の新たな造船所では、船を海から引き揚げる上架施設に「シップリフト方式」を採用する。シップリフト方式は、船をエレベーターのように垂直にリフトアップする。船を台に乗せて斜面を引き上げる従来の斜路式に比べ、船の横転リスクが軽減され、作業効率も格段に上がる。世界では、約400カ所で採用されている設備だが、コストの関係もあり日本では、みらい造船が3カ所目の導入となる。

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