2万4000店舗の巨大販売組織 郵便活用でビジネスを躍進

近代郵便制度の創設者である前島密は、イノベーティブな人物だった。彼に影響を受けた中島直樹氏は「小さな実験室」と「一点突破全面展開」という手法で、「郵便を活用する」をテーマに数々の新規プロジェクトを立ち上げている。

「日本郵便の父」に刺激され郵便事業の改革を決意

「郵便事業を再びイノベーティブな存在にしたい」。その強い理念のもと、日本郵便・常務執行役員の中島直樹氏は、数々の新規プロジェクトを立ち上げてきた。2001年に作成した目標シートに基づき、郵便の法人営業強化のためのアイデアを出し、実行するプロセスを重ねている。同氏の活躍に大きな影響を与えたのは、近代郵便制度創設者の一人であり「日本郵便の父」と称される前島密である。中島氏が1988年に福岡県の行橋郵便局長となった時、当時の郵便課長より前島密が著した「郵便創業談」という書籍を手渡された。内容は郵便創業時の裏話を記したものだった。

その書籍によると前島密が郵便を立ち上げ、おおよその全国ネットワークを構築するまでに要した期間はわずか3年。スピード感を持って実現していったポイントとして、4つの先見性があったと中島氏は話す。

中島直樹 日本郵便 常務執行役員

「1つ目は郵便という事業の本質を見抜いた先見性です。2つ目はユニークな財源の捻出法。予算を飛脚に払っていた費用の範囲内に抑えることを明治政府に約束し、資金を調達したのです。3つ目には、ユニークなネットワーク構築法があります。地方の名士に『郵便局長=国家公務員にならないか』と声を掛け、局舎と労働力を確保しました。4つ目には、抵抗勢力を協力者へと変えていったことが挙げられます。海外展開までを見越した構想を話して圧倒させ、郵便事業国有化の抵抗勢力である飛脚を郵便のパートナー(輸送手段)として活用しました」

初めは 「小さな実験室」で

このようにして郵便は、創業当時から革新的な事業として日本に浸透していった。その革新性は代引きサービス開始の時期からも垣間見ることができる。スタートは実に1896年であり、アメリカやイギリスの同サービスより早くから開始されている。

「少なくともこの頃まで、郵便はかなりイノベーティブな存在でした。しかしいつの間にか前島イズムとも言うべきスピリットが失われ、堅苦しくてスピード感に欠けるような組織になってしまいました。現状のままでは前島密に対して申し訳ないと感じ、2001年より自ら率先して様々な取り組みを始めました」

中島氏は郵便事業の特性に着目。生活者への窓口を持ち、物流も担っている郵便には多様な事業チャンスが秘められている。そこで、法人を支援する事業として、2つのサービスを軸に構想した。クライアント企業が消費者へ個別に広告を打つ「ダイレクトマーケティング」、通信販売において受注から商品の受け渡しまでを行う「フルフィルメント」である。法人営業を重ねながら事業化をし、活動をスタートさせた。

「郵便は従業員が40万人もいる巨大組織です。保守的であり、人の意識を変革していくのはとても難しいことでした。特に新規施策に対しては、なかなか柔軟な対応をしてもらえません。そこで私が取ったアプローチは『小さな実験室』と『一点突破全面展開』です。すべてを一度に変えるのではなく、まずはどこか一点だけに穴を開ける。どんな保守的な企業でも、少しの変化であれば受け入れてくれます。その実験の中で成功例を作り、徐々に別の場所へもシフトさせて全面展開へと発展させていきます」

文字通りの、最初の『小さな実験室』は、ローソンへの郵便ポスト設置だろう。2003年1月より実施され、好評を博した。同じくEXPACK(現レターパック)を2003年4月にスタート。どちらもサンケイリビング新聞社主催の「助かりました大賞」も受賞し、消費者に役立つサービスとなった。

民営化以降、郵便局での物販に力を入れ、品揃えも拡充した

全国2万4000店舗の販売拠点を活かす

「これからの日本において、ダイレクトマーケティングは一番必要なノウハウ」と話す。アメリカDMA(ダイレクトマーケティング協会)などと業務提携を行い、見識を育てていく中で、2008年2月には電通とともにダイレクトマーケティング専門の子会社であるJPメディアダイレクトを設立した。そこで中島氏はCEOに就任。2001年に構想した目標シートを作成して活動を始めてから実に7年で、希望とする会社の設立に至った。

さらに2013年の夏以降は、郵便局の物販ビジネスを担当している。それまでも地方の特産品を窓口で受け付け、自宅へ届ける「ふるさと小包」を行っていたが、商材のラインナップは制限されていた。民営化された2007年以降は品揃えを拡充し、取扱額も1000億円を突破した。

「郵便局でのカタログ販売は他に例をみないビジネスモデルです。郵便局にカタログやチラシを設置し、さらに対面で直接推奨販売を行い、ご注文の品物をご自宅にお届けするしくみ。扱う商材の幅を拡げていくと、さらに数字を上げられると考えています」

日本郵便は物流をメイン事業とする会社であるが、見方を変えれば全国に2万4000店舗の販売店という巨大ネットワークを所持している。「ふるさと小包では食材の印象が強いですが、これからは健康関連やアパレル、雑貨など商材を増やし、郵便局に訪れる顧客とのコンタクトポイントを活かしたビジネスを展開していきたいです」

郵便の特性は、企業や地域のマーケティング支援、商品販売の活路を見いだしてきた。さらに全国の店舗ネットワークを活かした次なる新規事業にも期待が高まる。

中島直樹(なかしま・なおき)
日本郵便 常務執行役員

新事業のアイデアを考え構想する
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