2015年7月号

MPDサロンスピーチ

日本版IHNモデルの創出 高齢者増加は成長へのチャンス

岩尾聡士(藤田保健衛生大学、名古屋大学 教授)

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先進国で唯一、後期高齢者が二次曲線的に急増していく日本。逼迫している財政にあって社会保障費の削減など悲観的な論調が目立つ中、日本版IHNという新しいビジネスモデル創出による経済成長への道筋が提言された。

医療・看護・介護を全てケアするモデルを作る

少子高齢化への危機感が叫ばれている昨今であるが、これは決して日本に限ったことではない。富を保有している先進国において一律に見られている現象である。しかしその中にあって日本独自の特徴が2つある。それは人口減少と後期高齢者の増加である。「特に75歳以上の後期高齢者に関しては、世界で日本だけが二次曲線的にものすごい勢いで増えていきます」と藤田保健衛生大学の岩尾聡士教授は話す。これを財政が圧迫されるというピンチとしてではなく経済成長への大きなチャンスと捉え、新たなビジネスモデルを創出することを同氏は提案する。「65歳以上から74歳までの前期高齢者と後期高齢者とでは明らかな違いがあります。75歳を超えると医療の世界に介護が入ってくるのです。後期高齢者の増加を機に医療・看護・介護をトータルで行うケアミックスモデルを作れれば、成功する確率が高いと思っています。日本は規制の厳しい国なので欧米の介護事業者や病院が参入できず、国内企業で構築できるという利点もあります。また日本が提供するサービスの質の高さは世界で評価されていますので、このビジネスモデルは世界の富裕層にも歓迎されるでしょう。この分野の新規事業は、世界的な企業にまで成長できる可能性が十分にあります」

藤田保健衛生大学、名古屋大学 岩尾聡士教授

閉塞した現状打破のため経営を企業のプロに任せる

岩尾氏の考えのバックボーンにはアメリカにて在籍していた国立老化研究所での経験がある。1980年代のアメリカはまさに今の日本と同じく財政赤字に苦しみ、社会保障はGDP比8%程度に抑えられていた。そこにハーバード大学教授の経営学者マイケル・ポーターなどが、「先進国で経済成長するには医療と介護しか手はない」と自説を展開。今では医療費がGDP比で20%を超え、さらに成長産業にするべく世界中へ大学病院を送り出している。一方、日本では現在、真逆と言ってもいい政策が取られている。

医療・介護費はどんどん削られているのが現状だ。例えば集合住宅にて患者を看る在宅診療について言えば、一年前の診療報酬改定で診療報酬が約4分の1にまで削減されている。「これはビジネスを否定するに等しい」と岩尾氏は指摘する。今後、中規模の病院は年々キャッシュが不足していき、また介護保険の減少から中小介護事業者の利幅も減っていくことが予想される。これからは医療と介護の大混乱時代が到来するのだ。

「日本の医療サービスのレベルはアメリカに次いで世界2位と高いものですが、まったくの内向き産業で輸出できるようなものになっていません。その分野に資金が流入せず逆に国によって抑えこまれようとされているのが現状です。この状況を打破していくためには、『所有』と『経営』と『管理』を分離した新しいモデルを作ることが必要だと思っています。つまり所得の分配の仕方を変えるのです。オーナーにリスクを取らせる代わりに、利益もきちんと取らせる。フランチャイズのような仕組みといってもいいでしょう」

そこで岩尾氏が現在在籍している藤田保健衛生大学地域老年科では、長寿包括ケアクリニックと呼ばれる在宅診療の臨床・教育・研究を一体として行なう付属診療所を今年4月に開設した。これは岩尾氏が2014年5月に菅内閣官房長官へ政策提言した「高齢者を街全体で看守る」実証モデルの推進施設となっている。

「いわばサービス付き高齢者向け住宅です。診療所内には24時間体制で医師と看護師がいます。また訪問介護、訪問看護ステーション、デイサービスといった他職種との連携もできており、プライマリーケアのための医師の育成もしています。現状は所有と経営、管理をすべてやっておりますが、横連帯を速めるために経営の分離もしていく予定です」

確立したビジネスモデルをゆくゆくは世界へ輸出

今後は特に都市部での後期高齢者の増加が懸念されている。老々介護や独居老人の問題など高齢者を見守る現場づくりが急務とされている中、社会保障費は削減され続け医療・介護業界は疲弊する一方だ。そこで企業出身のプロの経営者に経営を委ね、潤沢に医師や看護師が在籍している大学病院を中心とした日本版IHN(Integrated Healthcare Network)を作るべきだと岩尾氏は提言する。

「介護事業に手を出して失敗している企業もありますが、それは専門家不在の素人考えで行なったからだと思います。企業にとっては医療・介護の経営に携わることで税制優遇制度や遊休地の活用にもなります。アメリカの医療クラスターでは、1兆円規模のものに対して周辺産業の市場が2.2兆円できています。日本でもある程度の規模でIHNが作れれば、配食や冷凍食品、掃除、洗濯といった付帯産業が活性化するでしょう。つまり医療や介護を中心として重要なインフラサービスを提供する生活総合商社を作るという発想なのです。さらにデータマイニングによって、付加価値の高い新産業の創出も可能になると考えています」

IHNのモデルを成功させたとしてもこれまでのように所有・経営・管理を病院がすべて行っていれば、保険の問題がありビジネスモデルを海外へ持ち出すことは困難だ。そういった意味でも3つを分離することに意義がある。どこの国でもお金を持っているのはシニア世代。そこに向けて安心で安全なサービス産業をグローバルに展開していく。悲観的な観測が目立つ国内状況において、医療や介護にこそ希望があり、新しい事業チャンスとなりうるだろう。

長寿包括ケアフォレスト IWAOモデル

所有・経営・管理を分離したモデルを形成し、全国・世界展開

出典:岩尾聡士氏講演資料より作成


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