福島の「産業構造転換能力の高さ」に期待 非連続的な成長で実績

戦後の社会資本整備がもたらした製造業の集積などによって、「歴史的な逆境」を乗り越え、成長を遂げてきた福島県。さらには、環境変化に対応し、「非連続」の構造転換を実現する能力の高さも成長を支えている。
文・嶋田淑之 自由が丘産能短大・教員、文筆家

 

万葉集にも詠われた美しい土地~「うつくしまふくしま」

「智恵子は東京に空が無いといふ、 ほんとの空が見たいといふ。(中略) 智恵子は遠くを見ながら言ふ。阿多々羅山の山の上に毎日出てゐる青い空が智恵子のほんとの空だといふ。あどけない空の話である」(1928年5月)

高村光太郎の「智恵子抄」に詠われた名山・安達太良山(阿多多羅山)は、7~8世紀に編纂された「万葉集」に早くも登場する。福島県は、古来、自然の美しさで広く知られ、愛されてきた土地である。「うつくしまふくしま」と称される所以であろう。

東京から約250km圏に位置し、首都圏に隣接すると同時に、東北地方の玄関口に当たる。また、太平洋に面すると同時に、日本海へのアクセスも容易であるなど、地勢的に見て、経済発展上、有利な位置にある。

県土は、奥羽山脈と阿武隈高地に挟まれる「中通り」(人口約50万人)、太平洋と阿武隈高地に挟まれる「浜通り」(人口約115万人)、奥羽山脈と越後山脈に挟まれる「会津」(人口約28万人)の3地域に分かれる。各地域は、歴史・気候・自然条件・風土・産業などにおいて独立性が強く、それぞれ、近接する他県との間で「広域経済圏」を形成している点が特徴である。

歴史的特殊性として注目されるのは、幕末、戊辰戦争で朝敵とされた会津藩の赦免嘆願を目的に、福島の各藩を中心に奥羽越列藩同盟を結成したことで、政府から厳しい処分が下され、それが明治以降の県土開発の遅れを招いたとされる点である。

特に、重工業の振興に関して、日本政府は、4大工業地帯、北海道、朝鮮・台湾などを優先し、福島県を含め東北地方を除外したため、同県経済は著しい停滞を余儀なくされたという。その影響は深刻を極め、戦後の高度経済成長期に至るまで、首都圏への労働力人口の大量流出(「金の卵」の集団就職、「出稼ぎ」など)が続くことになった(そうした傾向は現代まで続く)。

しかし、そうした歴史的逆境にも拘わらず、福島県が日本の経済発展に大きく寄与してきた点は特筆される。

福島県は、3地域に分かれる

“歴史的逆境”を乗り越えて日本経済発展に貢献

福島県は“日本最大の発電県”である。

「会津」北部から西部の山岳地帯は、日本有数の豪雪地帯であり、その融雪水と落差を利用した水力発電が盛んだ。とりわけ、戦後、「只見特定地域総合開発計画」により、阿賀川(下流は阿賀野川)水域に多くの水力発電所が建設され、福島県は、日本を代表する電源地帯として、長年にわたり、日本経済発展の中核としての首都圏の電力需要を支えてきたのである。

水力だけではない。かつての常磐炭鉱を基盤とした「いわき」地域の火力発電所群や、あの東京電力・福島第1・第2原発もまたそうである。そして今や、風車33基を備え風力発電所として日本最大出力を誇る「グリーンパワー郡山布引」、地熱発電所として同じく日本最大出力の「柳津西山地熱発電所」などが大きな期待を集めている。

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