プロトタイピングで未来の情報を獲得する「実験力」

現場での「実験」は持続的に社会に受け入れられる事業の構想に不可欠である。「プロトタイピング」を通じて顧客と共創し、実践的な情報と手ごたえが得られる。効果的な事業構想の「実験」のために必要な考え方と方法とは?

事業構想と「実験力」

失敗などしていない......
うまくいかないやり方を一万通り見つけただけだ

-トーマス・エジソン-

11月号の連載において、フィールドリサーチをおこなうことは、事業構想家の必須要件であることを記した。事業の構想には、頭の中だけにとどまらない、現場での実践的な検証が不可欠だからである。クレイトン・クリステンセンが『イノベーターのDNA』で説いているように、「実験力」は自分が構想したアイデアが本当に社会でうまく機能するのかを調べるために必要な能力である。意思決定のために収集されるデータの多くは過去のものであり、聞き取りで得られる情報は現在の情報である。実験は、自分のアイデアや仮説が本当にうまくいきそうかどうかを予測するための最適な情報と判断の根拠を与えてくれる。

また、「実験」にはたんに検証するという以上の意味が含まれている。たとえば、実験的な取り組みの場合には、通常とは異なる方法での実施がなされたり、まったく新しい発想や経験が得られるものとなったりもする。「実験」という限定的な状況を通じて、大胆な取り組みや変化をみることができるのも「実験」の良さである。「実験」とは新規性の高い取り組みが許容される場であると同時に、自分の構想の根拠を与えてくれるものである。「創造性」と「合理性」の交わる結節点、そこが「実験」というプロセスである。

冒頭のエジソンの言葉にあるように、発明やものづくりにおいては、「実験」がひじょうに大事にされてきた。あたらしいものを形づくり、それを実際に試してみることで、成功と失敗を判別することができる。「実験」こそ新しいものをうみだすプロセスであった。実はこの流れが、新しいビジネスやサービスの開発にも迫っている。リーン・スタートアップやデザイン思考などがその例としてあげられるだろう。そして事業構想においても「実験的」アプローチはひじょうに有効な手段である。

出典:Eric Ries“The Lean Startup”

プロトタイピングの思想

リーン・スタートアップやデザイン思考における「実験」は「プロトタイピング」と表現されている。「プロトタイプ」とは、デモンストレーション目的や新技術・新機構の検証、試験、量産前での問題点の洗い出しのために設計・仮組み・製造された原型機・原型回路・コンピュータプログラムを指しており、新しいものをかたちにすることで表現されたものである。リーン・スタートアップやデザイン思考においては、サービスやビジネスモデルをプロトタイプとして表現し、かたちにすることで、評価や学習、改善につなげることを目的としている。

リーン・スタートアップは、エリック・リースが“The Lean Startup”の中で提案し、シリコンバレーの起業手法として注目を集めている手法である。その基本コンセプトは、初期投資を低く抑えながら、最低限の機能を持った製品(Minimum Viable Product)をつくり、それを少量の顧客で試し、反応を見ながら、継続か、転換かを決定する方法である。

小規模な投資からスタートするので、顧客の反応が悪いときはすぐに軌道修正をおこなうことができる。また、顧客の声を製品・サービスを介して聞くことができるので、より直接的な製品やサービスへのフィードバックを得ることが可能である。軌道修正の方法としては、

  1. ・ズームイン型機能を絞って提供する
  2. ・ズームアウト型大きな製品の一機能に変更する
  3. ・顧客ニーズ型初期想定とは異なるニーズに焦点をあてる・事業構造型事業の構造を変革する
  4. ・チャネル型販売や流通のチャネルを変える
などがある。

リーンという言葉は、もともとトヨタの経営手法を米国が概念化した“Lean Management”に由来する。Leanは“スリムな”という意味であるが、トヨタがおこなっていた、製造工程におけるムダの排除から、製品および製造工程の全体にわたってトータルコストを系統的に減らそうとする経営手法を体系化したものである。リーン・スタートアップは、スタートアップにおいて、プロトタイピングを続けることで、徹底的な無駄な排除と顧客からの直接的なフィードバックによって改善を続けるモデルであり、その背後には日本的ものづくりが見え隠れしている。

一方のデザイン思考でも、プロトタイプは最重要項目といえるほど重要な項目である。デザイン思考では、問題への共感、問題定義、アイデア創出、プロトタイプ、検証というステップを何度も回すことで課題解決に近づいていく。

デザイン思考の中では、プロトタイピングの意義として、以下のようなものが述べられている。

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