未来思考でうみだす事業構想

人口減少、高齢化、グローバル化と大きな変化が急速に進む時代。変化に対応するには自分自身の思考の枠を取り払って未来を思考することが求められる。未来から考えると、意外と簡単に既存の考え方や行動を打ち破ることができる。

アラン・ケイが1972年に描いた未来の教育の姿(出典: Alan Kay 1972 A Personal Computer for Children of All Ages.)

なぜ未来から振り返るのか

前回までの3回の連載を通じて、事業構想学の基盤として未来学が重要であること、事業構想大学院大学は、事業を構想する場として未来センターに通じていること、さらに発・着・想において自分自身の思考の枠を取り払う方法として未来思考が考えられることを述べてきた。今回は、その未来思考という思考方法についてさらに詳しく述べていきたい。未来思考とはどのようなもので、どのように行われるのだろうか。そして、未来思考は何をうみだすのだろうか。

近年、未来思考の一種であるバックキャスティング(Backcasting)という方法が注目を集めている。バックキャスティングは、予測・フォーキャスティング(Forecasting)と異なり、求められる理想の未来像から現在を眺める方法である。未来像、あるいは理想の状態から現在の課題を認識するという方法自体は、ギリシア哲学をはじめ、昔から存在しているが、この方法をバックキャスティングと名付けたのは環境学者であり、未来学者であったJ.Robinsonである。その後、スウェーデン、カナダ、オランダなどを中心に、エネルギー政策や環境政策の分野で広く活用されるようになった。

環境やエネルギーの課題は、課題解決ができなかったときの負の影響がひじょうに大きく、最悪のシナリオを避けるために未来からの逆算であるバックキャスティングが重視された。近年はその他の政策や経営にも導入が進んでおり、イノベーション創出や新しいアイデア立案に未来思考を使う際のひとつの標準的な形となっている。

バックキャスティングの狙いは何だろうか。それは、長期の視点で理想的な目標設定をおこなうことで、場当たり的な解決策でお茶を濁すのではなく、本質的な解決策を模索することである。これは事業構想においてもひじょうに有益な考え方であり、生活者・社会の課題や必要性に取り組むのが「理想の事業」であるならば、その構想は長期にわたって貢献する本質的な事業である必要があろう。

特に、少子高齢化、グローバル化、IT化によって社会のあり方や個人のライフスタイルが劇的に変化しつつあり、その変化を追わずに本質的な解決策となる事業構想をたてることは不可能である。

イノベーターの思考法

未来思考が長期的な課題の解決に有効であることはおそらく皆の納得を得ることができると思う。われわれは創造的思考法の一部として未来思考を取り上げているが、イノベーションの創出やアイデア発想法としても有効なのだろうか。

創造的な思考法を訓練するのは容易なことではない。たとえば、創造性のトレーニングに関して長年取り組んでいる芸術系大学院での教育(Masterof Fine Arts)では、創造力の醸成のために芸術理論の習得と徹底した製作活動、批評による改善をおこなっている。「守破離」の「守」を徹底的に叩き込まれたうえで、卒業制作において「破」を求めるというのが一般的な流れである。事業構想における創造的思考法のトレーニングも、まずは事業構想家の思考プロセスを模倣し、様々な構想をしてみることが「守」であろう。では事業構想家の思考プロセスとはどのようなものであろうか。その一つのかたちが未来思考である。

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