2014年6月号

事業構想学を構想する

未来を構想する「場」づくり

事業構想研究所 実践知研究センター

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異なった組織や立場の人々が、未来志向で創造的な対話をおこなう場として、近年「フューチャーセンター」が注目されている。価値の高いアイデアを生み出す「場」づくりとはどのようなものか。

「Dialogues house」はオランダ最大の銀行が開設した民間のフューチャーセンター。かつてのディーリングルームを活用

創造的な対話をおこなう「場」
フューチャーセンター

前回、私たちは「未来学」が「事業構想学」の基盤になると説いた。未来志向(思考)こそ、事業構想を先導するキー・ファクターであると考えているからである。その「未来」つながりというわけでもないが、今回はまず、最近わが国でもしばしば耳にするようになった「未来センター(Future Center)」の話からはじめようとおもう。

フューチャーセンターとは、異なった組織や立場の人々がその組織や立場を離れ、自由に関係性を形成し、未来志向で創造的な対話をおこなう「場(ba)」である。人は誰しも、過去や現在について議論すると、しがらみや利害の虜となってしまう。

しかし未来や夢について語りあうとき、人はみな創造的になりうるものである。フューチャーセンターが、未来について語る場としてみずからを定義する意味がここにある。

物理的には、創造性が生まれるよう空間デザインに工夫をこらした施設などをさす場合が多い。壁一面を使ってブレインストーミングが出来る空間や議論を活性化させる会議場、その結果を見える化する空間などが一例である。そういった工夫もさることながら、フューチャーセッションと呼ばれる創造的議論の進め方などむしろソフト的なしくみが重要といわれている。

このフューチャーセンターという〈新たな場〉の概念を提唱したのは、現在、スウェーデンのルンド大学教授をつとめるレイフ・エドビンソンであり、1996年、当時彼が所属していたスカンディア保険会社が創設したSkandia Future Centerが最初とされている。

その後、オランダ政府やデンマーク政府、イタリアのテレコム・イタリアなどがつぎつぎにフューチャーセンターを開設していった。なかでもオランダは熱心で、国税関税執行局のShipyard、道路水管理庁のLEF、ABNアムロ銀行のDialogues Houseなど有名なフューチャーセンターが多く存在する。

「LEF」は欧州最大のフューチャーセンター。座敷を思わせるようなリラックスした対話空間だが、随所にハイテクも駆使されている

興味深いのは、フューチャーセンターの源流には、わが国の野中郁次郎らが提唱した知識経営(Knowledge Management)論がある点である。ba(場)という概念が、そのまま通用しているのもそのためである。しかしながらわが国でフューチャーセンターが創設されたのは2007年になってからであり、富士ゼロックスのKDI(Knowledge Dynamics Initiative)Future Centerが最初である。

その後、増加の一途をたどり、現在では欧州におよそ40ヶ所以上のフューチャーセンターがあるとされている。日本に関しては、物理的空間をともなったものが8ヵ所ほどあり、それ以外にも約30程度の組織がフューチャーセンターの機能をもっているとされる。さらに、未来について、多様なメンバーで対等に考える「フューチャーセッション」に関しては、全国各地で数多く開かれており、新しい問題解決手法として定着しつつある。

このようにフューチャーセンターにはさまざまな形がある。運営主体は、企業であることもあれば、官公庁やNPOの場合もある。異なる省庁のスタッフが参加して、組織の枠組みを超えるようなセンターもあれば、より広く市民が参加するような場合もある。

共通しているのは、利害関係者のみならず多様な主体が参画し、日常とまったく異なる関係性に気づくことで、新しい課題解決や理解の共有が進んでいく点に重きをおくことである。多様な利害関係者がいる公共的な問題や業界の枠組みを超えたイノベーション創出などがその主な目標であった。

「Shipyard」は国税関税執行局が所有するフューチャーセンター。 徴税方法や税金の使途などについて職員が部署横断的に、ときには納税者も交えて対話や議論をおこなう

異分野の視点が思いがけない新しいアイデアに

フューチャーセンターは未来志向の「場」であるが、そこで語られているキーワードは、「イノベーション」「知識創造」「未来志向」「ネットワーキング」「人材開発」「教育」「結果の定着」などである。未来志向のセッションで人々が語り合い新しい技術や知識をつくりだす。それらを定着させるための人材開発の拠点となるのがフューチャーセンターなのである。

この根本には、「共創」こそイノベーションの源泉であるという考え方がある。佐々木正博士(シャープ元副社長)は、「自分のアイデアを多くの人と共に育てていく姿勢が重要であり、独創的な発想ができる人間が何人も集まって意見を交換すれば、そこで発揮される創造性は、何倍にも膨らんでいく」と、人があつまってアイデアを創りだす重要性をはやくから指摘している。

近年、ますます個々の専門や業界が分化し、複雑化していくなかで、自分の分野の視点だけで新しいアイデアを生み出すことは難しくなっている。異分野の人材の視点、生活者としての視点は思いがけない角度でものごとを考えるきっかけを与えてくれ、新しいアイデアにつながることがある。

専門家によるアイデアとたくさんの異分野の個人による集団のアイデアを比較すると、異分野による集団のアイデアの方が創造性の点ですぐれているという研究成果も見られる。

また、サービス産業では、価値を顧客と提供者の間で「共創」する関係にあるが、フューチャーセッションに生活者が入ることで、そこから生み出されるアイデアはそもそも生活者にとって価値の高いものに仕上がることになる。

単に、枠をとりはらったアイデアを出すということだけでなく、その後のアイデアの実施に向けてもフューチャーセンターの役割は大きい。フューチャーセンターでの活動を通じて、このような未来をつくりたいとともに考えることで、人々は現在の利害をこえて繋がることができる。

新しいアイデアであればあるほど、多くの人々の協力が不可欠である。多様な価値観や利害関係をもつ人々のあいだから生まれた理想は、アイデアを実行していくうえで人々を動かす重要な物語になる。

「共創の場」は日本文化と
親和性が高い

ここまでフューチャーセンターについて紹介してきたが、実はその未来はけっしてバラ色というわけではない。たしかに日本ではこれからも増える勢いだが、ヨーロッパではすでにブームは一息ついていると指摘する人もいる。そのもっとも大きな理由は、フューチャーセンターの根本原理ともいえる「場(ba)」の概念自体がきわめて日本的であるからではないだろうか。

その基本原理である「共創の場(ba)」は実は日本文化と親和性が高い。日本文化の原型が形成されたのは室町期であると多くの知識人が指摘しているが、この室町文化こそ「共創の場」による文化なのである。連歌、俳諧、能、華道、茶道などのみなもとは室町時代の社交の中ではぐくまれたものだ(この社交サロンの中心人物の一人が、とんち話でおなじみの一休和尚である)。

茶道には「主客一体」という言葉があり、主(ホスト)と客が対等になって、共にその「空間」と「時間」を楽しむとされている。多人数で歌を詠み合い、ひとつの作品とする連歌などまさに共創の産物である。いちやく流行語となった「OMOTENASHI」の源流も室町文化にある。

そのためフューチャーセンターがいう「場」の創出は、日本文化に親しんだものには実は非常に受け入れやすい部分がある。ヨーロッパでのフューチャーセンターによる場づくりが一息ついてるのは、文化的な隔たりがあるからではないかとおもえてならない。

われわれ日本人にとって、場は生まれるものであって、人工的につくるものではない。むしろ、自然と生まれるように「しつらえる」のである。われわれの祖先が長い歳月をかけて磨き昇華させてきた有形無形の文化遺産をいかしつつ、日本発のフューチャーセンターを形にしていくことが今後、求められているのだとおもう。

アイデアを生み出す「共創の姿勢」

事業構想の場も「共創の場」である。事業構想の場も未来をつくりだす場であるが、フューチャーセンターとは同じものではない。フューチャーセンターの要諦は、つながりを構築することで創造的なアイデアを生み出すインフラをつくりだす点にある。これは事業構想サイクルでいう「発・着・想」のためのしかけである。

現実の属性を忘れ、自由な発想をすることで創造性を導き出す。しかし、けん引する主体がないために、だれが発想を形にしていくのかというしかけは不十分であった。

近年、フューチャーセンターはイノベーションセンターやLiving Labというユーザが開発過程に参加するしくみとの連携をはかるものが増えてきている。

また、たとえば、日本の「mass × mass」などのように社会起業家を支援するしくみとフューチャーセンターがセットで設立され、フューチャーセンターでの取り組みを社会ビジネスとして実行するシステムづくりもめざされている。

横浜にある「mass × mass」は、インキュベーション機能を持ったフューチャーセンター。社会起業家、クリエイター、アントレプレナーなどが集まりフューチャーセッションに取り組んでいる
写真提供:mass × mass

事業が続々と生み出される場といえば、多くの人がハイテク産業のメッカであるシリコンバレーを思い描くのではないだろうか。シリコンバレーがイノベーションを生み出す理由については多くの分析があるので詳述しないが、スタンフォード大学を中核として多くの起業家精神を持った人が集まったことが何よりも重要である。

シリコンバレーという地理的な場所ではなく、起業家を支えるオープンな場が生まれたことが多くの事業を生み出していった。シリコンバレーの成功を模倣しようと、イノベーションのために地域に知的資源と組織体を集め、それを支援する制度設計をおこなう地域クラスター政策も非常に活発におこなわれている。

しかし、ただ集まればそれで有機的な共創が生まれるかというと、それほど単純な話ではない。人と人、そのつながり、そしてなにより文化の存在が不可欠である。

事業構想の場も多くの事業構想家が集まるところに生まれる。そこは「共創の場」であるから多様な価値観やバックグラウンドを持った人々と企業家、研究者が「主客一体」で対話をおこない、アイデアを深めていく。そこに「未来志向」「共創」にねざした文化をつくりだす必要がある。そして、おのおのの事業構想家は共創しながらも自分自身の事業構想を検証し、計画し、世に問うていく。そのための持続的な場づくりが必要である。

フューチャーセンターとしての
事業構想大学院大学

おそらく、事業構想大学院大学こそ「事業構想の場」とならなければならない。起業を志す人、事業を承継する人、企業や官公庁で新規事業を担当する人、地域活性をめざす人、年齢もバックグランドも異なる人々が事業構想という志をもって集まる場所なのだから。

事業構想の場の機能を明確にし、教育と実践の同期をとることができるよう、今年度、われわれはカリキュラムの大幅な改訂にふみきった。前回ご紹介した発・着・想→構想案→フィールドリサーチ→構想計画→コミュニケーションという事業構想のサイクルを中心にすえたカリキュラムである。

ただし、これらはあくまで、その場に臨む前に身につけておくべき「型」ないし「作法」にすぎない。それゆえ、ひとたび事業構想の現場に身をおいたときには、縦横無尽、融通無碍に守・破・離があってよいと考えている。たいせつなのは「共創の姿勢」である。志を持った事業構想家が、アイデアを共に生み出し、多くの対話の中でアイデアの手ごたえを感じ、構想を練り上げていく。

こうした点をしっかりと押さえたうえで、いよいよ次回から各論へと分け入っていくことにしよう。まずは難敵、「発・着・想」からである。(KN)

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