2014年4月号

防災を変える技術とアイデア

SNSの「助け合い」を設計

関 治之(Georepublic Japan CEO / Code for Japan 代表)

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地震発生のわずか4時間に立ち上がった復興支援サイト「sinsai.info」。その陰には、オープンソースのコミュニティに参加する技術者たちの奮闘があった。草の根のネットワークが、現在も、防災のあり方を変え続けている。

Georepublic Japan CEO / Code for Japan 代表 
関 治之

震災の記憶が、メールやインターネットの情報とともにある人は多いだろう。東日本大震災では、ツイッターなどソーシャルメディアが大きな威力を発揮した。電話が不通になる中でも、インターネットがライフラインとして機能し、安否確認などで貴重な連絡手段となった。しかし同時に、デマの拡散や必要な情報が埋もれてしまう問題など、多くの課題も残した。

そうした課題を乗り越え、ソーシャルメディアの潜在力を活かした取組みの一つが、復興支援プラットフォーム「sinsai.info」だ。「sinsai.info」では被災地の地図を参照し、その地域のレポートを読むことができる。レポートは直接、ユーザーから投稿されたものではなく、「モデレーター」と呼ばれるスタッフの検証を経て掲載される。

モデレーターが、ツイッターやウェブサイト、メールから投稿・収集される情報の内容を確認することで、デマなどを極力排除する仕組みなのだ。

震災時、ツイッターなどソーシャルメディアが大きな脚光を浴びた

技術者コミュニティの底力

「sinsai.info」が立ち上がったのは、地震発生のわずか4時間後。総責任者を務めた関治之氏は当時、ヤフーの社員であり、自由な地図情報の発展を目指すコミュニティ「オープンストリートマップ・ファウンデーション・ジャパン(OSMF Japan)」に参加するなど、社外での活動にも積極的だった。

「sinsai.info」が迅速にスタートしたのは、こうした技術者コミュニティの存在が大きい。地震直後からOSMF Japanのメンバーは活発にメールのやりとりを行い、「自分たちにできることは何か」を模索していた。

このとき、突破口となったのは、ハイチの地震を知るメンバーの提案だった。ハイチの地震では、オンライン地図上で情報の検索・発見を容易にできるオープンソース・ソフトウェア「Ushahidi(ウシャヒディ)」が利用されていたのだ。

関氏は3月11日の夕方、歩いて帰宅しながらメールをし、日本版「Ushahidi」の構想に積極的に関与していく。

「ハイチで使われたのなら、日本でも同じことができると思ったんです。日本向けに改善するにあたって、スキル的に対応できたのが私でした」

関氏は家に帰ってすぐにPCに向かい、作業に没頭。「sinsai.info」をつくりあげた。

「このシステムがどれくらい広まるかは、正直、わかりませんでした。ただ、誰かの役には立つんじゃないか、そんな思いでした。開発にあたっては、自分1人の力では手に負えない部分も多かった。協力者を募集したら、ツイッターなどですぐに数十名のエンジニアが手を挙げてくれました」

「sinsai.info」には、位置情報付きのレポートが数多く蓄積。ユーザーは地図を参照し、必要な地域の情報を収集することができる

人の協力を引き出すシステム

関氏は、翌日以降もほとんど寝ずに作業を続けた。システムを止めるわけにはいかず、会社も休むことを許してくれた。

結果的に「sinsai.info」は1万以上のレポートが蓄積され、1ヵ月間のPV(ページビュー)は100万にのぼるなど、成果をあげた。被災地支援に入るボランティアが、地理的に、どこで何があったのかを把握するときに使われることも多かったという。「sinsai.info」は、被災地との情報ギャップを埋めるうえで、大きな役割を果たしたのである。

「sinsai.info」の登録ボランティアは200名以上になり、活発に活動したメンバーだけでもモデレーター約30名、開発メンバー約20名にのぼる。

「協力してもらううえで、仕組みづくりの重要性を痛感しました。良い形のシステムをつくると、いろんな人が助けやすくなる。漠然と助けてくださいといっても、何をしたらいいのかわからない。草の根の人たちと協力し合うには、きちんとしたワークフローやマニュアルを整えて、方向性が示すことが大事だと学びました」

防災を変えるオープンデータ

一方で関氏は、ソーシャルメディアの限界についてこう語る。

「本当に困っているときに、ツイートしている余裕はないでしょう。本当に必要な情報が、ツイッターにはあがっていない可能性があります。sinsai.infoでは、現地のボランティアセンターの人に直接投稿してもらえたら、もっと良かった。全員が使えなくてもいいから、拠点となるボランティアセンターや防災センターには、情報発信の担当者を置いて、緊急時の発信を仕組み化しておくのも有効だと思います」

長年、ソーシャルメディアの活用においては、デジタルデバイド(情報格差)が課題として指摘されてきた。

「人を含めたソフト面で、できることはたくさんあります。最近でもLINEを使っているのは若い人が多く、世代間でツールのデバイドが生まれているように、ツールの進化だけで解決するのは難しい」

関氏は現在、オープンデータの活用に向けた取組みに力を入れている。それは、「sinsai.info」を手掛けていたときに感じた課題ともつながっている。

「行政には、多くの活用されていないデータが眠っています。たとえば、sinsai.infoをつくっていたときも、避難所のデータは、各市町村のウェブサイトで有ったり無かったり。防災を考えるためには、人口分布、ハザードマップなど、さまざまなデータが必要になる。それらを組み合わせることで、新しい知恵が生まれるかもしれない。データが公開されることで、新しいアプリが生まれ、各地域のコミュニティづくり、自治体との連携・課題解決も進んでいきます」

現在、国の方針もあって、オープンデータに取り組む自治体は少しずつ増えている。人とのつながりを活かし、地域の課題をテクノロジーで解決する。それは行政なども巻き込みながら、新たな変化への胎動となっている。 

<b>関 治之(せき・はるゆき)</b> 関 治之(せき・はるゆき)
Georepublic Japan CEO / Code for Japan 代表
1975年生まれ。ソフト開発やウェブサイト制作会社を経て、2006年シリウステクノロジーズ(後にヤフーに吸収)入社。東日本大震災発生直後にサイト「sinsai.info」を立ち上げ、仲間とボランティアで運営。11 年から自身の会社、Georepublic Japanに専念。テクノロジーを利用したオープンガバメントを支援する、Code for Japan の代表も務め、地域課題をテクノロジーで解決するために活動している。
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