地域の個性を核に自立へ

これまでも人口減少に端を発する諸問題に対して、地域活性化の政策が実施されてきた。しかし、今回の「地方創生」は、従来と全く違う取り組み姿勢が求められる。石破大臣に、地方創生政策の基本理念を伺うとともに、このチャンスを活かす考え方を聞いた。(聞き手は、編集部)

 

石破 茂(地方創生担当大臣)

地方は自ら稼ぐ力を身につけ、中央に頼らず自立していく。
食料・エネルギー「自給力」が重要。

――石破大臣は、地方創生の国の基本姿勢として、「熱意と創意工夫のある自治体を国は、全力で支える」と仰られています。特に補助金などに頼らない、地域の「自立」がポイントであると、たびたび、ご発言されています。

まずは、時代が変わったということがあります。私は昭和32年生まれで、中学を出るまでは鳥取で過ごしていました。先日、同級生とも話したのですが、中学・高校時代の鳥取は、それは賑やかで楽しかったものです。駅前も賑わっていて、商店街はシャッターなど下りていなくて、観光バスも沢山来ていました。鳥取砂丘や山陰海岸はもちろん農山漁村でさえも、夏休みやゴールデンウィークは賑やかだったよな、とノスタルジックな話をしていました。当時は、新幹線は東海道のみ、高速道路は名神と東名しかなく、飛行機も幹線しか飛んでいなかった。それなのになぜ、あの頃は日本全国、同じように賑やかで楽しかったのでしょうか。

当時は、公共事業と企業誘致が盛んでした。道路、下水道、港湾がどんどん整備され、日本国中に家電や自動車関連を中心とする多くの工場ができ、雇用が生まれました。それが、我々が育った昭和40年代だったわけです。比べて現在はどうでしょう。私も自民党の政調会長や幹事長を務め、北海道から沖縄まで多くの地方に行きましたが、日本国中同じように発展したあとは、これまた同じように寂れていったのではないでしょうか。駅前はがらんとして、あるのは飲食店だけ。メインストリートであった商店街はほとんどシャッターが下りている。農山漁村は疲弊し、工場跡地が広大な空き地として残っているという、どこも同じような景色になってしまいました。

私の父は建設省の事務次官から鳥取県知事になりましたが、当時は地域の実情を把握した上で、東京で顔が利き、公共事業をとってくる、あるいはコネクションがあって企業を誘致できる、という人が「辣腕首長」と呼ばれた時代だったと思います。そうやって地方に雇用を生み所得を生んできた、ということです。

その頃から40年、いま国の借金は約1000兆円に膨らみ、人口も減っています。その時代につくった公共建造物は老朽化しており、維持修繕をしなくてはなりませんが、かつてのように、全国同じように公共事業を行って雇用や所得を創出することは、もはやできません。

地方「再生」という方がいらっしゃいますが、いま我々がチャレンジしているのは「創生」、クリエイションです。今まで地方が発揮してこなかった、時代にあわせて変革してこなかった第1次産業や地域のサービス業の持つ潜在力を最大限に引き出す試みです。これは、中央の力でどうこうするものではありません。それぞれの地域が自らの創意工夫によって活力を取り戻すのです。価値を付加し、コストを低減し、生産力を上げ、それぞれに合った方法で、自らの地域を活性化していくことこそが重要です。地域が中央から何かを「もらう」のではなく、自ら稼ぐ力を身につけ、中央に頼らず自立していく。そしてそれによって日本全体を創生する。そういう事業なのです。

――地方創生で、特に「自立」という意味において、重視する分野は何でしょうか。

たとえば、円が高くなると「円高で国が潰れる」と言われ、円が安くなると「円安で国が潰れる」と言われますよね。一体どちらが本当なのだ、と言いたくなりますが、ある意味どちらも本当なのです。つまり、食料やエネルギーといった国家が存立していくのに必要不可欠なものを、金さえ出せば外国から買える、所与のものだと多くの人が思ってきた。そして外国に依存したままここまでやってきた。だから、為替がふれると食料やエネルギーが大きな影響を受けるわけです。こういった部分で、国家として自立できる範囲をもっと広くしていかないと、この先の日本が存立していくことは難しいと思っています。

安全保障は防衛だけではなく、食料やエネルギーも重要な要素です。農林水産分野の仕事にも長く携わってきましたが、農林水産副大臣を務めた15年前から、日本に大切なのは自給「率」ではなく自給「力」なのだとずっと思ってきました。また日本は、バイオマス、風力、太陽光などの再生可能エネルギーについても様々な条件に恵まれているので、それをフルに活かしていくことが必要だと思っています。

――今回の地方創生は、今までの地域活性化政策と比べ、何が違いますか。

今度の取り組みは、ある意味で自治体間の知恵比べになります。それは、首長同士のものであり、その地域に住む人々同士のものでもあるわけです。今まではどちらかというと「格差のないように」「一律に」というのが施策の理念だった部分が否めませんが、今回はもう正々堂々と各々の地域の個性を最大限に発揮し、それぞれの地域にしかないものを核として自立していく、ということを理念としていきます。

ですから、地方から中央に対して「何かください」みたいなことは、発想として無くなるのだと思います。よく最近言われるように、「ないものねだりから、あるもの探しへ」ということですね。

――あるもの探しも、地域に人材がいて初めて可能になると思いますが、地方創生では、人材についてはどのようにお考えでしょうか。

私が不勉強だったせいかもしれませんが、鹿児島県鹿屋市の「やねだん」の豊重さんや、島根県大田市の「中村ブレイス」の中村さんのような、地域で活躍するリーダーを、この仕事に取り組んで初めて知りました。もちろん地域活性化という分野ではとても有名な方々ですが、まだ日本国中が「やねだん」を知っているわけではないと思います。しかし、そのような優れた人材が地方にいらっしゃるということは事実なのです。

月刊「事業構想」を読んでいても、たとえば京都市の取り組みはものすごく面白いですよね。市営地下鉄のダイヤの組み方や、大学の活用の仕方を、アイデアを出して工夫する人材がおられる証拠でしょう。こうした事例をもっと世の中に発信して、それを好例として自分の地域がどうあるべきかを考えていただいて、前向きに取り組んでいただければ、良い事例が広がる可能性は非常に大きいと思います。

多くの地域が他地域の例を見ながら、好事例には必ずある「驚き」と「感動」、皆が共感できるストーリーを分かち合って、「こんな例があるんだ」「こんなやり方があるんだ」と思って、「自分たちもやってみよう」と思っていただくことが大切だと考えています。

やねだん、中村ブレイス、あと島根県海士町もよく好事例として紹介されますが、どこもとても交通至便とはいえない場所にあります。そして共通点としては、リーダーがたったひとりで始めたという点、国や県が何一つ手伝っていない点。やねだんと中村ブレイスで共通しているのは、芸術を加味している点。逆に言えば、交通が便利で、どこでもできるようなことばかりで、行政が手厚い支援をする、というパターンでは、かえって自立性ある取り組みは難しいという面があるのかもしれません。

――従来とは、全く逆の条件である事例が、今まさに学びとるべき事例となってきていることですね。

ですから、今回の地方創生は、いままでの焼き直しでもないし、ましてや統一地方選対策などでは全くありません。今回の取り組みは、基礎自治体が主役です。国は情報、財政、人材面で支援をしますが、「地方版総合戦略」はまさに地域の皆さんで考えてください、と申し上げています。

財政面では、先行投資やイニシャルコストにあたる部分を、ある程度支援していくというイメージです。情報面では、いわゆるビッグデータを提供します。自分のまちがどんなまちか、ということが客観的にわからないと計画の立てようがありませんので、俯瞰して見たその地域のヒト・モノ・カネの出入りの情報をつぶさに開示していきます。

人材面では、5万人以下の小規模自治体にも国からニーズに見合った人材を派遣し、支援します。

このような国の支援を有効に活用していただき、地域の皆さんで「地方版総合戦略」を考えてください、ということをお願いしています。そして戦略の中には、「わがまちは何を達成しようとしているのか」というKPI(重要業績評価指標: Key Performance Indicators)を設定していただきますが、これも地域の皆さん自身で考えていただくものです。東京のコンサルタント会社任せにしたり、既存の計画の焼き直しをしたりして、他と同じような「総合戦略」を出してしまっては、せっかくの地方創生のチャンスが生かせなくなります。

地方版総合戦略は地域自身で策定。
「産・官・学・金・労・言」が一緒に議論しKPIを設定、PDCAを回す。

――地域自身が考えるには、具体的にどのようにすべきですか

「産・官・学・金・労・言」が一緒に議論し、KPIを設定し、総合戦略をつくっていただく、ということが重要だと思っています。つまり、総合戦略の策定は首長や役場だけがやればいい、というのではない、ということです。「産」は商工会議所や商工会、JAなどの地域の産業界。「官」は役所ですね。「学」は大学、専門学校、高等学校など、教育や学問に携わる方々。「金」は、地銀、信用金庫、信用組合などの地域の金融機関。行政からの支援や補助金がなくなったらそれでおしまい、というのでは自立ではありませんから、ビジネスとして成り立つか判断していただくのが「金」の役割です。「労」は労働組合など労働者のあり方を考える方々。地方創生を成功させるためには、日本人の働き方そのものを変える必要があります。例えば、テレワークを推進していけば労働協約が変わるかもしれないし、女性が社会で活躍しながら結婚し、多くのお子さんを産み育てるためには、男性の働き方も変わっていかなくてはならないのです。だから「労」の意見も重要です。「言」は言論界です。日本の場合は特に、政治・経済をはじめ情報も東京一極集中しています。地方発の情報はほとんど事件・事故・イベントの3つに限られ、それ以外の地方発の情報がとても少ない現状があります。地方のテレビ局、新聞、ラジオ局が積極的に地域情報を集め発信していくことが大切、ということです。

総合戦略においては、PDCAも重要です。「Plan」で企画・立案、「Do」で実行、「Check」で計画が本当に効果を発現したか点検し、「Action」で改善し行動する、という好循環をめざします。

ですから、まとめとして今次の取組のキーワードは「KPI」「PDCA」「産・官・学・金・労・言」の3つということです。

――地方創生において、観光は重要な位置づけです。

観光の極意は、「今だけ、ここだけ、あなただけ」と言われますが、これを本当に実践しているかが問われます。その逆の「いつでも、どこでも、だれにでも」はこれからは通用しません。また、その土地の人が「良いなあ」と思っていないモノやコトは、外の人にとってもいいモノやコトには到底なりえません。

人口が減るというのは、国家からすると納税者が減るということでもあります。また、100人が減るというのは、経済規模に換算すると年間1億円強の消費が減るということになるので、経済効果の観点からも人口減少にはきちんと歯止めをかけなければいけません。ですから、地方創生の取組によって地方を魅力化し、定住人口を増やす、あるいは交流人口を増やす、ということが必要であり、お客様が減るのであれば観光で増やそうと考えていただきたい、ということです。

十勝バスや京都市営地下鉄などのように、やり方を変えることによって、大きく生産性が上がるということがあります。そのような例は多くあるはずで、諦めないことが大事だと思います。「自分たちが、この地域を絶対によくしてみせるぞ」という意欲が必要不可欠です。加えて何か感性に訴えるものがないと外から人は来ていただけない。理屈ばかりではなく、心の琴線に触れるようなものを考えていただくということだと思います。

今度「ななつ星in九州」に初めて乗りますが、ななつ星には、「驚き」と「感動」がありますよね。そんじょそこらの列車じゃない、世界一の列車をつくるんだという意気込みが感じられます。

事業構想大学院大学についても、「ああ!そうなんだ!」という「驚き」を持ち寄る、それが仲間を増やしていくことになるでしょう。誰もやったことのない最初の取組みには、批判もあれば衝突もあるでしょう。どうやって、それらを乗り越えていくかも重要です。

観光の本質は「面白いよね!」ということ、そうでないと広まらない。しかめっ面してする話ではなく、楽しくなくてはなりません。

――最後に、読者にメッセージをお願いします。

月刊事業構想は、自治体が相当読むようになったのですね。自治体には、「どうしたらいいでしょうか」と中央に聞きに来るより前に、しっかりと月刊事業構想を読んでいただきたい、と思ったりします。

また、「地方創生が国民運動になるには、どうしたらいいのだろう?」と常々考えています。私みたいな変わり者の大臣がやっているうちはそれなりに注目してもらえるかもしれないけれども、それで終わってしまってはいけません。

日本を変えるのは地方であり、日本を支えるのも地方なのです。また世界的に見ても、人口減少というのは、日本が課題先進国として先に経験をし、時期はともかくいずれ世界中に広がっていく現象です。地域が、国のために、次の時代のために、また世界のために何ができるか、今の時代に生きる私たちは、責任感や使命感を持つべきなのだろうと考えています。皆さんにも、自分は何ができるだろうか。そういう気持ちをもってほしいのです。

地方創生は日本創生であり、日本人創生です。日本人が明治維新以来続けてきた中央集権的な発想を変えていく、壮大な取り組みですが、今ならまだ間に合います。そして今回を逃せば、我が国の持続可能性には大きな疑問符がついてしまいかねません。

地方創生は息の長い、日本人全体による取り組みです。しかし今、不可逆的な流れを作りたい。そこまでは必ずやり抜く覚悟でおります。

石破 茂(いしば・しげる)
地方創生担当大臣

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