3Dプリンター住宅、米国で住宅街形成(100戸)を実現 今後は価格減めざす

(※本記事は『Singularity Hub』に2024年8月11日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

Icon社とLennar社が建設した平屋建て住宅の外観。灰色の壁面に3Dプリンタの積層が見える。
Icon社とLennar社が建設した平屋建て住宅の外観。灰色の壁面に3Dプリンタの積層が見える。Copyright: Icon

3Dプリント住宅のスタートアップ米Icon社と米住宅建設大手Lennar社は、テキサス州ジョージタウンに新たな住宅街を3Dプリンターで建設するプロジェクトを2022年11月に開始した。ロイターの報道によると、この100戸のプロジェクトがほぼ完成したという。

この住宅建設プロジェクトでは、基礎工事や屋根、仕上げ作業は従来の方法で行われたが、各住宅の壁はIcon社のVulcan 3Dプリンターによって建設された。Vulcanは、クレーンのような長いロボットアームに取り付けられたノズルを使い、コンクリートをケーキのホイップクリームのように押し出していく。設計データに従い、プリンターが家の基礎を形成し、その後、壁を層ごとに積み上げていく。

青空を遠景に巨大な3Dプリンターのアームが住宅の壁面をプリントしており、奥にヘルメットをかぶった作業員がそれを確認している
テキサス州ジョージタウンにある100戸の住宅コミュニティ「Wolf Ranch」でLennar社・Icon社の3Dプリンターが建設する様子。 Copyright: Icon

この3Dプリンターによる住宅建設の初期の大規模プロジェクトは、その利点の一部を世に示した。1件の住宅は、Vulcan1台と作業員1人がいれば約3週間で出力できる、ということだ。Icon社はデザイン事務所Bjark Ingels Groupと提携し、3~4ベッドルームの平屋スタイルの住宅を8種類設計した。これらの住宅の面積は約146平米から約196平米までさまざまである。

8月8日時点で既に約25%の物件が売れた。価格は45万ドルから60万ドルで、これはこの地域の平均的な価格である。既に入居を始めた購入者もおり、ロイターのインタビューを受けたある夫婦は、住宅の構造がしっかりしていると感じており、厚いコンクリートの壁がテキサスの焼けるような夏でも室内を涼しく保っていると述べている。これらの住宅には太陽光発電システムも標準装備されている。一方で、コンクリートの壁がWiFi信号を遮断するため、インターネットの利用にはメッシュWiFiが必要になるというデメリットもある。

3Dプリンターで住宅を建設するというアイデアは新しいものではなく、最初のプロジェクトは21世紀の初頭にさかのぼる。これまでに、Icon社のようなスタートアップがコンクリート材料とロボティクス技術を洗練させ、3Dプリントに最適なプロセスを特定してきた。

近年、この技術は商業開発にも進出している。2021年には、米SQ4D社がニューヨークで3Dプリントされた住宅を販売した。3Dプリント住宅スタートアップの米Mighty Buildings社は、最初にプレハブのADU(付帯住居ユニット)出力・販売で事業を始め、昨年には5200万ドルの資金を調達した。同社は現在、より大きな構造物やコミュニティ全体の建設を目指している。Icon社とは異なり、Mighty社は構造物を工場で部品ごとにプリントし、現地で組み立てる手法を採用している。

全体的に見て、3Dプリントは安価で迅速かつ資源をあまり必要としない建設方法として評価されている。支持者たちは、この技術が必要としている人々に手頃な価格の住宅を提供できることを期待している。例えば、Icon社は途上国の住宅問題に取り組む非営利団体New Storyと提携し、極度の貧困状態にある家族のためにメキシコで住宅を出力したり、ホームレス支援団体Mobile Loaves & Fishesと協力して、慢性的なホームレス状態にある人々のためのオースティンで住宅を出力している。

しかしながら、これまでのところ商業用の3Dプリント住宅の市場価格は、従来の建築方法による住宅と比べて劇的に安いわけではない。一部の工程でコスト削減が可能な一方、窓の取り付けや一般の建築技術に最適化された設備の取り付けなど、逆にコストがかさむ部分もある。そして、建築コストを超えて、市場での価格は需要と購入者が支払う意欲によって決まる。

コスト削減を図るため、Icon社は2023年に「Initiative 99」と呼ばれる、10万ドル以下で建設可能な3Dプリント住宅をデザインするコンペティションを発表した。同年のSXSW(サウスバイ・サウスウエスト)で、このコンペティションのフェーズIの受賞者が発表された。

このように、商業用住宅建設技術としての3Dプリントはまだ初期段階にある。テキサスでのこのプロジェクトは、規模の大きな初めての試みの一つであり、Icon社や他の企業がこのプロセスを最適化し、既存のエコシステムに組み込む方法を見つけ出すにつれて、コストは今後さらに下がる可能性がある。

その間にも、数人のテキサス州の一般市民は近未来的な住宅に住み始めており、コーデュロイのようなコンクリートの壁に囲まれた家が、厳しい暑さから守ってくれる環境で暮らし始めている。

うっすらと3Dプリンタの積層構造が見える白い壁面に、明るい配色の家具・調度品が置かれたリビング・ダイニング・キッチン
Lennar社・Icon社の3Dプリンターで建設された住宅のリビング。 Copyright: Icon
ジェイソン・ドリアー(jason dorrier)
ジェイソン・ドリアー (Jason Dorrier)
Singularity Hub 編集長