「世界一クリーン」な羽田空港の秘密に迫る

(※本記事は東京都が運営するオンラインマガジン「TOKYO UPDATES」に2024年12月23日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

羽田空港(東京国際空港)は、イギリスのSKYTRAX(スカイトラックス)社が実施する2024年国際空港評価の「ザ・ワールド・クリーネスト・エアポート」部門において、9年連続で世界第1位に輝いた。なぜ羽田空港はクリーンなのか。背景にあるのが、清掃業務を担当する日本空港テクノ株式会社の環境マイスター、新津春子氏の取組だ。

明るい気持ちで仕事がしたいからと、ユニフォームに赤を提案した新津氏 Photo: courtesy of 日本空港ビルデング株式会社
明るい気持ちで仕事がしたいからと、ユニフォームに赤を提案した新津氏 Photo: courtesy of 日本空港ビルデング株式会社

羽田空港を支える、やさしい清掃とは

新津氏が日本空港技術サービス(現:日本空港テクノ株式会社)に入社したのは1995年。空港の清掃業務は、それまで経験した清掃業務とは大きく違う点があった。

「利用者の安全を第一に考えて清掃業務を行うということです。ビルなどの清掃業務は人がいない時間に実施することが多いのですが、空港では常に利用者の存在を念頭においています」

モップを持ち運ぶ時は、利用者にモップがぶつからないよう必ず身体の正面で抱えるようにして持つ。清掃作業中は常に周囲の状況を把握し、利用者の動きを観察するため、壁を拭く時も利用者に背中を見せないよう横向きの姿勢で行う。

社内で、全国ビルクリーニング技能競技会の優勝者に与えられる「環境マイスター」の肩書を持つ。
社内で、全国ビルクリーニング技能競技会の優勝者に与えられる「環境マイスター」の肩書を持つ。

そんな新津氏にとって、転機となったのは、優勝を目指していた全国ビルクリーニング技能競技会の東京予選会で2位になったことだった。落ち込んでいた新津氏は、上司から「あなたの清掃にはやさしさが足りない」と指摘されたことで、その意味を深く考えたと言う。

そして2ヶ月後に開催された全国ビルクリーニング技能競技会で見事、優勝。

「当時の私は、自分は誰よりも効率よくきれいに清掃できると思っていました。でも清掃業務はそれだけではダメなんです。大事なのは、心を込めて清掃すること。空港利用者のことを思いやり、道具にも感謝しながら使うことで、さらにいい形で清掃できるようになり、本選では1位になれました」

新津氏は清掃中も笑顔を絶やさない。心に余裕を持ち、常に周囲への気配りを怠らないよう心がけているからだ。予想外の汚れを見つけても、どんなに疲れていても笑顔で対処する。

「笑顔でいるのは、もう一つ理由があります。私はこの仕事に誇りを持っているからです。清掃は裏方の仕事だという見方もありますが、私は堂々としていたい。その方が仕事に責任が持てます」

世界一クリーンな東京の玄関口、羽田空港を支えていることの一つが、新津氏のこうした取組だ。

天井を確認する新津氏
天井を確認する新津氏

清掃研修は自分のマニュアル作りからスタート

現在、新津氏は現場で清掃業務に当たるのではなく、スタッフを指導する立場だ。以前、担当した新人研修では共通の清掃マニュアルを用意するのではなく、ベテラン清掃員の仕事を見せることから始めた。

「そこでどれくらいきれいにすれば合格点なのかを理解してもらいます。2日目はモップなど道具の使い方を教えて、3日目から自分でやってもらいます。その時にもう少しこうすればスピードアップできますよ、とアドバイスすることはありますが、最終的にはそれぞれが自分なりのマニュアルを作ってほしいと思っています」

新津氏は、スタッフは一人ひとり年齢や体力、スキルが異なるのだから自分が最もやりやすい方法で行うのがベストだと考えている。結果としてその方が、仕事を長く続けることができる。

タブレットのカメラ機能を使って、便器の裏側をチェックする。
タブレットのカメラ機能を使って、便器の裏側をチェックする。

羽田空港の清掃には日本人らしさが現れている

コロナ禍が明け、海外からの旅行客も急増している。清掃業務に影響はあるのだろうか。

「清掃業務そのものには大きな変化はありません。私たちはやるべきことを続けているだけです。ただし、日本がどういう国なのか、東京がどういう都市なのかを最初に印象づける場所だということは常に意識しています。日本人は清潔で、細かい作業が得意で、とても真面目です。私たちは清掃業務を通じて、そのことを伝えたいと思っています」

最後に新津氏は、海外からの旅行客にお願いがあるという。

「自国で経験してきたことを全て忘れるくらい、頭を真っ白な状態にして日本という国、そして日本の人たちと接してほしいと思っています。そうすれば、日本のいいところに気が付きます。日本は素晴らしいところがたくさんある国なので、いいところを一つでも多く発見して帰ってほしいと願っています」

取材・文/今泉愛子
写真/藤島亮

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