個から広がる奄美大島の地域産業 就労支援施設「あまみん」の農福連携の取り組み

(※本記事は「グリーンズ」に2024年11月7日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

田中基次さん

「あ、あそこにルリカケスがいますよ」

瑠璃色と呼ばれる濃い青と、鮮やかな赤い羽。鹿児島県の奄美大島に生息する美しい鳥で、国の天然記念物に指定されています。

そんなルリカケスが訪れるほど豊かな自然に囲まれているのは、奄美大島・龍郷町(たつごうちょう)にある就労支援施設あまみん。毎日20名前後の方が通い、農作業や食品加工の仕事を通して、心身の健やかさを取り戻す、農福連携の場です。

しかしお話しを伺い始めると、幅広い取り組みと大きなビジョンに、農福連携という一語では収まりきらないような勢いを感じました。個々人の幸せを願う姿勢が、地域の活性化にも波及するのかも。そんな予感を感じて、あまみんを運営する株式会社リーフエッヂの代表であり施設管理者である、田中基次(たなか・もとつぐ)さんのお話を聞きました。

ライター:やなぎさわまどか

いろんな人がいるから、いろんな仕事をつくる

2016年に開所した「あまみん」。1000坪という広々とした敷地には、利用者の皆さんが作業する施設だけでなく、食品加工場をはじめとする3つの建物と農地など、いろいろなことがここで完結するようにできています。お庭で自由に過ごすニワトリたちも気持ちよさそう。

田中さん 「私たちがつくっているのは、ジェラートと、ハーブティーが中心です。ジェラートの原材料は主に、近所の農家さんのお手伝いをして、農作業の対価としていただく果実を活用しています。

ハーブはほとんど自分たちで育てていて、月桃やバタフライピー、ローゼル、ホーリーバジルなど、たくさんの種類をつくっています。リゾート感のあるハーブティーはおいしくて色もきれいなので、奄美のお土産としても喜ばれます。最近は、蒸留器も導入したので、ハーブはもちろん、摘果たんかんなど、これまで廃棄するしかなかった未利用資源も有効活用できるようになりました。」

減圧低温蒸留器の前で話す田中さん
ジェラートにした後に残る果皮やハーブから、精油と蒸留水を抽出する減圧低温蒸留器。「近いうちにアロマエッセンスや石鹸、化粧水といった商品開発も進める予定です」

ハーブティーの写真
丁寧に製品化されているハーブティー。あまみんや市内のお土産物屋さん等で販売しているほか、個包装のティーバッグはリゾートホテルの客室アメニティとして観光客を迎えている。

「あまみん」は就労継続支援B型の事業所で、障害者総合支援法に基づいて運営されている施設です。心身に困難を抱えていたり、身体障害者手帳を持っている方など、診断によって障害福祉サービスの受給を認められた人、あるいは、不調により休職中の方が復職(リワーク)を目的にして通っています。

田中さん 「利用者さんは本当にいろんな方がいます。太陽の下で体を動かすような屋外作業をしたい人もいれば、空調のある屋内で静かに行う作業を好む人もいます。また、見知らぬ人と会うことを避けたい人もいれば、少しずつでも慣れていきたい人もいるので、ジェラートもオンラインで販売するだけでなく、実店舗として「ジェラテリア Tropica Amami」をつくりました。奄美は、沖縄に比べるとまだジェラートやアイスのお店が少ないので、差別化すればお客さんは来てくれるはず、と考えたんです。」

ジェラテリア店内の様子
明るい店内とカラフルなジェラートに惹かれるジェラテリア店内。利用者さんと従業員さんが一緒に働き、クレープやドリンクなどのメニューもある

お金の代わりに果物をもらう理由

ひとことで農福連携といっても、福祉施設ごとに、仕事もはたらき方もさまざまです。自社管理の農地ではたらく施設もあれば、毎日農家さんのところに行って農作業を行う施設、農作物は仕入れて加工だけを行うなどの場合もあり、「あまみん」ではそのすべてを実践しています。

続きは無料会員登録後、ログインしてご覧いただけます。

  • 記事本文残り73%

月刊「事業構想」購読会員登録で
全てご覧いただくことができます。
今すぐ無料トライアルに登録しよう!

初月無料トライアル!

  • 雑誌「月刊事業構想」を送料無料でお届け
  • バックナンバー含む、オリジナル記事9,000本以上が読み放題
  • フォーラム・セミナーなどイベントに優先的にご招待

※無料体験後は自動的に有料購読に移行します。無料期間内に解約しても解約金は発生しません。