「本当の意味で堆肥化可能なプラスチック」研究最前線

(※本記事は『Knowable Magazine』に2024年2月27日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

材料科学者たちは、絹や植物繊維、藻類などの天然素材から環境に優しいポリマーを開発している。しかし、経済性や普及の壁は依然として高い。

科学者がピペットと様々なポリマーや天然素材を使っている様子を描いたコラージュ画像。
プラスチック汚染が深刻化するなか、環境中に残留しない代替物質を探すことが求められている。 copyright : KNOWABLE MAGAZINE

当初、それは素晴らしい発明として歓迎されていた。1950年代の石油ブーム時代、化学者たちが石油精製プラントから排出される廃棄物をプラスチックに精製することに成功したのだ。プラスチック包装、プラスチック家具、合成布地に織り込まれたプラスチック繊維など、これらは奇跡の材料と称され、成形しやすくしなやかでありながら、耐久性があり長持ちするものだった。その後数十年で世界のプラスチック生産量は急増し、人類は年間80億トンものプラスチックを生産するまでに至った。

一方でこのブームは多くの問題を引き起こした。生産されたプラスチックの半分以上、約50億トンが地球上に散乱している。最終的に行きつく先として、毎日1万トン以上のプラスチックがに流れ込んでいるのだ。プラスチックの耐久性は、この素材の奇跡的な特性のひとつだが、同時に強力な汚染要因にもなっている。

初期の推進派の人々に公平を期すために言えば、プラスチックは世界を変えた。自動車から携帯電話、コンピューターに至るまで、多くの必須技術がプラスチックを使用している。フォーム断熱材は家のエネルギー効率を200倍にも上げ、プラスチックフィルムは生鮮食品の保存期間を延ばしている。

「プラスチックがまるで最悪の製品であるかのように悪者扱いされるのは好きじゃない」と、ワシントン大学の物理学者で、材料科学に関する学術誌「Annual Review of Materials Research」で2023年に掲載された持続可能なポリマーに関する調査の共著者であるエレフテリア・ルメリ氏は述べている。「プラスチックは素晴らしい工学による産物なのです。」

彼女はこの素材を放棄してしまうのではなく、現代のプラスチックの引張強度と可撓性(柔軟性)を持ち、持続可能な生物資源から作られ、かつ効果的に自然環境下に還るより良いポリマーを発見する必要がある、と考えている。

これは、現状のプラスチック生産のあり方を根本から見直すことを意味する。

バイオプラスチック製のヘッドフォンの写真
2019年、実験的な科学コラボレーションプロジェクト「Korvaa」では、「世界初、微生物が作ったヘッドセット」を製作した。このプロジェクトには、硬い素材やフォーム状の素材、布状の素材など、生物由来のさまざまな材料が必要だった。 Copyright : AIVAN

モノマーからポリマーをつくる

現在のプラスチック生産のアプローチは、大きく分けて「分解」、「再構成」の2つのステップから成り立っている。

まず、「クラッキング」と呼ばれる高温・高圧下での工程により、精製された石油原料を単純な分子であるモノマーに分解する。このモノマーが鎖状や格子状に再構築(重合)されると、ポリマーと呼ばれるあらゆるプラスチックの基本構成要素となる。

しかし、プラスチックはそれで完成するわけではない。次に、着色剤や難燃剤、充填剤などの添加物を配合する。材料科学者はここでプラスチックが様々なストレス下でどのように耐えるかを示す「硬度」や「引裂き強度」、「引張モジュラス」などの特性を調整する。最も重要な添加物は、一般にポリマー鎖間の架橋を調整することによって、これらの特性を微調整する。例えば可塑剤として知られる化学物質は、ポリマーの鎖の間に入り込み可撓性を高める一方で、プラスチックが引き裂かれやすくなる。

このように、化学者たちはポリマーと添加物を組み合わせ、様々な用途に使われる複合材料を作り出す。食品包装やペットボトル、化粧品のマイクロビーズ、さらには柔軟なハイドロゲルをコンタクトレンズの形に成形すれば、角膜に取り付けて視力を矯正することもできる。化学を通じて、ポリ塩化ビニル(PVC)などの単一のポリマーが、硬い雨水パイプにも衣類にも変えることができるのだ。

天然素材からバイオポリマーを生成するための異なる戦略を示すグラフィック。
研究者たちは、生体物質からモノマー/ポリマーを生成する方法や、生物そのものや生体組織を原料として使用する方法を調査している。モノマーのような小さな原料単位はより多くの処理が必要だが、既存の生産施設を流用することが容易になる。(※画像クリックで拡大)

プラスチック生産は、世界の化石燃料消費の8%を占めており、ある推計では2050年までに20%に増加する可能性があるとされている。しかし実は、化学者たちは石油産業が発展する何十年も前から、廃棄されたオート麦の殻や植物油などから「合成」プラスチックを作り出していた。持続可能なプラスチックへの取り組みのひとつは、こうした生物由来の原料に戻すことだ。

例えば、2006年にブラジルの石油化学会社Braskemは、効率的に砂糖をエチレンに変える実験を開始した。エチレンは汎用プラスチック生産において最も重要なモノマーである。同社は、2010年には「完全に生物由来の」ポリエチレンプラスチック、つまりバイオPEを販売するに至った。

この素材の大きな利点は、原材料であるサトウキビが成長過程で大気中の炭素を吸収することだ。また、バイオPEは構造的に合成プラスチックと酷似しているため、食品包装や化粧品、おもちゃなどの用途に利用しやすい。

しかし、化学的に区別がつかないということは問題でもある。ポリエチレンは自然環境に存在しないため、その分子結合を分解する能力を持つ微生物はほとんどいない。したがって、バイオPEは廃棄物問題の解決には寄与しない。言い換えれば、「バイオプラスチック」であるからといって、それが本当の意味で持続可能であるわけではないのだ。

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