青森・八戸で観光まちづくり バリューシフトが目指すエコシステムとは
(※本記事は経済産業省近畿経済産業局が運営する「公式Note」に2024年9月5日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)
株式会社バリューシフトは青森県の八戸エリアを中心とする観光まちづくり会社だ。「地域内外の交点を整え価値を創る」ことをテーマに、人財育成事業、地元事業者や自治体の支援事業(地域エコシステム共創)、持続可能な観光まちづくり会社のモデル創造事業(研究開発)を展開している。
近畿経済産業局公式noteマガジン「KEY PERSON PROFILE」、シリーズ「地域と価値とビジネスを巡る探求と深化」第8回は、株式会社バリューシフトの代表を務める外和信哉さんです。東北経済産業局とのコラボ企画です。
取材日(場所):2024年1月(於:青森県八戸市、五戸町)
そんな同社が、事業を通して実現したいビジョンは「Emerging Future, Collective impact for Local Ecosystem 」だ。
エコシステム(Ecosystem)とは、絵本『スイミー(作 レオ・レオ二/訳 谷川俊太郎/好学社)』のように個が自律的に活動しながらも、同時に、有機的に連鎖しあって、ひとつの生き物のような秩序を形成している、そんな本来的な状態のことと捉えている。
その起点は、個の内側から湧き上がるエネルギー(Emerging future)であり、個の関係性の「ちょうどよさ」を追求(Collective Impact)することにより、地域エコシステムが持続循環してくと考えている外和さんに、社会的な価値と利益とは何か、という問いを投げかけ、インタビューは始まった。
「イカドンファミリー」のエネルギー
東京で23年間活動して、母親の病気や東日本大震災などを契機に地元である八戸市にてUターン創業した。自力で仕事を創る力を身につけるためグロービス経営大学院で経営学修士(MBA)を学んだりもした。
Uターン当初は周囲の期待に応えようと気負いし、本来の役割を見失っていた。「自分はチャレンジする人を支える側だ」という自覚が芽生えたのも、気負いしていた反省があったからこそだ。
自身の事業を通じて創出している「社会的価値」は何かと問われると、八戸エリアにおける地域エコシステムを耕し続けることを通じて「自分を生きる」人財を育むことではないか。地域エコシステムの存在と熟成こそが、価値共創の源泉となり、地域の持続性を高める重要な要素だと考えている。
私が関わったこれまでの活動の中で、実際に大きな「社会的価値」の創出を感じた事例は、日本最大級の朝市「八戸館鼻岸壁朝市」黙認キャラクターとして大人気の「イカドン」の承継プロセスが挙げられるだろう。
「イカドン」は、ひとりのシニアの方が個人の趣味ではじめた活動だったにも関わらず、意図せずメディア取材が殺到してしまったことで大きな課題を抱えてしまった。一時は存続が危ぶまれたが、結果として、イカドンを愛する若い世代が中心となってその想いを承継していった。
その承継プロセスは、自分らしさとカオス感が同居している、まさに八戸館鼻岸壁朝市の象徴的な存在となった。このようなプロセスや活動自体に経済的な合理性は見えにくいものの、地域に循環するエネルギーの源となっているという点では大きな価値を生み出していると感じている。
持続可能な環境をつくれているか
社会的価値創出のために密接な協力関係にあるパートナーとして、地域内外の自治体関係者、事業者、教育機関、市民団体などとともに活動している。一方で、(地域エコシステムを耕し続けるためにも)今後新たに協力関係を築きたいパートナーもいる。
例えば、融資や出資等ではなく休眠預金等を用いた第3のファイナンスとしての地域のプロジェクトに資金拠出が可能なコミュニティ・ファンドを地域エコシステムで運営していく可能性も感じており、より一層地域内外のステークホルダーとの関係性も重要となってくる。そのほかにも、新しい観光コンテンツとしてのラーニング・ジャーニーモデルを実装できるパートナー、地域共生社会の論点を見出し共創していくパートナー、バックオフィスを整え、バージョンアップしていくパートナーなどが考えられる。
持続可能な環境を形成するには、パートナーだけでなく「利益」の考え方も重要である。事業を通じて得られる「利益」という概念は、資金的な意味で持続可能性を担保する金銭的利益だけでなく、信頼や人への感謝、自分たちの使命と役割の自覚、そして次世代に繋げることのできる人としての役割など広範な意として捉えている。
中でも(私にとって)優先度の高い「利益」は、自分を生きつつ、かつ(全体として)現実世界に持続可能な環境をつくれているか、というコレクティブさ(「ちょうど良さ」が連鎖する状態)ではないだろうか。
金銭的利益の優先度はかなり低いが、もちろんオーガニックな成長だけで事業が持続できるかは吟味する必要があるのは留意すべきところだ。
エコシステムで「社会的価値」と「利益」は一致する
事業の「社会的価値」と「利益」は、基本的には一致するものであると考えている。しかし、現実は時間軸などの制約要因によってギャップが生じる。KPIではなくインパクトを評価し、「社会的価値」と「利益」を一致させるための方法論を導入する必要がある。
例えば、MBO(※)など、自分の学びから売上利益など経済的指標まで紐づけ、全体像を把握するような可視化も重要な対処法だ。
MBO (Management by Objectives:目標管理制度)
会社の方針と社員自身が目指したい方向性を擦り合わせることで一人ひとりに目標を設定し、成果までの道のりを管理するマネジメントの概念
MBO(目標管理制度)とは?手法や目標設定の例・メリット(PERSOL,2024)
個の内発のエネルギーから成長していくプロジェクトの集積が、地域エコシステムや組織の成長につながるよう、その関係性をコレクティブ(「ちょうど良さ」が連鎖する状態)にしていく「さじ加減」を探り続けることが重要だと考える。
ただ、エコシステムは、見えない日常の変化を非言語レベルで感じられる場所でやらないと価値は出ない。それに上の世代から受けた恩をこの地域内に返していきたいという思いもある。
実体のない「虚」で資金や人を集めるのではなく、本当に自分がやりたい「実」を積み重ねることが人材や利益にひも付いていく。そして、エコシステムが自律分散的に機能として地域に残る方法をメンバーとともに考えていく。
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- 近畿経済産業局 公式note