『バブルの世界史」 良いバブルを予測する方法とは

本書は、クイーンズ大学ベルファスト校で金融論を教えるウィリアム・クインと、同大学の金融史学者ジョン・D・ターナーがまとめた「バブル論」である。過去に発生したバブルの原因・帰結を分析するとともに、バブルの普遍的な法則を明らかにし、次のバブルに備える方法を読者に提示する。

バブルの必要・十分条件

バブルとは、株式や不動産などの資産に、投機によって実態の価値以上の評価が生じている経済状態を指す。バブルは過剰投資や過剰雇用、過剰建設を招き、最終的に企業にとっても社会にとっても非効率を生む。

一方で、筆者は「社会に恩恵をもたらすバブルもある」と述べ、その3つの恩恵を指摘する。第一にバブルはイノベーションを促し、起業を目指す人を増やし、ひいては将来の経済成長に繋がる。第二に、潤沢な資金を持つバブル企業によって開発された最新技術が将来のイノベーションを刺激する可能性があり、バブル企業自身が開発技術を活用して異業種に進出することもある。そして第三に、完全に効率的な金融市場では供与されなかったであろう資金が技術開発案件に投入される可能性があることだ。実際に、過去に発生したバブルの多くは、鉄道、自動車、インターネットなど世界を一変させた技術と関連している。

そもそも、バブルはなぜ発生するのか。筆者は、バブルの必要条件として市場性、通貨・信用、投機という3つ要素(バブル・トライアングル)を挙げ、そこに技術革新や政府政策という“火花”が付加されることで、初めてバブルの十分条件になると指摘する。

「良いバブル」に備えるには

この視点に立った上で、本書は歴史上のバブルを取り上げてその原因と影響を詳しく検討している。具体的には、1720年に発生したミシシッピバブル(フランス)と南海バブル(イギリス)を皮切りに、同じくイギリスで1800年代に起きた鉄道バブルや自転車バブル、1980年代の日本の会社株・不動産バブル、アメリカのドットコムバブル、世界同時不況の発生要因となったサブプライムバブル、中国の株式バブルなどを分析している。

本書後半では、バブル・トライアングルを活用していかに未来のバブルを予測するかを解説する。そして、バブルが有益なのか、破壊的なのかを予測するのにもバブル・トライアングルが活用できることを筆者は示唆する。

最近では、仮想通貨(ビットコイン)のバブルが発生したが、テクノロジーに起因するバブルを抑えるのは現実的ではなく、AI等の加速度的な進化によって、今後もバブルは度々発生すると考えられる。事業開発に大きなインパクトを与えるバブルをいかに予測し、備えるか。良いバブルをいかに見極め、波に乗るか。事業構想家が本書から得られる学びは多い。

 

『バブルの世界史
ブーム・アンド・バストの法則と教訓』

  1. ウィリアム・クイン、ジョン・D・ターナー 著
  2. 本体3,500円+税
  3. 日本経済新聞出版
  4. 2023年3月

 

今月の注目の3冊

フェムテック

女性の健康課題を解決するテクノロジー

  1. 吉岡 範人 著
  2. 幻冬舎MC
  3. 本体1,600円+税

 

2025年には世界で約5兆円規模になると予測されるフェムテック。日本では2000年にフェムテックの先駆けとなる月経管理サービスが開発され、月経や妊娠、更年期などの領域の商品が多数発売されている。ただ、欧米に比較すると日本でのフェムテックの広がりは遅い。

本書は、現役産婦人科医でレディスクリニック院長を務め、診療や治療を通じて女性の健康課題に向き合ってきた吉岡範人氏が、フェムテックの社会的役割や、現状のフェムテック商品開発の課題、市場成長に向けた方策を解説したものだ。

筆者は、フェムテックは一見すると無関係なフィールドの企業や人が関わり合うことで、魅力的な商品・サービスが生まれる可能性が大きいと述べ、オープンイノベーションの重要性を指摘する。最前線の医療従事者の視点からフェムテックを捉えた意欲的な一冊。

 

地域を変える、
日本の未来をつくる!

  1. 小林 清彦 著
  2. ディスカバー・トゥエンティワン
  3. 本体1,500円+税

 

高齢化に伴う社会保障費の増大と自治体財政の圧迫によって、地域の医療・福祉・介護環境は危機的な状況に陥っている。地域の医療インフラをどう維持し、品質を高めていくべきか。本書は、愛知県を基盤に病院や介護施設を運営する愛生館グループ代表の小林清彦氏による、地域医療への提言書である。

愛生館は「0歳から100歳まで、すべての人を支援する仕組みづくり」と追求し、医療・福祉・介護施設を展開する一方、2022年にはこども園と高齢者デイサービス施設、障害者施設、地域交流サロンなどの複合施設「CORRIN」(愛知県碧南市)を開設するなど、イノベーティブな経営で知られる。

<p愛生館の経営戦略から組織・人材戦略、地域社会とのつながり創造に向けた取り組みなどが詳細に解説されており、地域経営に関わる人に多くのヒントを与えてくれるだろう。

 

心理的安全性 最強の教科書

  1. ピョートル・フェリクス・グジバチ 著
  2. 東洋経済新報社
  3. 本体1,700円+税

 

「心理的安全性」とは、組織で自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態のことを指す。マネジメントにおける注目のキーワードであるが、日本では「ただ優しいだけの組織」と誤解されるケースも多い。

本書は、Googleの元アジア・パシフィック人財・組織開発責任者である著者が、20年間日本で働いた経験を元に、組織の心理的安全性を高めるための考え方と行動を、日本のビジネスパーソン向けに解説している。

成果を生む強いチームの「心理的安全性」を定義し、組織を理想状態にするためには何が必要なのか、「理解編」「マインドセット編」「実践編」の3つのパートで分かりやすい事例を交えつつ解説している。建設的な意見の対立が奨励され、メンバーがネガティブなプレッシャーを受けずに自分らしくいられる組織をつくるためのヒントを得ることができる。