人脈依存からデータ駆動へ 宇宙×AIで不動産市場の透明化に挑む今川裕喜CPOの構想
宇宙とAIという一見無関係な技術を掛け合わせ、不動産業界の構造的課題に挑戦する株式会社WHERE(旧株式会社Penetrator、8月1日より株式会社WHEREに社名変更)。従来の人脈頼みの不動産仕入れを、衛星データの解析によって3分で完了させる革新的サービスを展開する。「地球の不動産市場を根本から変える」というビジョンを掲げ、カルチャーを基盤とした組織づくりと社会課題解決の両立を目指すWHERE。JAXA月面研究者から同社CPOに転身した今川裕喜氏に、異分野融合から生まれた事業構想と不動産取引の未来像を聞く。

不動産市場の透明化
潜在ニーズで驚異のスタート
不動産業界、特に土地の仕入れでは取引の約7割が人脈を通じて行われている。情報がクローズドなネットワーク内で完結するため、新規参入者にとっては大きな障壁だ。また東京のような開発が進んだエリアでは、既存の人脈だけでは良質な物件を見つけることが難しくなっている。

「情報の非対称性が市場の透明性や効率性を損ねています。私たちはデータ駆動型アプローチで、今まで見えなかった市場を可視化していきます」と株式会社WHEREの CPO・今川氏は説明する。
サービス名でもあるWHEREでは衛星データとAI技術を組み合わせ、従来は見つけにくかったオフマーケットの不動産を短時間で発掘することが出来る。数十時間かかっていた作業をわずか3分で完了させることが可能だ。
革新的サービスであり、また潜在的なニーズもあった為、同社のサービスに対する市場の反応は上々。実際、初期営業では7件の電話から7件のアポイント、2件の成約という驚異的な成果が出たという。
月面研究の知見が不動産取引に
事業構想の原点になる
「異分野融合」が近年のイノベーションキーワードとなっているが、株式会社WHEREはその好例といえる。今川氏はJAXA宇宙科学研究所で月面研究を行っていた経歴を持つ。
「月は地球と比べて特徴量が少ない環境です。そこでの画像解析技術と私のAI技術、そして代表の阿久津岳生氏の不動産知識が奇跡的に重なったことが、事業構想の原点となりました」。
事業化は迅速に進んだ。元々、今川氏は阿久津氏に誘われる形で同社のプロジェクトに入ったが、最初のプロトタイプを2週間で作成し、顧客との商談を重ねるうちに「このプロジェクトは世界を変えるポテンシャルがある」という確信を得た。翌年の2023年2月から本格的なSaaS開発を開始し、デスクトップアプリからWebアプリへとサービス形態を進化させてきた。
「事業構想では具体的な数値目標をどこまで掲げるべきか迷いました。しかし『地球の不動産市場を変える』という10年ビジョンと『月や火星の不動産探査に挑戦する』という20年ビジョンを設定したことで、組織の方向性が明確になりました」と今川氏は振り返る。
社会課題解決とエコシステム構築
自治体や地方での活用
そんなWHEREは単なるビジネスモデルを超え、社会課題解決とエコシステム構築を構想として視野に入れている。
「衛星データとインフラデータ(水道閉栓データ)を組み合わせることで、空き家の高精度な判定が可能になりました。相模原市との実証実験では、従来は物理的な確認が必要だった空き家判定を効率化することが出来ています」と今川氏は説明する。
この技術を応用し、被災地の早期復興支援、夜間衛星データを活用した地方創生、空き家問題解決など多方面での社会貢献を進めている。福岡県や複数の自治体との連携も始まっており、産官学連携の可能性も広がっている最中だ。
「将来的には、不動産の仕入れに関するあらゆる情報が集まるプラットフォームを構築し、業界全体のエコシステムを変革したいと考えています」と語る今川氏。国内のみならず、グローバル展開も始まっており、米国、シンガポール、オーストラリアでの市場開拓を進めている。
今川氏は「衛星写真が撮影できる場所であれば、どこでも世界中の不動産を探索できるという強みがあります。最終的には個人間取引プラットフォームも視野に入れています。これが実現すれば、本当の意味で不動産市場の民主化を達成できるでしょう」と展望を示す。
こうしたプラットフォームは既存の既得権益や個人のプライバシーの問題と常に隣り合わせではあるが、同社が描く構想、今後の事業には空き家問題等の社会課題解決という側面もあるわけだ。
カルチャーを基盤とした組織運営
「筋肉質」かつ「科学的」
株式会社WHEREの組織づくりは「カルチャーを基盤とした意思決定システム」という独自の哲学に基づいている。「仕事は価値創造」という意識がメンバー全員に共有されており、また「筋肉質の組織」をキーワードに少数精鋭で生産性の高い組織を目指している。
「あらゆる意思決定の基盤がカルチャーになります。どの機能を優先するか、スピード重視で進めるかなど、全ての判断基準がカルチャーに立脚しています」と今川氏は強調する。

採用でも技術力よりもカルチャーフィットを重視し、業務委託で3ヶ月の試用期間を設ける事で相互のフィットを確認する仕組みも導入している。
「厳しい環境ではありますが、フィットする人材は急速に成長できる環境だと思います」(今川氏)。
また、組織運営に科学研究のアプローチを適用している点も特徴的だ。
「定量的に評価し、情報の透明度を高めることで、チーム全体の意思決定速度が向上します。モニタリングからボトルネックを特定し、改善するサイクルを回しています」と今川氏は説明する。
最新技術の活用も積極的に行っており、「生成AI技術を活用したナレッジマネジメントを導入し、情報共有の効率化を図っています」と今川氏は説明した。WHEREのサービスが持つ先進的で透明度の高いイメージが、同社としてのカルチャー・組織運営にそのまま反映されている点は非常に興味深い。
今川氏は今後の展望について「プロダクトをさらに洗練させるため、UI/UXの向上に注力するとともに、テックブランディングを強化し、優秀な人材を集めていきたい」と意欲を示した。
宇宙技術と不動産業界の融合から生まれた革新的な事業構想が、不動産市場の透明化と社会課題解決を実現する日も遠くないだろう。
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