TOPPANホールディングス 5つの成長事業で変革を加速
凸版印刷が、TOPPANホールディングスへと社名を変更し、持株会社体制へと移行したのは2023年10月のこと。それから約1年が経過し、社員の意識はどのように変わったのか。また、「印刷」の枠から脱した発想で事業をどのように成長に導こうとしているのか。
麿 秀晴(TOPPANホールディングス 代表取締役社長)
持株会社移行とともに新社名に
事業内容の変革を内外に示す
凸版印刷は2021年からCMシリーズで「TOPPAN」ブランドの周知を開始し、2023年10月の持株会社制への移行にあわせてTOPPANホールディングスへと改称した。120年以上の歴史があった社名を変えた背景を、社長CEOの麿秀晴氏は「当社は120年以上前に、ヨーロッパの当時の最先端の製版技術を導入することで出発した技術型ベンチャーとして創業しました。以降も挑戦するマインドを失うことなくさまざまな事業分野へ進出し、独自の印刷テクノロジーを進化させてきました。これから先の100年、狭義の『印刷』という従来のビジネスモデルにとらわれず、事業を大きく成長させていくという思いを込めています」と説明する。
社名を変更した効果については「事業ポートフォリオを変革していくという経営陣の本気度が社員に浸透し、お客様にもそのメッセージが伝わることで、新しい提案を求められるようになっています」と手応えを語る。
「印刷」にとらわれず
5つの成長事業分野へ投資を加速
同社の現在の事業セグメントは「情報コミュニケーション事業」「生活・産業事業」「エレクトロニクス事業」の3つに分かれている。それら3事業分野の中でも、今後伸びが期待できる領域の成長事業と位置付けるのが以下の5つだ。
まず海外向けでは、フィルム製造からバリア加工、パッケージングまでの垂直統合モデルを有し、環境配慮型商品に対応した「海外パッケージ」、生成AI需要の拡大に対応するLSIチップの高速化、多機能化を可能にする高密度半導体パッケージ基板(FC‐BGA)をはじめとする「半導体関連」、パスポートやデジタルIDなどの政府向けソリューションで特に新興国向けで伸長しつつある「セキュアビジネス(海外)」の3つを挙げる。
「全世界で社会課題の解決を図るのが当社グループの大きなコンセプト。現在、売上高の海外比率は37%ですが、近いうちに50%以上に持っていきたい」と意気込みを語る。
また、国内向けでは、顧客データの分析に基づくマーケティングソリューションで、得意先の企業の利益最大化を支援する「マーケティングDX」、行政や金融機関の労働力不足に対応し業務効率化支援サービスを提供する「ハイブリッドBPO」を成長事業として期待している。
AI技術の活用には早い時期から投資してきたが、各部門での活動をまとめて2024年11月には「全社AIプロジェクト」を発足させた。社内の業務効率化と、事業における新たな提案の両面から重要性が増しているとみている。「AIの活用を、社内の様々な部署で個別に推進していました。それらを社内の生産性向上とお客様のお困りごと解決支援の2つに分類し、優先順位をつけて取り組む計画です」。
技術ベースの新規事業探索
現場のスピーディな判断を後押し
TOPPANホールディングスにおける新規事業の探索とその事業化は事業開発部門が担っている。事業開発部門は、TOPPANの研究開発の中枢を担う総合研究所と紐づいており、基礎研究、応用研究、マーケットニーズに基づく研究と階層分けされた研究テーマを知悉している。そして、顧客ニーズと関係した研究テーマをシーズとし、それを磨き上げ事業化につなげる。
また、事業開発部門の中には、コーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)を配置し、グループにないリソースやテクノロジーが必要となった場合には、一定の枠内であれば部門判断で投資をできるようにしている。
「迅速な判断が求められるスタートアップへの少額投資については、事後報告でよいというルールを定め、着実に投資が実行できるようになりました」。実績を積み上げ、今も継続してCVC投資を続けている。「その分利益は減少しますが、事業のテーマが増え、将来への種まきができ、さらに各部門が投資枠をうまく使えるかどうかの実力を見ることもできます」と、CVC投資の一石三鳥のメリットを説く。
麿氏は、新たな事業を生み出していくために必要な要件は、「社員が、課題を発見したときにすぐに行動に移すことができるようにすること」だと指摘する。「例えば、新事業のために組織を変える際に、組織改編時期の次の4月まで待つ、という発想は望ましくない。明日からでも変えられる、変えてほしいということを伝え、発想の転換を促しています」と語る。TOPPANでは持株会社化に伴い、グループ理念と、グループで共有すべき価値観として4つのバリュー、「Integrity」「Passion」「Proactivity」「Creativity」も制定した。この中で新しいのは「Proactivity」だ。これまで掲げてきた価値観に加えて、周囲に先駆けて考え、スピーディに行動するという姿勢を持ち、失敗を恐れずに挑戦する社内風土づくりと人財育成を進めるという。
領域別に特に強化しているのが、成長領域であるデジタルトランスフォーメーションを担う人財育成だ。同社のDX事業である「Erhoeht-X」に従事する人員を、2025年度に6000人にするという目標を打ち出している。DX土台となる知識を身に着けるためのG検定(AI・ディープラーニングの基礎知識、ビジネス活用や数理・データサイエンスなど幅広い知識が問われる資格)やアマゾンウェブサービス(AWS)認定資格の取得を推進する。
麿氏は、社員が自ら学ぶことを企業として応援すべき、という姿勢だ。それを可視化するため、「社員が自分に投資するための手当」の支給を開始し、自己の成長のための投資を促している。また、人事処遇制度についても「やる気と実力がある人は間を飛ばしてより早く昇進できるようにしました」と矢継ぎ早の改革を進めている。
幅広い顧客層を生かし
結節点の役割を果たす
TOPPANは、1900年に大蔵省印刷局の技術者が独立し、紙幣に用いられる高度な印刷技術を携えて起業した企業だ。以来、偽造を防ぐ高度な印刷技術と、情報を漏洩しない高度なセキュリティをベースに、あらゆる業種のあらゆる企業と取引関係を構築してきた。120年超の歴史が築いた顧客基盤をもとに、あらゆるマーケットの情報が入ってくる特異な立ち位置を生かして、取引先の多様なシーズとニーズを結びつけ、出口戦略が提案できることもTOPPANならではだ。
麿氏は、その強みをさらに生かすべきだと考えている。そのために、「事業部ごとの縦割りから脱し、マーケットの変化に対応できる組織へと変えていかなければなりません」と語る。持株会社化と社名の変更を機に、さらに勢いを増す変革の取組を加速させようとしている。

- 麿 秀晴(まろ・ひではる)
- TOPPANホールディングス 代表取締役社長