成人はどのように学ぶのか──経験と必要から始まる学び
子どもの学びと大人の学びは同じなのか
前回は、社会全体が学習の場となる「学習社会」について考えた。では、大人はどのように学ぶのだろうか。
子どもの教育の場合、学校には体系的な教育課程があり、これから必要になる知識や技能を、教育する側がある程度あらかじめ設定することが多い。しかし、大人の場合、すでに社会生活を送り、仕事をし、家庭や地域でさまざまな役割を担っており、「何も持たずに学びの場にやってくる」のではない。それまで生きてきた経験がある。
この「経験」の存在こそが、成人の学びを考える重要な出発点となる。仕事、家庭生活、地域活動、人間関係などを通じて蓄積した経験こそが、大人にとっての学習資源なのだ。
そうした経験には、成功だけではなく失敗も含まれている。「なぜうまくいかなかったのか」「別の方法はなかったのか」と考えるところから、新しい学びが始まることも多い。
たとえば、管理職になった人が部下との関係に悩み、組織やコミュニケーションについて学び始める。子育てを始めた人が、それまで関心のなかった発達や教育について学ぶ。成人の学習は、生活の中で生じた具体的な問いと深く結びついている。
ここで重要なのは、経験しただけでは必ずしも学びにはならないことである。経験を振り返り、「なぜそうなったのか」と問い直し、他者の経験や知識と照らし合わせることで、経験ははじめて学習資源となる。
「学びたい」と「学ぶ必要がある」の間
成人学習を考えるうえで、もう一つ重要なのが、「学びたいこと」と「学ぶ必要があること」の関係である。
人には、「歴史を学びたい」「地域についてもっと知りたい」など、自分自身の関心から生じる学習要求がある。一方、自分の関心とは別に、新たに学ぶ必要が生じることもある。仕事のデジタル化によって新しい技術を身につけなければならない場合や、制度変更に対応するために知識を更新しなければならない場合などである。
そして、この二つは必ずしも一致するとは限らない。だからこそ社会教育では、「本人が何を学びたいのか」と「社会の中で何を学ぶ必要が生じているのか」の双方を見ながら、学習機会を編成することが求められる。
社会の側の必要を一方的に押しつけてしまえば、学びは自由な営みではなくなる。逆に、本人の関心だけを重視すれば、社会の変化によって生じている新しい課題に気づけない場合もある。学習者との対話を重ねながらこの間をどのようにつなぐかが、成人学習を支援する上で重要な課題なのである。
大人だからこそ「学び直す」
さらに、大人の学びには、「これまで知っていたことを問い直す」という特徴がある。社会が変化すれば、かつて有効だった知識や技能が、そのままでは通用しなくなることがある。職業上の技能の他、子育て、健康、地域活動など、生活のさまざまな領域で求められる知識や実践は変化している。
したがって、成人にとっての学習とは、自分が当然だと思っていたことを問い直し、経験を別の角度から見直し、必要であればこれまでの行動を組み替えることでもある。これまでの経験を土台にしながら現在の社会との関係を捉え直すのだ。この意味で、「学び直し」という言葉が含むものは大きい。
成人の学びを支える社会教育
このように、成人が学ぶ理由は様々だ。社会教育の重要な役割は、この多様な学びを一つの目的に回収せず、成人自身の経験と問題意識を出発点として支えることにある。そして必要であれば、自分ではまだ気づいていなかった社会の変化や新しい学びへと出会う機会をひらくことである。
こうした成人の学びは、経験と社会との対話から生まれる。その意味で、学習とは自らの経験を問い直し、社会との関係を再構成していく営みといえる。