住友商事 移動支援を軸に域内交流を促す共創プラットフォーム構築
電車やバスなどの公共交通、地域の物流は通勤・通学、買い物などの日々の生活に必要不可欠だが、人口減少等を背景に維持が難しくなっている。地域それぞれの交通の在り方を模索する中、住友商事では地域モビリティサービス「Mile One(マイルワン)」を提案。開発の背景や実証実験の様子を紹介する。
写真右:横山頼太郎 住友商事株式会社 国内エネルギーソリューションSBU 洋上風力発電事業ユニット チーム長代理(庄内事業構想プロジェクト研究(第1期)修了生)
写真左:武田光平 住友商事株式会社 Beyond Mobility SBU 兼 航空SBU Mile One Projectリーダー
簡単なアイデアは検討済み
いかにして事業を構想するか
山形県北西部に広がる庄内地域の中心都市である酒田市。県内で3番目の人口規模を有する自治体として、他の地方都市と同様に人口動態の変化を見据えたまちづくりが求められており、持続的な発展のためには地域課題の解決や地域活性化を担う人材の育成が重要だと捉えてきた。こうした問題意識のもと、酒田市は2023年5月に住友商事、事業構想大学院大学と連携し「庄内事業構想プロジェクト研究(以下、庄内プロジェクト)」を発足。住友商事からは洋上風力発電事業ユニットに所属する横山頼太郎氏が研究員として参画した。
「当社は2018年から子会社を通じて酒田市でバイオマス発電事業を運営しています。再生可能エネルギー分野を含む様々なビジネス分野でお付き合いのある地域の人材育成や地方創生に貢献できるプロジェクトに参加できることに魅力を感じました」
2週間に1度のペースで酒田市を訪問し、フィールドリサーチを重ねる中で、当初はフードロス対策や観光振興などの新規事業案を考えたが、「一見すると有効そうに見える施策は、すでに検討され尽くされている場合が多く、地域では必ずしも困りごとになっていないなど、過去に挑戦したものの事業化に至らなかった背景がある」と気づかされた。
買い物難民問題をヒントに
社内の仲間と共に事業構想
地域課題の解決は外部からの持込案だけでは成立しない――。そう痛感した横山氏が意識したのは、外部から新奇なアイデアを持ち込むことではなく、住友商事がこれまでに培ってきた知見を、地域の実情に即してどう生かすかという点だった。ブレイクスルーのヒントは地域住民へのヒアリングで出てきた「中山間地域は買い物が大変」という声にあった。住友商事では千葉県勝浦市でドローンを使ったスマート物流に取り組んでいたことから、横山氏はそのプロジェクトリーダーである武田光平氏に連絡を取った。
「横山さんから相談を受け、上司と一緒に酒田市へ出向いたのですが、その日は視界を奪われるほどの猛吹雪。さすがにドローンは無理だと諦めました」(武田氏)
この出来事は「何を解決したいのか」という原点に立ち返るきっかけとなった。目的はドローンの活用そのものではなく、地域課題の解決であり、具体的な手段や方法は地域に適したものでなければならない。そこで事業構想のテーマは「地域交通課題を解決する新たなMobilityの仕組みづくり」に改めることとした。
「庄内プロジェクトの同期や市担当職員に地元の交通事業者を紹介してもらったり、住民ヒアリングを設定してもらったり、何かと力になってもらいましたし、武田さんをはじめ社内の仲間にも助けられました」と横山氏。対話の場では時に厳しい意見も出たが、「誰もが『地域のためにどうしたらいいか』という視点で向き合っていた。その姿勢やそれぞれの想いに触れられたことが一番の学びであり、財産」だと振り返る。
持続可能な交通を目指す
モビリティサービス誕生
2025年8月、住友商事は国内初の産官学連携AIオンデマンドシステム×貨客混載を組み合わせた地域モビリティサービス「Mile One(マイルワン)」の実証実験を開始すると発表した。このマイルワンこそ庄内プロジェクト発の事業構想を源流とするもので、モビリティ関連の部署にいる武田氏の下でさらに発展させている。
地域モビリティサービス「Mile One」のロゴ
「マイルワンは人の移動とモノの配送を一体で捉え直すサービスです。地域には病院の送迎バスやデマンドタクシー、スクールバスなどの人流と、医薬品や農産物等の配送、買い物代行などの物流があり、それぞれが個別に車両とドライバーを抱えていますが、これらを一体的に運営できれば効率化が図れます。また、人流と物流それぞれの空き時間や空きスペースを活用して貨客混載とすれば、より少ないドライバーと少ない車両でサービスを提供できます」
マイルワンの強みは2つある。1つは「人流×物流」の膨大な運行パターンの組み合わせをリアルタイムで最適化するAIシステム。もう1つは実証実験の提案から仕組みづくり、住民説明会、効果測定まで行う「立ち上げ伴走支援」のアプローチだ。全体統括とシステム開発を受け持つ住友商事を筆頭に、物流のセイノーホールディングス、人流の大新東などとともに、地域ごとの共創プラットフォーム構築を支援する。
2025年10月1日から半年間、山口県下関市豊田町で行われた実証実験では、下関市が事業実施主体・運行主体を担い、共創プラットフォームには地元のタクシー会社である冨士第一交通、社会福祉協議会、下関市立大学、児童クラブ、スーパーマーケット、県庁などが参画した。

下関市の実証実験では高齢者だけでなく、保育園の遠足にも利用された
「豊田町ではエリアと時間を限定して生活バス4路線が運行されていましたが、AIオンデマンド機能を導入し、営業時間内であればエリアと時間の制約なく乗車予約ができるようにしました。また、空き時間と空きスペースを貨客混載とし、買い物支援サービスも提供しています」
実証開始3カ月で利用者数は従来の週平均50人から200人へと4倍に増加。効果測定のために年明けに実施したアンケートでは回答数が900件近くに上り、「自宅まで迎えに来てくれる生活バスは、高齢者にとって夢のような存在」「通院にタクシーを使って高額な負担がかかっていたが、生活バスにより費用負担が大きく軽減された」「自分で買い物や外出に行けるようになり、外出の回数が増えた。買い物先で知り合いに会って話ができることが、外出の楽しみにつながっている」といった声が並んだ。
地域交通の課題はもはや待ったなし。武田氏はこう締めくくる。
「1つでも多くのエリアで移動と物流の課題を解決するため、下関市以外の自治体とも議論が始まっています。一つひとつの地域に丁寧に向き合いながら、マイルワンを広げていくことで、日本中の“移動”と“暮らし”を支えていきたいですね」

立ち上げ伴走支援として住民説明会などもサポート。写真は出発式の様子