「子供の夢中が未来を創る」 キッズスター・平田氏が語るグローバル展開への挑戦

「子供が夢中になれることが、その子の未来を創る原動力になる」—そう語るのは株式会社キッズスター代表取締役社長の平田全広氏だ。子供向け社会体験アプリ「ごっこランド」を運営し、月間2500万回以上のプレイ数を誇る同社は、東証グロース市場への上場を果たした後も持続的な成長を続けている。ベトナムでの累計ダウンロード数150万突破という実績を基盤に、さらなるアジア展開を目指す同社の戦略と、テクノロジーと教育の融合によって広がる新たな可能性について、平田氏に話を聞いた。

平田インタビュー風景
平田 全広(キッズスター 代表取締役社長)

子育て体験から生まれた教育イノベーション 月間2500万回の利用が示す社会的価値

-アプリ開発のきっかけについて教えてください

「2012年、第二子が生まれた際の体験が、『ごっこランド』の事業構想の原点となりました。デジタル技術の進歩にもかかわらず、子供向け教材の本質的な進化が見えにくかったことに課題を感じていて、新たな学習体験の創造に着手しました。そんな中、子供が海外のお掃除ゲームをプレイした後、実際に家でお手伝いをするようになった体験が転機となりました。遊びを通じた学習が実生活に自然に活かされる—このような教育効果を持つアプリケーションの開発に可能性を見出したのです。『ごっこ遊び』は、社会の仕組みを理解する上で極めて重要な学習プロセスです。将来への憧憬や興味の萌芽を育てる、このような本質的な学びをデジタル空間で実現する"ランド"の構築を目指しました。」

平田氏の構想から生まれた「ごっこランド」は、子供たちが多様な社会体験を疑似体験できるプラットフォーム。現在では月間2500万回以上のプレイ数を記録し、多くの子供たちの知的好奇心と社会への関心を育んでいる。同アプリでは、パイロット、美容師、ケーキ屋など100種類以上の社会体験が可能で、子供の主体的な学習を促進する教育的配慮が随所に施されている。

ごっこランド(子タブレット)
社会疑似体験プラットフォーム 「ごっこランド」

ベトナム市場での成功が示すグローバル展開の可能性 150万ダウンロードの実績

-海外展開の戦略と実際の反応について教えてください。

「ベトナムには複数の成長要因が存在しました。人口動態における若年層の増加、親日感情に支えられた日系企業への信頼、そして何より教育投資に対する家庭の積極的な姿勢です。家計における教育費の比重の高さは、同市場における教育サービスの潜在的需要を示していました。実際にベトナム版の成長は、想像以上でした。現地化においては、言語的な対応を超えて、ベトナム固有の文化的背景や価値観を深く理解し、コンテンツに反映させました。現地で重要視される社会体験の追加など、文化的親和性を重視したアプローチを採用しています」

この綿密な市場分析に基づく進出戦略は期待を上回る成果を実現し、現在ベトナムでは累計ダウンロード数が150万を突破。キャラクターとのコラボレーション企画など様々な施策で新規ユーザーの獲得を目指している。

事実、ベトナムでは中学・高校の80%以上でキャリア教育がなされることを目標として掲げており、国としてキャリア教育、社会学習に注力していることが伺える。同社のベトナム戦略はまさに、優れた計画性の上に成功したものといえる。

企業理念の深化 「育てる」から「応援する」への発展的転換

-企業理念の変遷について教えてください

「当初掲げていた『子どもの"夢中"を育てる』という理念に、上場を契機として『応援する』という概念を付加し、現在は『子どもの"夢中"を育て、応援する』という理念を掲げています。この進化には深い意義があります。『育てる』という表現は、ともすれば大人中心の教育観を示唆しかねません。『応援する』を加えることで、子どもたち自身の主体性を尊重し、我々は彼らの可能性を支援する立場であることを明確に表現したかったのです。子どもたちの興味や才能の方向性は、大人が規定すべきものではありません。子どもたち自身が発見した関心事を、周囲の大人が理解し、応援していく—このような社会の実現が我々の使命であると考えています。」

この理念の背景には、子どもの無限の可能性に対する深い信頼がある。

理念の実践において、同社では「子どもの視点」を重視している。サービス開発においては、子どもたちの自主的な選択を重視し、体験過程で創出された成果物を家族や友人と共有できる機能を実装。これは「応援する」という理念の具現化である。また、子どもたちからの直接的なフィードバックを活用する場を設け、真に子どもの視点に立った改善を継続している。

デジタルにとどまらない多様な体験機会の構築

-デジタルコンテンツ以外の取組について教えてください

「企業の社会的責任活動との協働や、地方自治体との連携による地域振興など、多様なステークホルダーとのパートナーシップを通じて、子供たちの学習機会をより豊かで多層的なものにしていきたいと考えています。

「『ごっこランド』を核としながら、デジタルとリアル双方からの総合的な学習体験の提供を構想していました。そしてこの構想は、ごっこランドに出店中の企業と共に、大型商業施設で、オリジナルのワークショップ(工作)を行うイベント事業、『ごっこランドEXPO』として実現され、防災、SDGsなど、実際に体を動かしながら社会体験ができる対面型イベントとして保護者にもご好評いただいています。

-企業や自治体との連携による社会体験の創出も行っているようですね

「デジタルプラットフォームを超えた実社会との連携にも積極的に取り組んでいます。地方自治体との連携においては、地域の特産品や伝統工芸を題材とするデジタルガイドブック・「ジモトガイド」を開発し、地域文化の継承と活性化に寄与しています。また企業との連携では、アプリで大手ハンバーガーチェーン店のコンテンツを遊んでいた子どもが、ある日そのチェーン店に行ったとき、子ども向けのクルー体験の案内を見てすぐに「やってみたい」と言い始めたというご報告を頂きました。」デジタル体験が実体験への興味を喚起し、子どもたちの社会参画意欲を高める、行動変容の好例といえる。

グローバルプラットフォーム構想 アジアから世界への展開戦略

-グローバル展開の今後の計画と展望についてお聞かせください。

「ベトナムでの実績をベンチマークとして、インドネシアをはじめとする東南アジア諸国への展開を推進していきます。各国固有の文化的背景や教育制度に対応したローカライゼーションが成功の要諦となります。長期的には、世界の子供たちが『ごっこランド』を通じて自らの可能性を発見し、将来への展望を形成できるグローバルな教育プラットフォームの確立を目指しています」

グローバル展開について、平田氏はベトナムでの成功モデルを基盤とした段階的な市場拡大を描いている。そしてこの10年間の展望について、平田氏は確固たる信念を示している。

「子どもの"夢中"が未来を創ると信じ、世界に発信しながら、子どもたちが主体的に学び、成長できる教育における新たな価値創造に継続的に挑戦してまいります」

平田 全広(ひらた・まさひろ)氏
株式会社キッズスター 代表取締役社長