日本とインドの架け橋に 元商社マンの事業構想

「日本とインドの融合により、新たな価値を生みだす。」をビジョンに掲げるIndobox(インドボックス)。代表の丹治大佑氏(事業構想修士)はインドに駐在した商社マン時代の経験を活かし、インド進出を目指す企業を支援しながら、物やサービスの交流だけではなく、人の交流を目指している。

丹治 大佑 Indobox代表取締役CEO、
事業構想修士(名古屋校2020年度修了)

大学院での研究を通じて
自分の弱み・強みを知る

住友商事の金属事業部門で自動車業界向け鉄鋼製品の国内販売・貿易業務に従事していた丹治大佑氏が、5年間のインド駐在を経て、事業構想大学院大学名古屋校に1期生として入学したのは2019年4月のこと。“インドロス”に陥り、これまでのキャリアを見つめ直したことが入学のきっかけとなった。

「帰国して、私にとってインドは他人の目を気にせず、自分らしくいられる場所だったということに改めて気付かされました。インドに後ろ髪を引かれる思いがある一方、商社では商材を軸に縦割り文化があるため、今までとは違った世界に触れて知見を広めたい、ゼロイチを踏み出す力を身につけたいという想いもありました。そうした矢先、職場と同じビル内に名古屋校が開校することを知り、運命的なものを感じて入学を決めました」

インド駐在の経験を活かし、「インドに日本の価値を提供するようなスキームを作りたい」と構想していた丹治氏は、トヨタ自動車で専務取締役を務めた岡部聰特任教授のゼミに所属した。

「岡部先生は新興国をフィールドに、世界70数カ国でトヨタの海外展開を率いた方です。それゆえ、人との関係性の作り方や社会に価値を提供するために大切なことなど、実務経験に即したアドバイスをいただけることが有り難かったです」

多様性の国・インドでの経験と同様に、大学院にも多様性を求めていた丹治氏。同期との関係については、「新しい事業を生み出したいという同じ志を持つ仲間と、本気で意見を交わし合う環境が得られたことは大きな刺激になりました。また、商社にいれば、一連の取引を通じてお金や物の流れを把握した上で仕事をすることは当たり前ですが、同期から『商流や物流を理解していることは大きな強みだ』と言われ、自分の価値を知ることができたことも自信につながりました」と振り返る。

日印間の人の交流を促進させ
両国の社会課題を解決

インドの子どもたちが幼い頃から社会と接点を持ち、たくましく生きる姿を目の当たりにした丹治氏は、修了時に提出した事業構想計画書では、子ども向けビジネススクール事業を構想した。卒業後も「日本とインドの架け橋になりたい」という想いは変わらず、会社に所属しながらインドに関する勉強会を開催するなど、インドの魅力を伝える活動を精力的に続けた。

そんなライフワークとも言える活動を通じて、インドビジネスへの注目が高まっていることを感じた丹治氏は2022年6月に退職。満を持して、今年5月にIndoboxを設立した。社名には「コインを入れるとお客様が聴きたい曲を提供してくれるジュークボックス(Jukebox)のように、インドのことなら何でも応えられる組織になりたい」との想いが込められている。

「インドの人口が2023年半ばに中国を上回り、世界最多になるというデータが公表されましたが、インドは平均年齢が28歳と中国以上に若い人が多い国です。経済発展によって中間層のボリュームも増しており、日本の付加価値の高い商品・サービスへのニーズが高まっているのです。これだけ巨大な潜在マーケットがあるにもかかわらず、日本ではインドのことがよく分からないという人が多いため、自分が道先案内人となって日本企業のインド進出を支援し、日本からインドへ、インドから日本へという双方向の流れを促進させたいと考えて起業しました」

インドの人口は2023年内に中国を上回り、世界最多となる見込みだ
(写真左はヒンドゥー教の聖地ヴァーラーナシー、右はムンバイの街並み、
Photo by Adobe Stock)

Indoboxでは「日本とインドの融合により、新たな価値を生みだす。」をミッションに掲げ、「教育・人材事業」、「高付加価値事業」、「特定プロジェクト」の3つの柱をメイン事業に据えている。丹治氏は、その根底には物やサービスの交流だけではなく、人の交流を増やしていきたいとの想いがあると語り、こう続ける。

「日本とインドが交流を深めていくポイントは相互補完にあります。1つは人材です。日本が少子高齢化による人材不足に悩む一方、インドでは人口が増え続け、若者の就職難という社会問題を抱えています。そこで、日本企業の人材不足をインドの優秀な若者たちが補うといった解決策が考えられます。特に日本ではIT人材や介護人材が圧倒的に不足しているため、例えば、インドのITベンチャーとの協業をサポートしたり、インド人技能実習生を増やして介護現場で働いていただくなどの選択肢もあるでしょう」

一方、国土の広大なインドにはエリアごとにパートナーがおり、Indoboxの元にはそれぞれのエリアから「日本企業と協業したい」といった相談を受ける機会が増えているという。

「ただし、日本とインドの商慣習は大きく異なるため、互いを理解しないままビジネスを展開すれば、ほぼ間違いなく失敗します」と丹治氏。一筋縄ではいかない日印関係だからこそ、同社のような専門家集団がインド進出を伴走支援することが重要と言えそうだ。

日本企業のダイバーシティを推進
活気あふれる地域づくりに貢献

今、新たに事業化を目指して動いている事業が2つある。1つは、インドで戦える人材の育成事業だ。丹治氏は、自身の原体験からインド進出の鍵は人づくりにあると語る。単に技術や知識、ノウハウがあるだけでなく、インドという国に順応して確実にパフォーマンスを上げられる人材に育てるべく、インド進出を狙う日本企業に独自の教育プログラムを提供していく考えだ。もう一つは学生の人材交流事業だ。高校生や大学生をインドに送り込み、現地の課題解決を行う短期プログラムも構想しているという。

事業構想大学院大学名古屋校でのインド企業関係者との意見交換会の様子。中央は岡部聰特任教授(元トヨタ自動車専務)

将来のあるべき姿として、丹治氏はIndoboxが日本企業のダイバーシティ経営の手本になる未来も描いている。

「当社にはインド在住者やインド人など、住む場所も国籍も異なるメンバーが集まっています。このような会社を日本中に広めることで、インドさながらの明るさとエネルギッシュに満ちた地域を増やしていくことが目標です。インドでは日本が強みを発揮できる分野がまだまだ多くあるため、ジャパンブランドのプレゼンスを発揮し、日本経済の成長に貢献できればと考えています」