時事テーマから斬る自治体経営 「議員定数削減」の注意点
議会改革の一環として、これまで全国の議会は議員定数を削減し続けてきた。しかし、安易に議員定数を削減するだけでは、議会改革に失敗する可能性がある。議員定数を削減すると得られるメリットは具体的に何なのか、削減する前にすべきことはないのか等をしっかり検討することが必要だ。
一時期と比較すると、議員定数を削減する傾向は弱まった。しかし、近年も「積極的に」議員定数を削減する議会が少なくない(表)。最近多いのは、議員報酬を増額する代わりに、議員定数を削減する傾向である。なお、全国町村議長会は「報酬を増額する代わりに議員定数を安易に削減しない」ことを求めている。今回は議員定数削減をする前に検討すべき注意点を考えたい。
表 議員定数削減の内容
議員定数削減は
正しい議会改革か
議論を単純化する。100人の村がある。そこに10議員がいたとする。この場合は1議員当たり10人の住民が対象となる。議会は定数削減を進め、5議員となった場合は、1議員当たり20人の住民に対応する必要が出てくる。民意を確実に把握するには、どちらがよいだろうか。議員の能力が一定とするならば、前者(10議員)の方が民意は確実に把握できる。
議会それぞれの事情があるとは思うが、ある程度議員数が揃っている方が、住民の意思は反映されやすくなる。ところが、近年は「議員定数削減競争」という現象が起きていた。少なくない議会が躍起になって、議員定数の削減に取り組んだ(「躍起となって」は失礼な言い方かもしれない)。
読者が議員の場合は、少し考えてもらいたいことがある。議員定数を削減し、目に見えるメリットは何だろうか(数値化できる効果は何だろうか)。筆者が調べた範囲では、明解なメリットが見られない。投票率の向上という正の相関は見られないし、議員提案政策条例が増加したというケースもない。
多くの議会はずっと議員定数を削減してきた。十数年間、議員定数を削減してきた歴史がある。そのため何かしら成果(あるいは失策)のデータが得られるはずだ。いま議会として、議員定数を削減した総括をする必要があると思う。議員定数の削減が、住民の福祉の増進につながっているのだろうか。
議員定数削減の法的根拠
議員定数の削減の法的根拠は「最少の経費で最大の効果」に置かれることが多い。同根拠が前提になるのならば、議員定数の削減(あるいは議員報酬の縮小)だけに限定せず、議会全体の「議会費」を精査する必要がある。議員数は少ないが、1人あたりの報酬が高いと、総報酬費が多くなり、議会費が膨らむことがあるかもしれない。議員定数だけではなく、議会費として確認することが肝要である。
ただし、地方自治体の歳出(目的別)を確認すると、議会費は全体の1%程度である(1%に満たない議会費が多い)。わずかな議会費の削減を検討しても、すぐに限界がくる。議会の一つの役割である行政監視機能を発揮するのならば、99%を占める執行機関の歳出に切り込む方が「最少の経費で最大の効果」を達成するために賢明である。歳出の内容を確認すると、無駄や不必要なケースが少なからずある。これらの削減を求めることにより、すぐ数%がカットできることがある。
議員報酬は誰が決めるのか
議員定数の減少と同様に、議員報酬の削減もトピックスとなってきた。ここでは一つだけ言及したい。今日、議員報酬が特別職報酬等審議会から答申されるケースが少なくない。首長の諮問に基づき同審議会で議員報酬が検討される事実に違和感を持つ。首長と議会(議員)の関係は二元代表制のはずだ。言い方に語弊があるが、議員報酬は執行機関が決めることになり、報酬を減らされたくない議員は適切な行政監視機能が発揮できないかもしれない。議会独自で議員報酬を決める必要がある。
議員が勝手に報酬を上げることに反対の声もあるだろう。第三者機関の意見を把握した上で議員報酬を決定したいなら、議会独自の報酬等審議会を設置することも考えられる。例えば、議会基本条例に「議員報酬等審議会」を設置するための条文を明記することも一案だ。同審議会において、議員報酬や政務活動費等を議論すればよいと考える。
議員定数削減の前にすべきこと
筆者は「議員定数を削減する前にすべきことがある」と考えている。その回答を導くため、読者に3つの質問を提示したい。この観点は筆者が何度か指摘してきた。
【問1】1議員で1仕事を担当している場合、10仕事は何人の議員が必要か。
【問2】能力の高い議員が多く、1議員で2仕事を処理する場合は、10仕事は何人の議員が必要か。
【問3】能力の低い議員が多く、1議員で0.5仕事を処理する場合は、10仕事は何人の議員が必要か。
回答を示したい。問1は「10議員」となる。問2は「5議員」であり、問3は「20議員」である。すなわち、議員の能力により正しい議員定数も変化することを意味する。
筆者が強く主張したいのは「議員定数の削減を検討する前に、まずは議員の能力開発が重要」である。ところが、多くの議会は議員の能力開発を議論せず、いきなり議員定数の削減に入るケースが多い。この現象は「議員である私たちは能力開発しても無意味ですから、議員定数を減らすことで対応します」と言っているようなものである。
真っ先に議員定数削減に取り組むことは、議員能力のなさの証明につながる。そして、議員一人一人の存在意義を否定しているとも指摘できる。この点は注意しなくてはいけないと思う。
議会改革の対処法
一般的に、議会改革を実施すると、議員の負担が増す傾向がある。読者に質問である。それは「1議員が1仕事とし、10議員で10仕事をしていた。議会改革により、5仕事が増加し合計15仕事になった。この時どうするか」である。いくつか解決策がある。
【ケース①】1議員あたり1.5仕事の能力を発揮して対応する(「議員の能力開発」になる)。
【ケース②】1議員あたり1仕事は変化せず、1人あたりの仕事に対する時間を1.5倍とすることで対応する(要は残業である)。
【ケース③】1議員あたり1仕事は変化せず、議員定数を5名増やして対応する。
【ケース④】福祉に強い議員は福祉関係を担当し、環境に能力が発揮できる議員は環境関係とする。議員間の役割分担で対応する。
【ケース⑤】1議員あたり1仕事は変化せず、増えた5仕事を外部主体に依頼し対応する。
筆者が勧めているのは、ケース⑤だ。例えば、筆者の所属する大学は横須賀市議会と地域社会における課題の解決などを目的に包括的パートナーシップ協定を締結している。大学に限らず、民間企業等との連携もあるだろう。
ずっと議員定数を削減する議論があった。改めて、その意義について検討する時期にきていると考える。
- 牧瀬 稔(まきせ・みのる)
- 関東学院大学 法学部地域創生学科 教授 / 社会構想大学院大学 特任教授
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