「リペア」 モノの修復から、人間関係・社会のリペアを考察

大量生産・大量消費を前提とした使い捨て社会は持続可能ではない。本書では、今あるものを修理しながら長く使う「リペア社会」を提案している。

二人の著者はともにハンガリー出身。ペーテル・エールディ氏は、現在は米国の大学で複雑系理論の教鞭をとり、ジュジャ・スベテルスキー氏はハンガリーで社会心理学の研究をしている。社会主義体制下の物不足のもと、壊れたら修理して使う、という過去のハンガリーに根付いていたリペアの習慣が共著の基盤になっている。

本書では、イントロダクションとして、著者の子どもの頃の修復体験を振り返る。また、「使い捨て社会」がなぜ勃興し、今に至ったのかを分析している。そして、循環型経済へのシフトが始まっていることにも触れる。

粗末に扱わないほうが得

本書のユニークな点は、リペアの概念を、物だけでなく個人や人間関係、地域、社会にも適用しようと提案している点だ。大抵の物品は、定期的に手入れや清掃をすることで、良い状態を保ちながら機能を果たすことができる。それと同様に、親子や友人、職場での人間関係から地域、社会に至るまで、破壊的な結末が起きた後で事後的な修復を行うよりも、先手を打つことでリスクと修理コストは減らせる。

例えば個人に日々のストレスが蓄積すれば「燃え尽き」が生じるが、適切な休息を取ることでそれは回避可能だ。友人関係や夫婦関係といった人間関係も、関係を完全に断ち切りたくなるほど悪化する前に双方が改善の努力をすれば、長期にわたって安定した人間関係を維持できる。都市の再開発において、再開発前よりも後の方が悪くなったという状況を避けるためには、一度にスクラップアンドビルドするよりも、あるものを残しながら少しずつ新しいまちに発展させた方がよい。

この他にも様々な事例において、混乱した状況を修復する方法を著者は考察している。回復力(レリジエンス)が担保されることが、リペア社会にとって非常に重要になる。例えば、災害の被害予測の精度を高めて被害を最小限にとどめ、いち早く復旧に入れるような備えをするように、システムの中に回復力を織り込んでおけば、長く繫栄する地域社会を築くことができる。

本書のまとめとして、著者は現在の世界を修復する方法について考察する。コロナ禍で国家の力が強まり、ナショナリズムが台頭したが、この大変化の中から新しい世界、すなわち経済的利益は小さいが、安定的でレリジエンスがあり、反脆弱的(壊れてもすぐに修理できる)な社会秩序が生じると著者は予測している。

物を大切にするとは、愛着のあるものを修理しながら長く使うこと。一方で、修理し使い続けることで生まれる愛着もあると著者はいう。周囲にリペアすべき物品や人・組織との関係、より大きな社会システムがないかを考えるきっかけになりそうだ。

 

リペア

「使い捨て社会」から「修理・修復社会」へ

  1. ペーテル・エールディ、ジュジャ・スベテルスキー 著
  2. 高見 典和 訳
  3. 本体 2700円+税
  4. 日本評論社
  5. 2023年8月

 

今月の注目の3冊

多文化共生社会を支える自治体

外国人住民のニーズに向き合う
行政体制と財源保障

  1. 沼尾 波子、池上 岳彦、池谷 秀登、倉地 真太郎、小島 祥美、関 聡介、関根 未来 著
  2. 旬報社
  3. 本体2200円+税

 

2022年末の在留外国人数は307.5万人で、過去最高を更新し、初めて300万人を超えた。在留カード及び特別永住者証明書上に表記された国籍・地域は、上位から中国、ベトナム、 韓国、フィリピン、ブラジルと続き、全195であった。こうした中、外国人を地域住民として受け入れ、彼らに寄り添った行政サービスを整える必要に迫られている。

本書では、ヒアリングや自治体アンケート調査をもとに、国籍、在留資格、居住歴が多岐にわたる外国人住民の多様なニーズと行政の課題を探っている。相談体制の動向から、外国人の生活保障、外国籍児の健康や教育機会の確保、国と地方自治体の多文化共生政策、行財政制度のほか、諸外国の事例として、カナダとデンマークの移民政策を取り上げている。外国人支援や国際交流団体の関係者、自治体職員、福祉関係者の職務に役立つ書籍だ。

 

ガチャガチャの経済学

  1. 小野尾 勝彦 著
  2. プレジデント社
  3. 本体1700円+税

 

ガチャガチャ(カプセルトイ)の2022年の市場は610億円に拡大し、第4次ブームが到来しているという。もともとは子ども向けの安価な玩具だったが、現在は女性向け商品が市場をけん引する。毎月発売される新商品は300種類以上、専門店や専門コーナーが急増し、ファミレスや回転寿司チェーンにも導入されるなど、販路としてだけでなく、集客手段としても注目されている。

市場拡大の背景には、高品質でユニークな商品展開、何が出るかわからないエンタメ性など、様々な点が挙げられる。さらに近年は、企業とのコラボや町おこしの手段としても注目されている。

本著は、ガチャガチャメーカーで多数の商品開発を手がけ、同ビジネスに約30年携わる小野尾 勝彦氏が、業界の歴史や最新事情から今後のビジネスやマーケティングのヒントまでを取り上げた、業界初の解説書となっている。

 

農業をデザインで伝える

—食と地域の課題を解決する方法

  1. 長岡 淳一、阿部 岳 著
  2. ファームステッド
  3. 本体1800円+税

 

コロナ禍、不安定な世界情勢、気候変動、少子高齢化などの問題が、農や食、地域に関わる仕事に深刻な影響を及ぼしている。

デザインとブランディングが一次産業に与える影響力を紹介してきたシリーズ3作目の本書では、ブランド価値を高める取り組みを通じて、課題に向き合う全国10カ所の生産者や事業者を紹介する。

オーランドファーム(北海道大樹町)、ELEZO(同豊頃町)、村松ホールディングス(同帯広市)、中屋敷ファーム(岩手県雫石町)、クロサワファーム(茨城県ひたちなか市)、ケー・アイ・エス(東京都文京区)、鎌倉紅谷(神奈川県鎌倉市)、白馬農場(長野県白馬村)、船方農場(山口県山口市)、八重山ゲンキ乳業(沖縄県石垣市)のインタビューに加え、CI&ブランド戦略コンサルタントの中西元男氏の特別対談も収録。属人的ではない、経営戦略としてのデザイン統合の必要性などを説いている。

 

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