助け合いのコミュニケーションをデザイン 地域の課題にも挑戦

日本初のQ&Aサイト〈OKWAVE〉を運営するオウケイウェイヴ。そのノウハウを活用したナレッジ共有、コミュニケーション活性化システムを事業の柱とする。同社で事業開発を担う廣川氏は、テクノロジーで助け合いの場をデザインし、社会の一翼を担う新事業の開発を目指す。

廣川氏の大学院在籍時の構想が元となった〈OKWAVE GRATICA〉。助け合いの温かさや人と人のつながりを可視化するサービスだ

コミュニケーションを新たに設計

オウケイウェイヴは、ウェブ上でのQ&Aサイトの先駆け〈OKWAVE〉の開設・運営で知られる企業。サイト運営に加え、現在では、企業のサポートセンターなどに向け、長年の運営で培ったコミュニティによるナレッジ共有システムやコミュニケーション活性化システムを提供するほか、これらを基にしたFAQシステムやAIチャットボットなどの事業を手がける。単なるQ&Aサイトの設置だけではなく、参加者が安心して質問・回答できるようウェブコミュニティのマネジメントに注力している点も同社のサービスの特徴だ。

事業構想大学院大学6期生で同社のプラットフォーム部 部長を務める廣川佳嗣氏は、Q&Aコミュニティと〈OKWAVE GRATICA〉サービスを統括する。〈OKWAVE GRATICA〉は、オンラインで感謝の気持ちを簡単に伝え合う従業員コミュニケーションツール。元々社内で運用されていたありがとうカードを大学院1年次にビジネスとして構想したプランがベースとなっており、社内のビジネスプランコンテストで1位を獲得したことからサービス化された。現在はデータ分析機能等も追加され、チームメンバーのサポートなど数字に表れにくい成果を可視化することで、従業員満足度やエンゲージメント向上につなげる。さらにテレワークなどで職場環境が変化するなか、スタッフの孤立抑止、コミュニケーションのフォローアップなど、メンタルケアにも活用できる。

廣川 佳嗣(ひろかわ・よしつぐ)
オウケイウェイヴ プラットフォーム部 部長、事業構想大学院大学 東京校 6期生(2018年度修了)

今後は、企業と顧客をつなぐ新たなコミュニケーションツールとしての展開も視野に入れる。同社がFAQシステムを提供するコールセンターなども対象と考えている。

「コールセンターは本来困りごとを解決できる場ですが、クレーム対応に終始しがち。もっと感謝の言葉が交わされてもよいはずです。こうしたコミュニケーションの設計は、IT企業の役割と考えています」

社会にあるべき機能として事業を構想

デジタルテクノロジーの効率性に感情をプラスすることで助け合いを促進するこのサービス。構想の原点にあるのは、大学生時代にインターンで上京した際に掲示板で出会った人とのルームシェア経験だ。ルームシェアが、地方では得難いインターンなどの機会を増やしただけでなく、これまでにない人との出会いにつながったことから、助け合いの大切さを実感するとともに「困っている人はたくさんいるが、それを助けられる人もたくさんいる。このマッチングの"場"を設計できればより多くの人が助かる」と感じたという。

なお廣川氏はこの後、上京する学生向けのルームシェアビジネスで起業を考え、小規模で地方学生向けのルームシェアサービスを手掛けていた。オウケイウェイヴ入社後もしばらく続けてきたが、「〈Facebook〉や〈PayPal〉などのデジタルプラットフォームがない時代、運営は大変でした」と振り返る。その後、空き部屋と滞在場所を求める人をマッチングさせる〈Airbnb〉が登場、「構想のレベルが違う」と衝撃を受けたことで、テクノロジーに加え"構想力"を身につけるべく、大学院への入学を決めた。

大学院ではバックグラウンドが異なる人と出会い、互いの構想について対話するなかで、事業構想では問いを出し続け、考え挑戦し続けることが欠かせないとの学びも得た。それだけでなく、自社事業の"捉え直し"ができたことも収穫だった。

「社会学の教授から、『これからは"利益の分配"から"負担の分担"にシフトする』との講義を受けた際、前向きにその負担を引き受けるための社会デザインが必要と考えました」

さらにこのフレームワークで、助け合いの場を創る自社の事業がさらにスケールアップすると気づいた。

「自社の事業を社会にあるべき仕組みとして一段高い視座から見直すなか、これこそが社会の一翼を担うような大きな構想につながる考え方であり、修了時の構想のヒントにもなりました」

持続可能な地域を支える
コミュニティ事業を構想

廣川氏が構想するのは"助け合いの人材データバンク"。背景には企業に加え行政でも人材が不足するとの課題意識があり、現在、自らの担う事業とかけ合わせ、実装に向けた取り組みを進める。

"負担の分担"は、持続可能な地域構築の手助けにもなる。同社では、移住に力を入れる自治体に向け、自社のユーザー参加型サポートコミュニティ開設システムをアレンジし、移住希望者の相談に移住経験者や地域住民が回答できるプラットフォームとして展開。廣川氏は、それぞれが能力を提供し合える地域参画の仕組みで「地域の困りごとすべてに公共セクターが対応する状況を変えたい」と、行政と協業し地域運営をサポートするサービス開発も検討中だ。今後は「助け合いの場を広げることに共感する企業や人と協業していきたい」と語る。

長年Q&Aコミュニティを運営するなか、匿名性が相談のハードルを下げることもわかってきた。同社では、厳しい運営規約などで信頼性や心理的安全性の高いコミュニティをマネジメントしてきたこともあり、サイトには身近な人にも話せない切実な相談も書き込まれる。コロナ禍で悩みを抱える人が増える一方、人との接触は制限されており、同社のサービスはセーフティーネットにもなりうる。そして良質なコミュニティとコミュニケーションをデザインし続けてきた同社だからこそ、公共セクターとの協業や社会基盤を担う構想が生まれたと言えるだろう。

廣川氏は「助け合いの場で〈OKWAVE GRATICA〉を活用すれば、個人がどれだけ他者をエンパワーできているかも可視化できます」と話す。こうした新たな評価軸は、社会的役割を離れた個人がより能力を発揮できる環境づくりにも役立ちそうだ。

「バックキャスティング思考で、もうひとつ事業の柱をつくりたい」と話す廣川氏。理想とする社会に向け「その仕組みが人の考え方も変えるような、社会の一翼を担う事業を開発したい」と語った。