農山漁村の活性化活動を表彰 グランプリは岐阜農林高流通科学科に
農山漁村に眠る資源を生かしながら地域の活性化、所得の向上に取り組む優良な事例を選定し、他地域の参考にしてもらう「ディスカバー農山漁村(むら)の宝」の表彰が3月2日、オンラインで行われた。グランプリを受賞した岐阜県立岐阜農林高校をはじめ受賞5団体、1人の取り組みを紹介する。
32の優良事例からグランプリ、
部門賞を選定
内閣官房、農林水産省の主催で行われている「ディスカバー農山漁村(むら)の宝」は、「強い農林水産業」、「美しく活力のある農山漁村」の実現を目的に、地域の活性化、所得向上に取り組む地域・事例の選定・発信を行う取り組みで、2020年で7回目を迎えた。
農山漁村の「地域活性化」「所得向上」をテーマとした活動に関わっている、もしくは興味がある事業者・自治体職員・学生・個人などで、一次産業、地域商社、観光業、まちづくり、地域コミュニティ形成、六次産業化、特産品開発、産業振興などの取り組みなどが対象となる。
団体部門(「コミュニティ部門」及び「ビジネス部門」)、個人部門でそれぞれ事例を募り、2020年度は、7月1日から9月4日にかけて募集が行われた。応募資料もとに、有識者懇談会による審査の結果、28地区及び4名を優良事例として選定。さらにこれらの中から、特に優良な事例について、グランプリ及び部門賞を選んだ。
今回グランプリに選ばれたのは、岐阜県立岐阜農林高等学校流通科学科(岐阜県北方町)。また、部門賞のうちコミュニティ部門では北海道美幌高等学校(北海道美幌町)、秋川牧園と飼料用米生産者グループ(山口県山口市)が、ビジネス部門ではマルセンファーム(宮城県大崎市)、GOTTSO阿波(徳島県阿波市)が、個人部門では石垣一子氏(秋田県大館市)がそれぞれ選ばれた。
表彰に当たり、坂本哲志内閣府特命担当大臣(地方創生)は、「地方創生においてはそれぞれの地域の特色を生かした創意工夫により地域の活性化に取り組むことが重要と考えている。今回選定された取り組みはまさにそれを体現している」と評価。また、野上浩太郎農林水産大臣は「農山漁村の活性化は皆さんの熱意と努力のたまもの。
「ディスカバー農山漁村(むら)の宝」
(第7 回選定)選定地区および選定者
農林水産業を若者が自ら未来を託すことのできる取り組みを心強く思う」と受賞者の取り組みをねぎらった。
GAP認証を取得し、
農家の取得支援にも取り組む
グランプリの岐阜農林高校流通科学科は、SDGsに関わる活動の一環として、生産する農作物の農業生産工程管理(GAP)認証取得に2017年から着手。地域農家のGAP取得支援を行うとともに、岐阜県に迎える東京オリンピック・パラリンピックのカナダ陸上選手団のおもてなしへと結びつける取り組みが評価を受けた。
同校では、GAPを高校教育に取り入れ、その取り組み、学習、実践により、持続可能な農業を目指している。GAP認証取得に向けて、農具などのチェック票を作成し、場所を指定。ベニヤ板で機械、お米、農薬の動線を分け、残さの捨て場も手作りのパイプで整備した。そして2019年度には県内農業高校では初めて、岐阜の暑い気候にも合うお米「にじのきらめき」でグローバルGAPの認証を取得した。
その経験を生かしGAP認証の普及と活用の取り組みをスタート。地域でGAP認証の取得を目指す農家に対して、わかりやすくアドバイスするための新たな方法として、災害時の医療の優先度を決めるトリアージの考え方を活用したカラーカードによる指示法「GAPトリアージ」を考案した。改善箇所の優先順位をカラーカードを使って伝えるようにした結果、伝えにくいようなことや時間のかかることが即座に伝達できるようになったとのことで、早期の認証取得にこぎつけた。
また、東京オリンピック・パラリンピックで岐阜をキャンプ地とするカナダ陸上選手団へ「ホストタウン岐阜」のおもてなしの1つとしてふるまうことを目標に、瑞穂市発祥の富有柿のJGAP認証を取得。瑞穂市と連携協定を締結し、富有柿を材料に使った柿パスタを開発した。さらにコーヒーについても国産コーヒーとしては初のGAP認証を取得し、カナダブレンドを開発するほか、デザートメニューも企画中だ。
カナダ陸上選手団に対してはこれら自校で生産する米や果物、コーヒーだけでなく県内からGAP食材、そして県の名産食材を使った料理メニューを考案している。また、これに合わせて、日本文化を体験するプログラムとして、伝統の雅楽と巫女による舞踊を織り交ぜた神前結婚式を体験してもらう予定だという。同校では「地域資源のすべてを組み合わせ岐阜県の魅力、伝統を余すことなく伝えたい」と話している。
在来種を守り、駆除ザリガニの
有効活用も考える
コミュニティ部門賞に選ばれた一つ、北海道美幌高等学校は、在来種のニホンザリガニを守るためにウチダザリガニを駆除する活動とともに、捕獲したウチダザリガニの有効活用までを考えた取り組みを進めている。併せて地域の子どもたちを対象に環境教育を実施し、地域ぐるみでSDGsへの理解を深める活動が評価された。
取り組みは12年前に鶯沢川で発見されたウチダザリガニを駆除することからスタートした。地域の小学生から高校生まで、また東京の高校生にも来訪してもらい、活動を発信し、駆除のための交流会を開いてきた。その結果、完全駆除に向けて広範囲な活動を行うことができた。2020年度の活動はコロナ禍の中で実施し、時間短縮、ソーシャルディスタンスに配慮した。保育園や地域の子どもたちへの環境学習を通じ報告、体験を普及。この7年間、オホーツク管内で1000人を超える人たちに活動を発信することができたという。捕獲したウチダザリガニの有効利用法の研究については、有機肥料や加工品などのほかに動物園への提供を実施し、有効利用の研究の幅が広がったという。
また、網走川水系の水質保全に向けた汚染状況の調査にも取り組んでいる。上流の鶯沢川から下流の網走川、網走湖までの環境調査では、2020年度はさらに規模を広げた調査を実施。水質改善の効果が確認できたほか、生活排水やごみ、マイクロプラスチック問題についても取り組んだ。今後も、駆除のための交流会の活動に工夫を凝らし、共同活動する学校、事業所、自治体を増やすことで環境保全活動を推進するとともに、論文などを通じ活動を世界にも発信していく。
生産者グループと連携し
飼料用米の自給化に挑む
コミュニティ部門賞のもう一つは、秋川牧園と飼料用米生産者グループ。秋川牧園は1972年の創業以来、鶏を中心とした安心安全な食づくりに総合的に取り組んでいるほか、農薬や化学肥料使わない野菜の栽培を実施している。
養鶏では、かつて飼料原料を海外輸入に頼っていたが、「安全性に不安のある遺伝子組み換えが広がり、食糧不足の足音も忍び寄っており、飼料を自給すべきとの思いを強くしていました」と同社社長の秋川正氏はいう。
それまで6次産業化を進めていた同社だが、鶏に食べさせる飼料までを作る7次産業化を目指して、2009年、0.3ヘクタールの試験田から飼料自給の取り組みがスタート。当初から多収穫とローコストを目標に掲げ、飼料用米の専用品種の北陸193号を選んだ。生産者グループを組織し、技術を習得するため年2回、全生産者がすべての圃場を回っての視察研修会を行っている。また、秋川牧園の鶏糞を発酵させることで良質な堆肥を確保。反当たり800キロの堆肥を投入している。こうした取り組みの結果「飼料用米多収日本一コンテスト」で2017年にはグループから日本一が出るようになった。また、飼料用米サイロを建設し、収穫もみ米800トンを保管する体制を整えることでローコスト化につなげている。
12年目となる2020年は生産農家22軒、面積135ヘクタールに広がっている。飼料用米を食べさせた鶏肉、鶏卵の販売も伸びているという。秋川氏は「飼料用米の栽培面積をさらに拡大し、SDGs、地域循環の仕組みに 磨きをかけていきたい」と話している。
デリシャストマトを糖度別に分
け、ジュースでの販売も
ビジネス部門賞を受賞したマルセンファームは宮城県大崎市で、水稲26ヘクタール、ホウレンソウ60アール、トマト1.5ヘクタール、キク1ヘクタールなどの栽培に取り組んでいる。中心はトマト栽培で、昔ながらの品種でしっかりした酸味を持つ玉光デリシャスを、節水栽培農法により糖度の高いデリシャストマトに仕上げる。1つひとつを光センサー選別によって6度から10度以上まで5段階の糖度に分けて販売している。ジュース加工を委託しトマトの出荷のない端境期は中元、歳暮を中心に、飲食店向けにも販売している。また、5年前から海外の展示会、商談会にも出展し、フランス、中東、東南アジアでも徐々に販売を増やしているところだ。
2019年度には台風19号被害でハウスが被災し、3メートル以上の浸水が10日間続く被害にあった。ボランティア、メーカーなどの支援により、復旧が早まり、20年1月にはトマトの定植、4月には収穫を迎えられたという。今後については、デリシャストマトを全国的に知ってもらうため首都圏スーパーへの新規出荷や体験型農園の開設を行っていく予定だ。社長の千葉卓也氏は「台風被害の支援への感謝の気持ちを忘れることなく、これからは地域のトマト生産者とともに高品質な東北ブランド商品を国内外に発信していきたい」と意欲を見せている。
子どもに好きになってもらう
ナスを生産、地域特産品に
ビジネス部門賞のもう一つ、GOTTSO(ごっつぉ)阿波は、阿波市の農業後継者が中心となって2012年に組織されたグループだ。同年の冬に、自分たちの作った野菜をより多くの人に食べてもらいたいと、東京のマルシェに参加したことをきっかけに「作るだけの農家から、生産も販売もする農家へと変わっていった」と会長を務める寺井稔氏。
阿波市で生産が盛んなナスだが、子どもの嫌いな野菜ランキングで常に10位以内に入っていることもあり、生産は減少し続けていた。そこで「好きになってもらうナスを作ることにした」と寺井氏はいう。着目したのが、在来種でほんのりと甘く、あくの少ない翡翠ナス。2013年から産地化に取り組み「美ーナス」の名称で新たな地域特産品として生産を開始した。地道に生産を続けていたところ、年を追うごとに「トロトロでおいしい」と子どもたちから言われることが増え、生産量が増えつつある。
次の目標は、東京オリンピック・パラリンピックの選手村に美ーナスを納品することだという。メンバーの生産者の1人はグローバルGAPの認証を取得し、他のメンバーも徳島県版GAPを取得。首都圏の営業にも足を運び、着々と目標に向けて歩みを進めている。「今後は野菜の出張販売、子どもたちへの食育などにも取り組みながら、現在阿波市内で栽培している美―ナスを徳島県に広げ、徳島県ブランドを高めていきたい」と話す。
農家のお母さんたちが
大館の食と魅力でおもてなし
個人部門の準グランプリに選ばれたのは、大館市まるごと体験推進協議会の代表を務める石垣一子氏。「大館市は比内地鶏の日本一の産地。きりたんぽがその鍋に欠かせないため、米どころ秋田県の中でもきりたんぽの本場と言われている」ことから、きりたんぽを通して大館の魅力を1人でも多くの人に知ってもらいたいとの思いで、2004年から修学旅行生の受け入れを始めた。
「一生忘れない素敵な思い出を持ち帰ってもらいたい」と、農業体験では、サツマイモ植えやねぎの定食などの「晴れの日のメニュー」に加え、ごまもち作り、山菜の皮むきなどの「雨の日のメニュー」も考えた。「生徒がまた大館に帰ってくる場所づくりが必要」との思いから、農家民宿もスタート。現在までに18軒の農家民宿が起業したという。
また、特徴のある秋田弁を生かして地域のことを伝えるために「爆笑秋田弁講座」も始めた。2015年には「秋田弁ラジオ体操」も考案。こうした取り組みが評価され、2017年度のJTB交流創造賞最優秀賞を受賞して以降、立て続けに地域おこしの様々な賞を受賞している。
「海外の方にも大館を体験していただき世界一を目指したい」とインバウンドの推進で台湾に出向き、台湾からも修学旅行生を受け入れているほか、大館を取り込んだ旅行企画も実現させた。外国人の体験受け入れ人数は2016年度までゼロだったが2017年度は439人にまで増えた。「これからも農家の母さんたちで大館の良さをさらに掘り起こしながら大勢の方々と交流していきたい」と石垣氏は笑顔で話す。
取り組みは年々進化
表彰を終え、「ディスカバー農山漁村(むら)の宝」有識者懇談会の座長を務める林良博氏(国立科学博物館館長)から講評が行われた。
「今回の応募はコロナ禍にもかかわらず約800件の自薦、他薦をいただいた。過去6カ年と比べ、取り組みの方向、内容が進化していることも実感した。今回目立ったことの1つは、高校生の活動が大人の活動とそん色ないレベルまで高まっていることだ。一方で大人の取り組みも負けていなかった。取り組みの内容だけでなく、取り組んでおられる皆さん自身が農山漁村の宝だ。皆さんのご活躍によってますます地方が輝き続けることを祈っている」と同氏は述べた。
「ディスカバー農山漁村(むら)の宝」は、2021年度も開催を予定している。応募は2020年度同様、7月ごろに受付を開始する予定だ。
受賞者の取り組みは「ディスカバー農山漁村(むら)の宝」特設Webサイトでも紹介している。
URL:https://www.discovermuranotakara.com/