2021年5月号

地域特集 福井県

福井県知事インタビュー 伝統を活かし、もっとおもしろい福井へ

杉本 達治(福井県知事)

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4回連続で幸福度ランキング全国1位の福井県だが、人口減少は進む。杉本達治知事は「解決には福井の良さを『見える化』する必要がある」と話す。間もなく実現する北陸新幹線福井・敦賀開業や中部縦貫自動車道の県内開通を契機に、福井県の存在価値を示し、大きく発展するための準備を着々と進めている。

福井県知事 杉本 達治氏
取材は、新型コロナウイルス感染症対策をとり、ソーシャルディスタンスを十分に保ち行われた(2021年2月16日)

福井のポテンシャルを高め
「福井に住む価値」を上げる

――知事が目指す福井県の姿についてお聞かせください。

知事に就任して最初に取り組んだのは、長期ビジョンの策定でした。私の基本姿勢は「徹底現場主義」ですから、長期ビジョンも県民の皆さまと共有するため、5000人を超える方々に参加していただき、約1年かけて作り上げました。長期ビジョンは、「『安心のふくい』を未来につなぎ、もっと挑戦!もっとおもしろく!」を基本理念にしています。長い歴史の中で先人たちが培ってきた「安心と信頼」の福井をみんなで守り、次世代に引き継いでいく。その安定した社会基盤をもとに、誰もが希望を持ち、様々なことに挑戦し、その挑戦を互いに応援しあう。そういう、ワクワク、ドキドキするようなおもしろい福井県を目指しています。

図表 2040年までに実現を目指す、福井県長期ビジョン

出典:福井県

 

福井はこれまで、県外の方々の認知度が高いとは言えませんでした。その理由の1つにアクセスのしにくさがあったと思います。しかし、今後、北陸新幹線の福井・敦賀開業や、中部縦貫自動車道の県内開通、舞鶴若狭自動車道の4車線化が進むなど、東京や大阪、中京方面とのアクセスは格段に上がります。

福井は幸福度ランキングで1位を取り続けています。また、子どもの学力と体力、どちらもトップクラスです。子育てのしやすさも日本一で、もともと非常にポテンシャルの高い地域なのです。アクセスの課題が改善されれば、福井のポテンシャルはさらに上がり、ワクワク、ドキドキするような福井県をつくっていけるでしょう。私は、「福井に住む」ことがトレンドになるような社会にしたいと思っています。今は理想の姿を実現するための取り組みを進めているところです。

「2040年のふくい」のイメージの一つ、「上質なくらしの先駆け WAKASAリフレッシュエリア」。豊かな歴史と自然、町並みに惹かれて多くの人が移り住み、新しい働き方と質の高い生活が両立する「くらしの先進地」を目指す

出典:福井県

伝統産業から県民衛星まで
「価値づくり」産業を創出

――福井県の産業施策について教えてください。

福井県には古くから続く伝統産業が多くあります。1500年の歴史がある越前和紙や越前漆器、700年以上の歴史がある打刃物、800年の歴史がある越前焼、メガネも明治時代から続く産業です。こうしたものづくりの基盤があることは福井県の強みです。「不易流行」という言葉のように、これからはそうした良いものを時代に合わせて形を変えながら磨きをかけていくことが大事です。

そのための取り組みも行っています。例えば、越前漆器・越前和紙・越前打刃物・越前箪笥・越前焼・眼鏡・繊維の工房・企業を一斉開放し、見学やワークショップを行うイベント「RENEW(リニュー)」や、若い人たちに作り手の技や製品、人柄に触れてもらい、工藝や手仕事を身近に感じてもらうイベント「千年未来工藝祭」がそうです。伝統産業を地域資源と位置づけて人を集め、観光産業を活性化する。その結果、伝統工芸の認知度は上がり、物が売れるようになる。こうしたサイクルを回すことも伝統産業の発展の仕方の1つだと思っています。

もちろん、新しい産業の創出にも注力しています。その1つが超小型人工衛星で、「福井県民衛星」が3月にカザフスタンのバイコヌール宇宙基地から打ち上げられます。この衛星は、福井県の高度なものづくりの技術を活かして県内企業が製造に参加しました。福井県にはなかった超小型衛星の製造や部材開発といった産業を創出しました。すでにルワンダの人工衛星など4基の製造を受注しています。また、福井県民衛星に搭載したカメラから得られるデータを活用するソフトウエアも県内のシステム系企業を中心に開発しました。今後は衛星のデータを防災や土木管理など幅広い分野で活用し、県民生活の向上に役立てます。

福井県は宇宙産業を新たな柱に育てるべく、超小型人工衛星の打ち上げを目指し、2016年に「福井県民衛星プロジェクト」を発足。県内企業を主体とした福井県民衛星技術研究組合を設立し、衛星の設計・製造、衛星データの利活用ソフトウェアの開発を行ってきた。2021年3月にカザフスタンのバイコヌール宇宙基地から打ち上げられる県民衛星「すいせん」のレプリカ。

カーボンニュートラルも、これからの産業のキーワードだと思います。その柱となるのが、世界初の全樹脂電池を自社開発した企業・APBの誘致です。全樹脂電池は現在のリチウムイオン電池の約2倍の電気密度を達成した上、安全性も非常に高く、今後世界の主流となることが期待されています。その電池の生産が福井で始まります。

これまでの福井県は重厚長大で投資額が大きく、多くの人を雇い入れてくれる企業を誘致してきました。これからはそれだけではなく、企業規模に関わらず新しい価値を生み出す企業をプロジェクトに合わせて誘致することにも力を入れていきます。今、小浜市に福井県立大学先端増養殖科学科の設置を進めていますが、これも単なる学びの場ではなく、小浜の海で養殖される若狭ぐじや小浜よっぱらいサバの生産性を上げ、味をよくして価値を高めるための課題解決なども担う場になります。そこに養殖業に関心のある県外企業を誘致し、高付加価値でブランド力のある新しい養殖業が育つようにしていきます。補助制度も価値づくりができる企業を誘致する制度に切り替えていきます。

若い起業家を育てる
「福井型エコシステム」

――福井は社長比率が高い一方、起業家の数は全国42位です。この状況をどのように見ておられますか。

実は、福井県の廃業率は全国でトップクラスの低さです。起業は少ないけれど、廃業しない。地道にしっかりと根付いて残っていける。その結果として社長の輩出率が日本一高くなっているわけです。しかし、起業が少ないということは「ワクワク、ドキドキ」の面ではプラスではありませんので、引き上げていく取り組みを始めています。

その1つが「福井型エコシステム」です。これは、すでに成功している先輩起業家の方々にメンターとなっていただき、これから起業したい若い芽を育ててもらう仕組みです。そして我々が力を入れているのが、起業を目指す人が投資家の前でビジネスアイデアを売り込むベンチャーピッチです。当然、1回ではなかなか出資してもらえません。ピッチで批評をもらい、メンターが開く経営塾などで学び、アイデアを磨き上げ、またピッチに立つ。そうすると次第に内容がよくなり、出資を募ることができるようになります。2021年度から、全国展開をめざす起業家を応援するファンドを官民でつくることになっています。また、2020年度から全国的に活躍している若い事業家に高校で授業をしてもらい、高校生のビジネスプランアイデアコンテストを実施しています。これはまだ投資するところまでいきませんが、確実に起業家の芽を育てることにつながるでしょう。

子育てのイメージアップが
人口の自然減を止める

――福井県は幸福度ランキングが1位ですが、人口減少は続いています。

幸福度に限らず、福井県は有効求人倍率が日本一ですし、子育て環境も日本一です。試算してみると、夫婦が60歳まで東京で生活した場合と、大学を出て福井に移住し、所帯を持って60歳まで生活した場合では、福井で暮らす方が世帯貯金額は3000万円多いという結果が出ました。しかし、こうした利点は福井に住んで初めてわかることです。

移住者が増えない原因は何かと考えると、都会に出て行った人が、福井でぜひ働きたいと思えるような魅力的な場所になっていないからかもしれません。仕事があって安心して子育てができれば移住したいと考えるかと言えば、そうではありません。センスと言うのでしょうか、福井で暮らすことに憧れが持てるようにしていかなければいけない。そのためには魅力を「見える化」していく必要があると思っています。

福井に限らず、地方の移住者を増やすにはこれまでの制度を見直す必要もあると思っています。例えば、東京の18歳人口は全国の8%ですが、全国の大学入学者数に占める都内大学への入学者数は約25%にのぼります。それだけ地方から東京に人が集まっていて、彼らの多くはそのまま東京で就職し、地方には戻らない。こうしたことが繰り返されてきたわけで、そこを国が制度的に打破する必要があると思います。

そして我々は福井を選んでいただけるよう、自分や家族みんなが人生を楽しめる雰囲気をつくらねばなりません。福井県は子育て環境日本一で、幼児教育は通常有償になる0歳から2歳も3人目のお子さんは全員無償、2人目のお子さんも一定の所得未満の方は無償です。これまでは「大変な部分を応援します」という発想での支援でしたが、今後はもう一歩踏み込みたいと思っています。子育てのマイナス面を埋める支援ではなく、子どもを育てることそのものが幸せになることであるという位置づけで政策を行っていきます。

人口減少の中で、自然減への対応をEBPM(エビデンスに基づく政策立案)で研究していますが、結婚にプラスのイメージを持つ人は早く結婚し、子だくさんの家族になるという研究結果が出ています。同様に、子育てのイメージアップをすることが婚姻年齢を下げ、子どもがたくさん生まれて人口の自然減を解消に向かわせるという結果も出ています。そこで当県では、安心して楽しみながら子育てをしてもらえるように今年「ふく育応援団」を設置予定です。社会全体で子育てを応援し、子どもを持つこと自体が幸せになるように頑張っていきます。

高速交通網の広がりに合わせ
人が集まる仕掛けづくりを

――これから北陸新幹線が敦賀まで延伸され、中部縦貫自動車道が県内開通します。福井県の将来のビジョンについて教えてください。

福井県は、岐阜県との県境が奥越前(奥越)、石川県との県境にはあわら温泉、滋賀県・京都府との県境が「嶺南」と呼ばれる地域になります。県境地域が、今回高速交通網が整備されることで、いずれの地域も県境フロンティア(玄関口)の機能を持つようになります。

あわら温泉は有名ですが、これまで関西・中京方面からの観光客が多く、関東方面からは1割程度でした。北陸新幹線が開通すれば大勢の観光客に来てもらえるようになります。あわら温泉から東尋坊や永平寺、恐竜博物館、伝統工芸の産地などを周遊してもらい、帰りもまたあわら温泉に宿泊してもらう。あわら温泉が福井県観光の入口としてにぎわうことが期待されます。

奥越は中部縦貫自動車道の開通で中京方面からの入口になり、愛知県のセントレア空港からのインバウンド誘致がより可能になります。また、中京の大工業地帯のサプライチェーンとして機能できます。また、敦賀では今、東南海地震が発生した場合のBCPの観点などから港の整備を進めています。太平洋側の港が使えなくなった場合に、中部縦貫自動車道を使って貨物を集めて、そこから各地に運ぶ。そういう役割を持つ場所になっていきます。

県内でも今後のポテンシャルが高いのは、敦賀以西の嶺南地域です。小浜市から京都まで、現在は2時間以上かかりますが、新幹線がつながればわずか19分で行き来できるようになります。嶺南地域を京都や大阪で働く人の生活圏として選んでもらえるように、スマートエリアをつくるなど、新しいライフスタイルを提案していきます。

高速交通網の広がりに合わせて、まちづくりや人が集まる仕掛けづくりを、国や民間企業などと協力しながら精力的に進めていきます。

 

杉本 達治(すぎもと・たつじ)
福井県知事

 

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