2020年11月号

MPD発の新規事業

1500億円の埋もれた市場・成人式を再定義する

中西 昌文(ソーシャルメイク 代表取締役)

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呉服産業は長い歴史を持つ伝統産業だが、コモディティ化が進んでいる。市場規模も2000年の約7200億円から2019年には2600億円ほどにまで落ち込んでおり、じり貧の状態だ。そんななかで、新たな呉服需要の喚起につながる〈家族のための成人式〉は業界で注目を集める。

コロナの収束が見えないなかで、密でない状態できちんとお祝いができるという点も好評だ。7月に開催された〈家族のための成人式〉は都内の有名式場である八芳園とのコラボレーション。需要が大きく落ち込む結婚式場などにとっても新たな機会となっている

7月中旬、梅雨の晴れ間がのぞく都内の結婚式場で〈家族のための成人式〉が開催された。緑の鮮やかな日本庭園を臨む会場では、晴れ着姿の女性と家族がメッセージを交わし、記念撮影を行う。1時間弱のセレモニーはプロの司会者が進行し、撮影もプロのカメラマンが担当する。

セレモニーでは、親・子双方から思いを込めたメッセージが読まれる。思わず涙する新成人も

〈家族のための成人式〉を企画・運営するのは呉服の小売や写真スタジオを手がけるいつ和。中西昌文氏は呉服業界向け管理ソフトを開発・販売する企業で写真館事業などを担当、同部門がいつ和に売却されたことをきっかけにソーシャルメイクを起業し、現在はいつ和へ出向して〈家族のための成人式〉事業に携わっている。

中西 昌文(なかにし・まさふみ)
いつ和 アニバーサリー事業部 部長/
ソーシャルメイク 代表取締役
事業構想大学院大学 東京校 3期生(2015年度修了)

中西氏は、"家族で成人式をする"という事業コンセプトを事業構想大学院大学への入学前から考えており、自身でも手応えを感じていたという。しかし「知識の習得や専門的な教員の指導を受けることでビジネスモデルやサービス内容をより充実したものにしたいと考え、入学しました」と語る。

理念先行で構想を実践

「〈家族のための成人式〉で最も大切にしているのは、"ご家族の思い出をつくる"ことです。大学院では、事業における"社会性"や"理念"の重要性を学びました。ビジネスの前線にいると、社会性や理念の大切さはわかっていても、利益がついてきてから考える、という順序になってしまいがちです。売上・利益ドリブンではなく、社会価値を前提に据え、それを実現するためにどう利益を生み出し、持続的に事業を行うか、という発想の転換ができたことが自分にとって最も大きな収穫でした」

利益優先で考えれば、ハイクラスの会場を使い、プロのカメラマンや司会者をつけて...という固定費の高いモデルは発想しづらい。しかし中西氏は「お客様の20歳になったお子さんとの思い出づくりをお手伝いする」という理念から構想をスタートさせた。収益化のハードルは確かに高くなるが、これを越えることができれば、圧倒的な差別化が実現できる。差別化が利益につながることは、中西氏自身、実際に事業を進めてきて実感しているところだという。

歴史を紐解き、成人式を再定義する

"思い出づくり"を事業の中心に据える中西氏が事業構想に取り組むなかで見出してきたことがもうひとつある。それは"成人式の歴史"だ。

成人式が現在のような形式になったのは戦後。江戸時代までは、16歳頃までに元服・裳着というかたちで成人の儀式が行われていた。栄養や衛生状況が悪く子どもの死亡率が高いこの時代、10歳頃まで子どもは"あの世とこの世の間にいる"存在ととらえられていた。成長して丈夫になり死亡率が下がる、まさに"人に成る"ことを祝う儀式だったといえる。

そして、戦後すぐの1946年に埼玉県蕨町(現在の蕨市)で"次代の青年に明るい希望をもたらす"という趣旨の下〈成人祭〉が行われ、1948年に祝日法で〈成人の日〉が定められる。成人祭や成人の日制定の経緯について、中西氏は史料や当時の国会の議事録等もつぶさに探索し、「成人の日の制定は、蕨の成人祭に触発された動きと思われます。背景には、学徒動員など、戦時中に若者を犠牲にしたことへの贖罪・鎮魂の意味があったのではないでしょうか」と語る。

そして現在では、毎年約120万人の新成人のうち8割ほどが自治体主催の成人式に参加しているという。参加率は上昇傾向で、レンタル晴れ着業者の倒産が大きなニュースになり、コロナ禍を受けたリモート開催が撤回されるほど成人式は重要なイベントとなっているが、会場でのトラブルなど、成人式の価値を巡る矛盾も生じている。

歴史の変遷を紐解いた中西氏がたどり着いた結論は、戦後70年以上が経ち平和な社会が実現された今、成人式は当初の理念がなくなってしまったために迷走しているのではないか、ということだ。

「大きな期待があるのに、実態とギャップがある。ここに市場があるのではと感じました。家を守るための元服、社会のための成人式を経て、今の時代のフォーマットを考えたとき、それは"家族"なのではないか。子どもにとっては親からの巣立ちの儀式、親にとっては子育てからの卒業式でもあると考えました」

"思い出づくり"を核に価値を訴求

中西氏が子どもをもつ親500名あまりに行った調査では「娘の成人式に特別な催しをしたいと思うか」という質問に対し約6割が肯定的に回答。バブル期は成人式用の振り袖は購入が当たり前で、撮影費用も含めて50万円ほどかかっていたが、現在はレンタルが主流で前撮り費用も含めて25万円ほど。減少傾向とはいえ世帯収入が半減しているわけではなく、中西氏は、バブル期から半減した25万円は「振り袖にかけるのでなければ払ってもよい」のではないかと仮説を立てた。約120万人の成人の半数、60万人が女性とすると、その額は1500億円。また、男性については手つかずの新市場であるともいえる。

この"埋もれた市場"を、家族での思い出づくりという新しい切り口で開拓しようというのが、中西氏の構想だ。

「コロナのなかでお客様と接していると、家族との絆を重視する方が増えています。この事業を通じて着物を着て家族で成人を祝うことを日本の文化にできたらと思いますし、今後は思い出づくりの発展形として旅行とつなげることも考えています。成人式の旅行の聖地のような場所がつくれれば、地域の活性化にもつながるのではないかと構想しています」

いつ和では、ブライダルサロンのように、家族が自分たちの成人式を相談できる〈成人式サロン〉も展開。親が娘の着付けを学ぶための着付け教室やアルバム制作、記念ジュエリーの制作なども提案している

 

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