2020年10月号
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持続可能な地域社会を再構想する

「場づくり」で終わらせない 具体的なアクションを生むためには

青山 忠靖(事業構想大学院大学 特任教授)

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既存の状態を破壊しいったん「無」という状況を創出する旧来型の再開発主義に対して持続可能な社会を目指す地域事業は、いまそこにある状況と向き合いながら将来に向けた計画と実行を一体的に行いつつ、功利性を抑制し、地域の公益性を重視するリベラルな地域事業を目指している。

迅速な社会実装へ、social update!

米国の都市計画コンサルタントであるライドンとガルシア(Lydon and Galcia, 2015)が提唱するタクティカル・アーバニズム(Tactical Urbanism)*1では、マイクロ・デベロップメント*2の実現を可能とさせる個々人による創造力の必要性を説いている。万全を期して遠い将来を想定しながら精緻に構築されていくプロジェクトよりも、アイディアに富んだ短期的で小規模なアクションが都市や地域をよりよい方向に導く*3可能性がそこには示されている。これは現代が、きわめて可変的なデザインと可及的な実装が求められている時代への移行期に入りつつあるとも考えられるのかもしれない。可変的で可及的である、ということはどういうことなのか? その一つの解として、社会実装という概念が挙げられる。横浜市政策局共創推進室の河村昌美*4課長補佐は、それをsocial update、すなわち社会を更新させていくための実装と考えている。具体的な事例を挙げてみよう。横浜市では貧困対策と食品ロス削減というこの2つを混交させることで戦術的な解決を図った。店舗の閉店や改装に伴う在庫商品の廃棄に要する経費の増大に悩んでいたセブンイレブンの廃棄品を横浜市に寄贈することで、在庫加工食品を生活困窮世帯へ配分するバリューチェーンを短期間のうちに構築したのである。小さくても迅速なアイディアの実装が、このように社会を確実に更新していくのである。

市民と公共機関の協働体
としてのコレクティブ

一方、事業とはインスパイアのみで成り立つものではない。アイディアを具現化させるためには資源投資が必要となる。ただ、公共事業には地域へのリターンの公平性・公益性が常に求められることになり、それらを担保することは経済合理性と利潤を追求する経営感覚では困難となりやすい。図にあるように、コレクティブ(collectives)*5とは、そうした一部に偏る功利性を排しながら、地域にかかわりたいと願う地域当事者たちの思いや願いを実現させるために、公共事業における市民と公共機関との協働事業体の新しいあり方を示す概念である。現実問題として、一般市民がいきなりアイディアを携えて行政機関と協働する展開はあり得ないだろう。図にもあるように、市民(citizens)と公共機関(institutions)*6というボトムとトップの間に、何らかの結合機能が要せられるからだ。すなわち、「状況のなかにロジックを発見しながら実践する*7」ためには人的資源の集積と結合は必須である。

いこま市民パワーという
コレクティブの事例

奈良県生駒市の、いこま市民パワー株式会社は、きわめてコレクティブ的な要素が強い。まず、企業母体は一般社団法人市民エネルギー生駒という市民団体が基幹組織となっている。公共機関には生駒市役所、生駒商工会議所、大阪ガスと地域主要金融機関である南都銀行が参画している。地域電力事業はいかに独創的な発想があったにせよ、条例等の縛りがあれば実施は困難となる。場合によっては制度自体を変える必要性が出てくるかもしれない。つまり自治体の方針や複雑な法制度を熟知した行政担当者の存在が欠かせないが、同社は小紫雅史生駒市長が社長を兼ねていることで、社会実装が可能となったのである。同社は収益を株主に配当せず市民サービスや地域活性化のために活用するが、それらのサービスは必然的に生駒市民全員が享受できる公共サービスとして還元される。サービスにおいても偏った功利性は排される。また、いこま市民パワーと契約を結んだ市民は、電気使用料金を支払うことで、同社の収益の使途を決める議論に参加する権利も得られる。これは経営会議ではなく、市民参加型のワークショップという形式をとるが、企業という功利の枠を越えたリベラルな共同体としての同社の姿勢がここに現れている。

図 いこま市民パワーのコレクティブの概念図

出典:www.thehackablecity.nlを基に青山忠靖(2020)が作図

 

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