2020年2月号

地域特集 埼玉県

埼玉知事が語る 日本一暮らしやすい県へ、スーパー・シティ構想

大野 元裕(埼玉県知事)

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2019年8月に埼玉県知事に就任した後、大型の台風やCSF(豚コレラ)の発生に見舞われるなど、数々の緊急事態に直面した大野元裕知事。危機管理に奔走しながらも、埼玉県の発展を目指した「5大プロジェクト」を着々と前進させている大野知事に、政策の方向性を聞いた。

内堀 雅雄(福島県知事)

上田県政を継承・発展させた
「5大プロジェクト」

――大野知事は、重点施策として「5大プロジェクト」を進められています。

大野 「5大プロジェクト」は、上田県政が力を注いでいた「3大プロジェクト」を継承・発展させつつ、新たな時代の潮流を踏まえ、「日本一暮らしやすい埼玉県」を実現するためのビジョンを示したものです。

具体的には、次の5つです。
①人生100年プロジェクト
② 埼玉版スーパー・シティプロジェクト
③共生社会プロジェクト
④あと数マイルプロジェクト
⑤世界のSAITAMAプロジェクト

埼玉県は上田前知事の時代から「健康長寿埼玉プロジェクト」として、健康寿命の延伸と医療費抑制のための施策を推進してきました。それをさらに拡充し、高齢者のスポーツ行動率UPを掲げたものが「人生100年プロジェクト」です。

寿命が延びるのはとても良いことですが、高齢者が幸せに暮らすには、長生きするだけでなく健康でいることが重要です。県では、高齢者が多く参加するスポーツ推進団体等と連携して、スポーツ参加へのインセンティブを付与するなど、運動を促進するきっかけづくりを行います。

スポーツ行動率を高めることで健康保険料の支払いの抑制が期待できます。つまり健康寿命の延伸は、高齢者はもちろん、高齢者を支える勤労世代、そしてその次の世代にとっても非常に有益です。

埼玉県は、75歳以上の人口が2015年の77万3000人から、2025年には120万9000人になると推計されており、日本で最も早く高齢化が進む県です。こうした急速な少子高齢化は、世界中で誰も経験したことのない大きな変化であり、さまざまな社会課題に直面することになります。例えば、社会保障の受け手と支え手のバランスが崩れる、高齢者の見守りができなくなる、地域に働き手がいなくなる、買い物難民や交通難民が増加する......。こうした数々の社会課題に対処しなければなりません。

私は、こうした課題を解決する有力な手段が「コンパクトシティ」だと考えています。「埼玉版スーパー・シティプロジェクト」はコンパクトな街の実現を目指したものであり、住居と職場が集積するエリアをつくり、ワークライフバランスを向上させ、子育て環境を整えます。高齢者の孤立や空き家問題、買い物難民や交通難民など、少子高齢化で生じる多くの課題解決に寄与すると考えています。

ただし、コンパクトシティ政策は、10年以上前から政府が推進しているにもかかわらず、多くの地域でうまくいっていません。「総論賛成」でも具体化する過程で「各論反対」に遭い、個々の会社や住民にとっては利益が見えず、移転しないことが多くなっています。

私は、民間などと連携してエネルギーを効率的に利用できるインフラを整備し、コンパクトシティを実現したいと考えています。地域内をITでつなぎ、エネルギーの地産地消を促し、スマート・シティをつくります。経済的にもメリットが得られるインセンティブを呼び水に、企業や住居を特定エリアに集積させていく計画です。

また、「埼玉版スーパー・シティ」に取り組む市町村には、県が施策を総動員してバックアップします。

ただし、「埼玉版スーパー・シティ」は、1期4年で簡単に実現できるものではありません。それでもプロジェクトとして掲げたのは、時代や環境が大きく変わっている中で、ビジョンを示すことが何よりも重要だからです。これからの10年を見据えたうえで戦略を描くのと、何のビジョンも持たずに対症療法的に予算を付けていくのでは、結果に大きな差が出てくると考えています。

県政においても
「経営感覚」が重要に

――他のプロジェクトについては、どういった取組を進めていくのですか。

大野 「あと数マイルプロジェクト」は、埼玉県の長所である「交通アクセスの良さ」をより伸ばすためのプロジェクトです。「あと数マイル」で県内や東京とのアクセスが改善される効果の高い部分について、公共交通や道路網を重点的に整備していきます。

「共生社会プロジェクト」は、LGBTQの方々を含めて、すべての県民が社会の中で受け入れられ、いきいきと活躍できる環境を整えるプロジェクトです。特に女性の社会進出には力を入れています。実は、上田前知事は国よりも先に女性活躍を打ち出しており、「ウーマノミクス」を推進していました。言わば埼玉県は「女性活躍のパイオニア」なのです。これまでの経験を活かしながら、時代の変化に合わせて取組を進化させていきます。

私は民間企業を経営した経験もありますが、県政においても「経営感覚」が重要だと考えています。1の投資で1の効果を得るのは当たり前。1の投資の効果を2にも3にもしていくことが大切であり、最少のコストで最大の成果を目指していきます。

例えば、子育てが一段落した女性のキャリア支援を充実させることは、「女性の社会進出の増加」という効果があるだけではありません。母親が働いている家庭は消費性向が高いことがわかっていますから、「消費の向上」にもつながります。さらに、子育て中の女性は地元商店街で多くの買い物をしますから、「地域経済の活性化」という効果もあります。つまり「共生社会プロジェクト」は、社会政策であると同時に経済政策でもあるのです。

「世界のSAITAMAプロジェクト」も同様です。埼玉県には約18万人の外国人が暮らしています。そういった方々にもっと活躍していただく場を提供します。また、県内企業のグローバル化を進めて、埼玉県から世界に打って出ることも重要です。さらに、子どもや若者が国際交流できる機会を増やし文化交流などを進めていきます。

こうしたビジョンを具体化させるロードマップとして、すべての公約129項目について「工程表」をまとめ、11月25日に発表しました。「5大プロジェクト」を含めた特に重要な35項目については、「2019年度中に新たな取組を本格化するもの」や「2020年度中に新たな取組を本格化するもの」など、より詳細な工程表を示し、すでに取組を開始しています。

災害時におけるトップの役割

――2019年8月に知事に就任された後、台風19号やCSF(豚コレラ)発生による風評被害という緊急事態に見舞われました。大野知事は危機管理の専門家でもありますが、こうした突発的事態において、リーダーには何が求められるとお考えですか。

大野 台風19号では、埼玉県では4名の方が亡くなられ、6000棟以上が浸水する大きな被害が出ました。

危機管理の観点で言えば、台風は事前に予測進路が発表されていますから、地震のように突発的なものではないという特徴があります。今回、特別な対応が求められたのは、過去50年、埼玉県では全土に被害を及ぼすような大規模な災害が起きておらず、県庁の職員にとっても未知の経験だったことでした。

そうした中で、まず、どれくらいの規模の台風がいつ来るのかという予想から、「Xデー」に向けた災害対応のタイムラインをつくり、インターネットやメディアを通じてそれを県民に呼びかけました。県庁として、各市町村の状況を確認するとともに、交通途絶が発生しそうな地域には台風が上陸する前に人員を投入しました。

台風の上陸後、被害は県内全域に及ぶことがわかってきました。こうした大規模災害を誰も経験したことがない中で、拠り所にしたのは災害対応の一般原則です。私はあえて現場には行かずに陣頭指揮をとり、「72時間は情報収集と人命を最優先する」ことを徹底させました。

災害時は情報が断片的にしか集まらず、全体を把握しにくい状況になります。そこで、情報を集めるために、一般の方がツイッターで身の回りの災害情報を発信する際は、ハッシュタグに「#コバトン防災」と入れてもらうように呼びかけました。同時に消防団の方々には「#埼玉防災」のハッシュタグを使ってもらいました。これによって一般の方々からの情報と専門家の情報をスムーズに整理し、共有することができました。

一方、CSF(豚コレラ)については、埼玉県が関東圏では初の発生になりました。そのため最初は、単発の事象なのか感染が広がっているのかが判断できなかったのですが、2例目が1例目のすぐそばで起きて、これは感染だと即座に判断し、その日の夕方には農林水産省へ行きました。豚へのワクチン接種に対する国の考え方を聞いて、養豚農家への財政支援や感染を防ぐための取組をお願いしました。

ワクチン接種が決まった後には厚生労働省大臣に対して、埼玉県から出荷される豚が不当に扱われないようにお願いしました。厚労省の対応は非常に迅速で、翌日には風評被害も含めて対応を始めてくれました。

台風もCSF(豚コレラ)も、県民の協力を得て危機管理を進めています。今後も、県民のみなさまの理解と協力を大事にしながら、県政に取り組んでいきます。

東京2020大会への期待と
レガシー創出

――2019年のラグビーワールドカップでは、埼玉県の熊谷ラグビー場でも試合が行われ、大会の盛り上がりに貢献しました。2020年の東京オリンピック・パラリンピックでは、どのようなことを期待されていますか。

大野 ラグビーワールドカップでは、熊谷ラグビー場で全3試合が開催されました。事前には、交通輸送体制や治安対策が懸念されましたが、大会後、一部メディアから「熊谷の神対応」と評されたほど、運営は成功に終わりました。ボランティアの協力のお陰だと考えています。

ラグビーワールドカップにおいて、全3試合が開催された熊谷ラグビー場。同大会では、運営面でも高い評価を得た

また、3試合で計約1万5000人の小中学生を試合観戦に招待したのですが、出場チームの国歌を覚えてきて、試合前の国歌斉唱ではそれを大きな声で歌ってくれました。小中学生にとって貴重な経験になるとともに、海外の選手からもとても喜ばれました。

東京オリンピック・パラリンピックでは、東京に次いで2番目の多さとなる4つの競技会場で、オリンピック4競技、パラリンピック1競技が埼玉県で開催されます。ラグビーワールドカップ同様、県民の方々の参加の場を県が提供し、海外から訪れる選手団や観客の方々をおもてなしして、埼玉県の良さを発信していきます。そして、「みんなのオリンピック」というレガシーを残していきたいと考えています。

埼玉の魅力をさらに発展させる

――大野知事は、「日本一暮らしやすい埼玉県」というビジョンを掲げられています。

大野 私は当選時から一貫して、「県民目線での政治」を進めてきました。そして県民にとって何が一番良いのかを考えた時に、大事なのは「暮らしやすさ」です。

埼玉県は、荒川や利根川などの豊かな河川や、秩父の美しい山並をはじめとする豊かな自然環境と、都市の賑わいや交通の便利さを兼ね備えています。私は、埼玉県は全国の中でも暮らしやすさのレベルが高い県だと思っています。

荒川沿いの長瀞岩畳(左)や秩父市の羊山公園(右)。埼玉県は、そうした豊かな自然とともに交通の利便性を兼ね備えており、暮らしやすい環境がある

実際に、最初は埼玉県にマイナスのイメージを持っていた方でも、「住んでみると意外と暮らしやすい」と言ってくださる方がたくさんいます。

これからの時代、埼玉県も変化への対応が求められます。そうした中で、暮らしやすさのレベルを2段階でも3段階でも高めるため、「5大プロジェクト」に全力で取り組み、「日本一暮らしやすい埼玉県」を実現させていきます。

 

大野 元裕(おおの・もとひろ)
埼玉県知事

 

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