トートバッグをブランディング 背景にある理念と構想

トートバッグを「より良い社会に変えていくMEDIAであり続ける」ものとして展開したい。自身と地域のルーツを深掘りして独自のブランディングを確立し、院生同士のシナジーも多数創出。今年には承継起業を経て、世界一のトートバッグ専門ブランドを目指して新たな展開を志す。

神谷 富士雄(かみや・ふじお)ルートート(ROOTOTE)代表取締役、事業構想大学院大学 東京校1期生(2012年度入学)

神谷氏の出身地である静岡県浜松市は機械製品や楽器などモノづくりが盛んな街。大学進学のため上京後、シェフを目指して学業の傍ら飲食業界の稀少なアルバイト経験を積むなど「修行」に励むも、大学卒業後は兄が創業したスーパープランニングに入社。

2011年、事業承継と事業構想の洗練を学べる社会人大学院が開学することを知る。大学院には、今後の事業展開や事業承継を意識し、2012年に1期生として入学した。2年間の修士課程を経て常務取締役に就任してからは、ブランディングマネージャーの立場として活動する。

多様なプロダクト開発から
トートバッグだけに絞り込む

神谷氏の家系は戦前まで造り酒屋を営んでおり、忍冬(=スイカズラ「金銀花」)の葉を使った忍冬酒(にんどうしゅ)を造っていた。忍冬酒は、永禄元年から昭和18年まで約400年造り続けられ徳川家康愛飲の薬膳酒として遠州地方に広く知られた。

創業者である兄がデザインオフィスを1978年に立ち上げて以来、ライフスタイルZAKKAメーカーとして年間1200の多様なアイテムを企画販売していたが、2000年ごろ、トートバッグだけに絞る決断をする。

2001年、トートバッグにカンガルーのお腹のようなサイドポケットを付属させ、「カンガルー」の語尾(ルー)だけを残して「ROOTOTE(ルートート)」というトートバッグブランドを命名。

立ち上げてからはトートバッグ専門ブランドとして「Fun Outing!(楽しいお出かけ)」をコンセプトに、オリジナル商品と数多の異業種とのコラボレーション展開し続けている。また、大学院生同士のコラボレーションも行われシナジーが生まれている。

ルートートには4つのファクターがある。ブランドの主成分といったところである。

誰もが手にしやすいリーズナブルな商品であること(経済性)、アーティストやデザイナーのインキュベーションサポート(文化性)、社会問題解決や環境を気遣うこと(社会性)、老若男女・ファッションの嗜好の広がりに対応していること(多様性)によってモノとコトを作り上げている。

ROOTOTEブランドを構成する4つのファクター

©ROOTOTE CORPORATION

 

なぜ、トートバッグの
ブランディング事業を進めるのか

ルートートは「世界一のトートバッグブランドになる」をビジョンとして掲げている。しかし、ごく普段使いの「只の手提げ袋」を、どのように競争の激しい市場(レッドオーシャン)の中でプロダクトとして顕在化させるのか。

在学時はこれまで展開してきたことについて、様々な観点から裏付けを行った。

ルートートが10の独自性を持っていること、主な購買層である女性の社会進出によって可処分所得が男性よりも増加していること、そもそも女性は衝動買いする気質をもったジェンダーであること、究極は、ヒトの身体が現在の基本構造を保つ限り、ルートートは普遍的に身近な道具であり続ける、と。そして、これからを見据えたミッション・ステイトメント「イノベーティブなクリエイションを基に独自にデザインされたモノやコトを創り出し、絶えずより良い社会に変えていくMEDIAであり続ける」を掲げた。

これがトートバッグとしての機能性を超えてメッセージを付加することにつながり、多様なシーンでの利用を促すインセンティブとなった。

ターゲットは老若男女、トートバッグ好きな人

このように,たとえコモディティアイテムでも、他と一線を画する独自性や、コラボレーション、文化性や社会性の要素をもったブランドとして仕立てれば成長できることを確信した。

「渋谷での地産地消」 産官学のコラボレーション

承継から新会社設立へ
更なる新展開を志す

創業40周年を経た翌年の2019年、新会社としてブランド名を社名に冠した「株式会社ルートート」を設立。「プロフィットとベネフィットを両立させた『世界一のトートバッグブランド』にする」をビジョンとして掲げる。

続く在学生や志望者に対しては、以下の3つをメッセージとして送りたい、と神谷氏は考える。

第一に、大学院に入学を志す時点からプロジェクトが始まっている。修了の要件である事業構想計画書の作成そのものが、直ちに新事業のシーズになる。その意味では、進学にむけた準備そのものが新しいアイデア創出にむけた構想プロセスの一環というわけだ。

第二に、インナーコミュニケーションの重要性。「ステークホルダーを親友・師・家族のようにリスペクトをもって接すること。親密な中にも敬意を持った関係性を築くことが、良いアイデアの発露につながりますし、良いプロダクトを共に創り上げていくうえでは不可欠です」

最後に、慌てず、胆を据えて自身でやりとげようという意識を持つ。

「トートバッグはアクセサリーでもあり、普段のライフスタイルの中で親しまれる『ファッション・コモディティ』でもあり、ともに心地よさを提供するプロダクトだと捉えています。これからも様々な社会課題やカルチャーシーンに即して使われる良質なプロダクトを生み出し続けていきたいです」(神谷氏)。

5月には新刊書籍『トートはアートだ!』も発売した