2018年8月号

MPD発の新規事業

大学院同級生の後押しで地酒を商品化、福島の復興に貢献

月刊事業構想 編集部

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産業廃棄物再生の専門企業で東北地域を拠点に活躍。2011年に発生した東日本大震災を契機に、土地と人の「和」を取り戻す復興を考え抜いた。同期生の協力を得て立ち上げた新事業が、いよいよ本格稼働を迎えている。

堀切 吉雄(ほりきり・よしお)恵和興業 復興事業本部・執行役員 2015年入学・4期生

平岡 誠司(ひらおか・せいじ)生産地問屋平岡商店 代表取締役 2015年入学・4期生

地酒でふるさとを元気に

堀切氏が楢葉の酒造りプロジェクトを提示したのは事業構想大学院大学一年次在学中の終わり。東日本大震災を経てがれき処理や除染作業に田畑が利用されていく光景が当たり前に目にされる中、楢葉の原風景を取り戻しコミュニティを再生したいと思い、酒米を通じて「人をつなげ、ふるさとを元気に」する取り組みを構想した。結果的に修了時の計画としては提出されなかったが、「福島で仕事をしている以上、地域の復興・地域社会の復興に期するところはある」と、思いを秘めた。

環境ビジネスを通じて復興には貢献しているが、より地域活性に資する取り組みがしたい。そう考えていたところに巡り合ったのが、広島に拠点を持ち、老舗酒問屋の承継と再生の経験を持つ同期生の平岡氏だった。

「酒造からその流通まで何一つプロではない自分を後押ししてくれた。共に楢葉町からしたら余所者(ヨソモノ)である身として、事業構想を志す仲間が協力してくれたことは心強かった」と堀切氏。最初は田圃のオーナー制度から考え始めたが、地元住民の心理に鑑み、酒米を利用する形に落ち着けた。最初は少人数で始めた事業も、楢葉町役場の職員、地銀の支店長、生産農家が協力を申し出てくれるなど、徐々に理解者も増えた。

「それぞれ地域にゆかりのある事業者を巻き込み進んでいくプロジェクトの中で、我々にできることは情報流通(マーケティング・コミュニケーション)、ハブの機能を果たすことで地域に失われていたバリューチェーンを再循環できるのではないかと考えました」と平岡氏。facebook・Twitter・InstagramなどSNSをフル活用し、独自性あるキャッチコピーを考案するなど、発信に努めた。

「知恵と技術開発で地域の産業発展と自然環境との調和を図り、人と地球に思いやりの『わ』を広げ持続可能な社会を創造する」が恵和興業の企業理念。「本業の社名(恵和)にもなっていますが、「わ」は、和・輪・環・話とも表記でき、復興を象徴するような言葉であると感じていました。楢葉の酒造りプロジェクトを始めたときから振り返ると一種のブランディングとして位置づけていたのかと思います」(堀切氏)。事業構想大学院大学への派遣を命じた所属先が示した理解も大きかった。「社長から『収益は考えなくてよい』という言葉をかけられ、ある意味で気が楽になったかもしれません。数字にナーバスにならず、真に地域のためになることをしようと」。

そんな堀切氏の活躍を間近で見る平岡氏は「堀切さんの凄いところは、『余所者だが怯まない』ところにある。地元の人たちと接しても力まず自然」と評する。いわゆる「産廃屋」と敬遠視される事業者が酒造りに関わることには様々な目線や声があるだろう。だが事業を立ち上げて数年経った今や、堀切氏は楢葉の人の輪に溶け込み、新聞やテレビなどの地元メディアにもたびたび出演するなど、既に「楢葉の顔」となっている。

楢葉の酒ラベル(上)とお披露目会の模様(下、2018年4月18日)

構想の根源は想い
短期間に確立したスキーム

賛同者が得られたプロジェクトは、加速度的に進んだ。2017年10月には、町役場・商工会・観光協会などが参画したプロジェクト委員会を発足。楢葉の地酒造りが本格的に進行し始めた。収穫された酒米は、姉妹都市の関係から酒造を依頼した会津美里町の白井酒造店へ生産農家が売却。製品となった日本酒は同酒造から、プロジェクト委員会が指定した小売店へ卸される。種類の製造/販売には、酒税法上の免許が必要となるが、既存のスキームを再構築し、賛同者それぞれが本業を生かした役割を果たしたことで、短期間での販売開始にこぎつけた。

図 楢葉の酒造りプロジェクトスキーム

出典:堀切氏提供資料

 

地酒は楢葉、会津美里両町のふるさと納税の返礼品に使用されることが決まった。姉妹都市の関係を結ぶ両町の絆を深める懸け橋ともなっている。地元の関係性に要所要所で関わっていくことで、短期間に深いつながりを構築した。「恵和興業は地域の企業誘致で楢葉町に拠点を置いたのですが、自社がこの地域でどう業を営むのか、という立ち位置を明確にすることができました」(堀切氏)。「少し離れた視点から見ると、リサイクル業は元来、プロジェクトの表には出ず、終盤で次のサイクルの準備に携わったり、様々なとりまとめに関わったりするものでしょう。その意味で、産業廃棄物再生を業とする堀切さんがこの酒造りプロジェクトの先導を切ったのは、象徴的だと思います」(平岡氏)。

4月18日には町関係者、地元住民、地元企業、自社の社長が列席するなかで堀切氏が発起人を代表して挨拶した。「地域のために始めた事業が、いつの間にか地域に育ててもらっているという実感があります。これから楢葉町と手を携えて発展するうえでの良い契機になったかと思います」(堀切氏)。

持続的な成長に向けて

2017年12月に地酒名を「楢葉の風」と決め、4月に第一期をスタートさせたいま、誘客や観光資源としての開発こそこれからの課題、と両氏は考えている。「復興から7年経ち、必要性から夢・理想を描く段階に来た。一過性の流行でなくハードからソフトへ、ツールからコミュニケーションへと整備すべきところのシフトが来ていると感じます。地酒づくりは、あくまで交流を促すきっかけ。いずれは多くの人に楢葉町を訪れてもらいたいと考えています」と語った。

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