地方創生に必要な3つの人材とは 制度がないからチャンスに

人口減少が急激に進む日本社会に一手を打つ、地方創生。地域経営、まちづくりの課題が浮き彫りになった今、人と地域、人と人、人と仕事をつなげることが必須となる。その課題とビジョンとは何か。

人口減少を直視した取組

国が重要政策として掲げる「地方創生」。今、大がかりに取り組む背景には、人口減少という大変動がある。それは地方から表れ、いずれ東京にもやってくる。

日本の将来人口動向

◯ 2110 年の人口は、2010年(100年前)に比べ、総人口が約3分の1、生産年齢人口と年少人口が約4分の1まで減少する。

※赤色は、2110年までの100年間でピークとなる年を示した。

出典:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」

2015年1月から16年6月まで内閣官房 まち・ひと・しごと創生本部事務局・地方創生総括官を務め、人口減少に立ち向かってきた山﨑史郎氏は「人口減少社会の中で、日本はこれから試練の時を迎えます。その先駆けが地方。ここで処方箋ができ、新しいビジョンができれば、最終的にそれが日本の新しいビジョンとなるでしょう」と話す。

日本の人口は2008年から減少に突入。人口減少の第1段階となる2020年代初めには、総人口で年間60万人の単位で減る。第2段階の2040年代には、それまで増加していた高齢者人口の増加も止まり、第3段階の2060年以降は高齢者人口の減少が進み、総人口は年間100万人程度減少することが予測される。

この現象は地方から大都市へと広まっていく。「私の出身地である山口県・下関では、既に高齢者の増加が止まった第2段階に入っています。さらに地方へ行けば、高齢者も減少し始めている状況です」

自然発生的な人口減少に加え、大都市圏への人口流出も地方の人口減少を極端に早める原因となっている。現在は、東京一極集中が顕著で、毎年約12万人が地方から東京へ転入。大半が大学生を含む20代の若者だ。地方は、将来の地域を支える最も重要な若年層を、毎年大量に流出しているのだ。

山崎 史郎(元・内閣官房 まち・ひと・しごと創生本部事務局 地方創生総括官)

地方創生の課題は「タテ・ヨコ・セン・タン」

地域活性化への取り組みはこれまでもされてきたが、残念ながら成功事例は多くない。問題点として、政策・行政における「タテ」=府省庁別の縦割り、「ヨコ」=一律横並び、「セン(浅)」=施策が地域に浸透しない、「タン(短)」=予算に合わせた短期的思考が挙げられる。

まち・ひと・しごと創生本部では、これら問題点を克服し、地域が総合力を結集して取り組めるよう、全都道府県、市町村に対し、「地方人口ビジョン」と「地方版総合戦略」の作成をお願いした。

人口ビジョンでは、地域ごとにより詳細なデータ分析をした上で今後の人口減少の姿を明確な数値で表した。客観的なデータを公表し、地域住民や地元産業界に広く知らせることで、人口減少に対する危機感、意識を高め、取り組みの理解と協力を得ることが目的。

総合戦略は、地域の産官学金労言の連携態勢を作り、具体的なプロジェクトを推進することが大きな狙い。地方自治体だけの戦略でなく、地域全体として取り組むことが重要。5カ年戦略とすることで、短期的発想ではなく5年先を見据えPDCAを回すことで、具体的な数値目標の達成を促すもの。

昨年度、この「地方人口ビジョン」、「地方版総合戦略」が出そろった。

多彩な人材を揃えたチームが必要

国は「情報支援の矢」、「人的支援の矢」、「財政支援の矢」を三本の矢として、地方創生を支援する。「中でも重要なのは人材支援です」と山崎氏。

まち・ひと・しごと創生本部では地方創生人材支援制度を設け、自ら手をあげた意欲と能力のある若い国家公務員、大学研究者、民間人材を、人材が欲しい市町村にマッチング。市町村の補佐役として派遣している。

「地域の活性化には外部の目が欠かせません。若い人が地方へ行けば、経験は足りなくても、必ず別世界が形成される。行政の枠を超えた地域としての取り組みに発想が向かうのです」

チームとしては、行政トップ、マネージャー、現場人材の3層構造が望ましい。まず、首長をはじめとして行政がしっかりしていることが必須。そして、年齢性別に関係なく、現場で取り組む人材が必要。こうした人材は地域おこし協力隊などで育ってきている。

難しいのは、行政と現場人材の中間を担うマネージャー的な人材だ。アメリカのシティマネージャーのような役割を果たし、与えられた予算を最も効率的に使うだけでなく、持続的なビジネスに結びつけることのできる人材。最適なのは、企業など民間ビジネスを経験したことのある30~50代の人材。こうした人材をどう大都市圏から地方へ引き戻すかがカギとなる。

「特に、地域産業、観光、医療福祉の分野のプロジェクトにはそれぞれ核となる専門家が必要とされています」

制度はないが待ったなしの地方創生

人材の他、重要になるのが、地方における魅力的なしごと創りだ。ローカル経済で大きなシェアを占めているのが、交通、飲食、宿泊、小売、医療福祉といった分野だ。この分野における労働生産性の低さが最大の課題であり、これから解決すべきところだ。

「地方創生はいわば制度のない世界。つまり、決まりきったことさえすれば成果がでると言うわけではありません。一つひとつの事業をやってみて、失敗を重ねながら改善していくしかありません。そして、待ったなしの状況、今やらねばならないことを強く認識しなくてはなりません」

日本の未来は、スピード感のある地方創生への取り組みにかかっている。

山崎 史郎(やまさき・しろう)
元・内閣官房 まち・ひと・しごと創生本部事務局 地方創生総括官

全文を読むには有料プランへのご登録が必要です。

  • 記事本文残り0%

月刊「事業構想」購読会員登録で
全文読むことができます。
今すぐ無料トライアルに登録しよう!

初月無料トライアル!

  • 雑誌「月刊事業構想」を送料無料でお届け
  • バックナンバー含む、オリジナル記事9,000本以上が読み放題
  • フォーラム・セミナーなどイベントに優先的にご招待

※無料体験後は自動的に有料購読に移行します。無料期間内に解約しても解約金は発生しません。