第1回 社会人大学院生が選ぶ ニッポン事業構想大賞 座談会

事業構想大学院大学の社会人大学院生が、第1回ニッポン事業構想大賞として選んだリンカーズ・前田社長(大賞)、エアークローゼット・小谷取締役CMO/Founderをお招きして座談会を開催した。両名の考える理想の事業と実現への構想を伺った。

大賞:リンカーズ/最終ノミネート : エアークローゼット、Spiber

左)前田 佳宏 氏(リンカーズ 代表取締役)、右)小谷 翔一 氏(エアークローゼット 取締役CMO/ファウンダー)

日々の気付きをビジネスに転換
業界に革新を

--今のビジネスモデルに行き着いた経緯をお聞かせください。

前田:リンカーズは、「日本の産業構造を変えたい」という想いからスタートしています。産業界で新製品を造る際に、98〜99ピースは揃ったけれども最後の1〜2ピースが足りないがために開発が前に進まないというケースが非常に多い。そういった足りない技術を持っているのが、地方の中堅・中小企業であったりします。そこを上手くつなげ、企業同士の最適なマッチングを提供することで産業界の仕組みを変えていきたいと考えます。そもそも産業構造の変革を目指すようになったきっかけは、前職のコンサルティング会社で太陽光発電事業を担当したことでした。

コンサルはバリューチェーンを描いて、各業界でどれくらい利益が得られるかというプロフィットプール分析を行います。太陽光発電事業の場合、上流の材料やセル業界は競争が激しい一方で、下流のファイナンスやシステムインテグレータ業界はライバルが少なく潜在的な利益も高い。このような状況下で、なぜ上流のメーカーが下流に進出しないのかを調べてみると、単純に下流部分の状況を知らないからだということが分かりました。これは問題だと思い、日本の大手メーカーに対して欧米のシステムインテグレータあるいはファイナンス会社を買収するよう仕掛けました。しかし、このプロセスでは1案件に対して1年ほどの時間がかかります。より効率的な方法として、300業界くらいのバリューチェーンを全て見える化したプラットフォームを作ることを決めたのが全ての始まりです。

リンカーズのビジネスモデル

発注イメージ

段階評価イメージ

ものづくりを中心とした企業のマッチングを支援するプラットフォームを提供。全国200以上の産業支援機関に所属する1000名以上のコーディネータが軸となり、その高い網羅性と目利きにより最適なパートナーを見つけ出すシステム。プロセスとしては、発注者が第一次選定条件を作成、一般公開されていないプラットフォームで共有し、コーディネータがその条件にフィットする地元企業を推薦。推薦された企業の強みや評価、コーディネータの評価を加えた情報をリスト化し、発注者がリストを参考に候補を絞っていく。

 

小谷:「新しい洋服との出会い」をより効率的にお客様に提供することを目的とした我々のファッションレンタルサービスは、ファッションを楽しみたいけれども、そこに時間投資ができない女性をターゲットにしています。このビジネスのアイデアは代表天沼の日常での気付きから生まれました。

彼の奥様が出掛けるときに必ず「着ていく服がない」とおっしゃるようですが、クローゼットには山ほど服が詰まっている。ショッピングに出掛けると手に取る商品は既に持っている洋服と同じようなデザイン、色のものばかり。ここで「着る服がない」という言葉の背後には、いつも同じ服ばかりを購入しコーディネートの幅が狭まっているという問題があることを発見。

日々のバリエーションを提供して新しい洋服、デザイン、ブランドや色味に出会ってもらうことをテーマとした事業構想に辿り着きました。また、ITを使ったシェアリングエコノミーという新しい経済概念に沿って、UX(体験)を提供していきたいという想いもベースにありました。

エアークローゼットのビジネスモデル

月額制ファッションレンタルサービスを提供。月額制会員に登録すると、スタイリストが事前登録した服のサイズや好みなどの情報を基に選んだ洋服3着が郵送される。期限はないため、お客様の好きなタイミングで返送。返却すると、次の3着が送られてくるシステム。レンタル料・送料・クリーニング料込みで月額6800円。デザイン、色、ブランドなどバリエーション豊かな洋服・コーディネートをレンタルという形で提供することで、より効率的に新たな服との出会いを創出している。気に入った服は買い取りも可能。

 

--その事業構想を形にしていくうえで苦労されたことはありますか。

前田:リンカーズを立ち上げて3年10ヶ月になりますが、ここに辿り着くまでには何度か失敗を繰り返しています。当初は各業界のビジネスマンに業界のバリューチェーンを集約した同サイトに登録してもらい、様々なテーマについて議論できる場を作りました。しかし、機密情報との関連性もあり、なかなか情報が表に出てこず、結局3ヶ月で見切りをつけました。ここで方向転換を行い、企業が技術を登録する展示会のようなシステム「eEXPO 」を立ち上げました。

震災の1年後でしたので復興支援という観点から、東北の産業支援機関40社くらいに飛び込みでアプローチ。99%は断られましたが、東北経済連合会だけが興味を示してくれました。そこから、東経連と一緒に同地域の企業を400社ほど回り「eEXPO 」に代行登録を行いました。

しかし、その内容を産業コーディネータにチェックしてもらうと、企業の強みがほとんど出てないと言われ、最新の技術開発・製品に関する情報を載せるよう勧められました。一方、企業側の回答は「契約の関係上その情報は出せない」の一点張りです。何とか企業の強みを全面に出した上でマッチングを行える方法はないかと検討した結果、技術に関してだけでなく社風や社長の特徴など全てにおいて精通している、このコーディネータの知識を軸としたビジネスモデル、HI(ヒューマンインテリジェンス)×ITのシステムを思い付きました。これが現在のリンカーズの土台となっています。

小谷:エアークローゼットは昨年の夏に会社を設立し、サービスをスタートしたのが今年2月になりますので、紆余曲折あるのはこれからかと。シェアリングのサービスですので、シンプルな話、ブランドから調達したものをどれくらいの回転数・使用率であれば快適にご利用いただけるのかというところが収益と満足度につながります。この点に関して、お客様からのフィードバックを参考に統計データを蓄積していくことが、今後の展開において重要かと思います。

喫緊の課題は、ユーザー数が成長を続けるなか、在庫量との調整を図っていくことです。ユーザー数が急激に増えすぎても、在庫が足りなければサービスをお待ちいただくことになりますので、そこは戦略的に広報活動を行いコントロールしていく必要があります。このUX自体はお客様にとって価値があるものだと確信していますので、システム的なところは前に進みながら調整していく予定です。

--業界初の新たなビジネスモデルを展開し、市場を創出していくなかで、どのような変化を経験してきましたか?

前田:私自身、いかに効率的に短期間で事業を成功させるかにおいて重要なのがレバレッジ(てこの力)だと考えているため、以前はRubyの開発者であるまつもとゆきひろさんや実業家・評論家として幅広く活躍されている藤沢久美さんといった影響力のある人にアドバイザーになってもらい、そこから機会を広げてきました。しかし、最近では実績を上げていくなかでお客様側から問い合わせがくるようになりました。

日本のものづくりが沈んでいくのを防ぐ一つの手段として、リンカーズが重要視されつつあると思います。ある意味、公共機関のような役割を果たしているのですが、官僚主義的な手続きのある公共団体が進めるよりも、我々のような民間企業がリードした方が結果につながりやすいかと考えます。新たなビジネスモデルを展開していく上で重要なのは、市場の状況に瞬時に適応できる意思決定のスピードです。

小谷:当社も創業当初から、お客様の声を反映しながら都度システムを改善してきました。お客様やスタイリストのフィードバックをベースにしながら、毎日のようにシステムの改修を行っています。こういった改善をすぐに反映できる仕組みが社内にあることが重要です。日々の積み重ねが、大きな変化へとつながります。

グローバル市場への進出
業界でのポジショニング確立を狙う

--事業モデルの今後の展開は?

前田:ワールドワイドなビジネスを展開していきたいと考えています。そのための手段として、海外企業と日本の中堅・中小企業をマッチングするための仕組みづくりが必要になります。いま考えているのが、言語および技術的な面で両社の契約提携をサポートできる人材を集め、日本ものづくり株式会社を設立することです。

日本の中小企業は自社の強みを理解していないケースが多く、その状態で海外企業とのマッチングが進んでしまうと、コアとノンコアの見極めができないまま、コア技術が海外へと流出してしまうリスクがあります。こういったリスクを抑え、日本での量産を可能にしていきたいです。ただ、そうするとコストが高くなるので、工業のデジタル化によって製造コストを大幅に削減する「インダストリー4.0」を進めていきたい。生産施設をネットで結んだ生産システムを形成し工場シェアを実現していきたいと考えています。

前田 佳宏 氏(リンカーズ代表取締役)

小谷:このレンタルファッションが、一般的な服との出会い方として普及するよう育てていきたいです。お客様が自分の気に入った洋服に出会える機会を創出するとともに、新しいブランドやデザインにレンタルという形で出会うことで最終的にそれが購買意欲につながれば良いかと。お客様にとっても、ブランドにとっても価値のある仕組みを築くことで、ファッション業界でのポジショニングを確立していきたいと考えます。目標は2020年までに17万人の月額会員を獲得すること。そのために現在、3つの戦略を掲げています。

まず始めに、洋服だけでなくアクセサリーや帽子、バックといったスタイリングをワンランク上げるアイテムを取り入れていくこと。2つ目として、マタニティやキッズ、メンズなどの分野にも進出しラインナップを充実させること。そして3つ目が、グローバル市場、主にアジア市場への進出です。ここでは洋服の提供だけでなく、日本のコーディネートやスタイリングを海外へと浸透させるビジョンを描いています。

小谷 翔一 氏(エアークローゼット取締役CMO/ファウンダー)

業界全体に価値をもたらすことが持続可能性のカギ

--本賞は、独り勝ちの事業ではなく、地域企業や業界他社を巻き込んでシナジーを生み出す事業、社会の一翼を担う事業であることを審査・選考の一つの基準としています。御社の今後の発展可能性を含め、お聞かせください。

小谷:当社の最終的な目標は、ファッション業界全体の成長です。作り手側のブランド、スタイリスト、ユーザーの全員にメリットを生み出していかなければ、大きな成長は見込めません。お客様には、今まで購入しないと試せなかった様々なコーディネートをより効率的な方法で楽しんでいただくことで価値を生み出し、ブランド側にはこのシステムを通じて蓄積した情報を提供することで、改善や作り手のモチベーションへとつなげていってほしいと考えます。

例えば、ある女性がある洋服をお店で試着したけれども購入しなかったとします。この場合、どこが気に入らなかったのかという情報はお店に残りません。つまり、ブランド側にもそういった情報は届かないということです。我々はWeb上でお客様からフィードバックをいただいているので、喜びの声も辛辣な言葉もストレートに届きます。四季を通じて特定のお客様とお付き合いし、その特徴を把握できるのも強みです。こういったお客様の率直なご意見をブランド側に届けることで、共に成長していきたいと考えています。このデータは、ファッション業界にとって価値のあるものに育っていくと確信しています。ブランドとユーザーの距離を近づけ、それに派生するビジネス展開も考えられると思います。

前田:リンカーズの行動理念では、ステークホルダー全員の利益を最大化することを掲げています。そうしないと事業全体が上手く回っていかないと考えます。我々が目指すのは産業の変革なので、そのための手段として色々な人を巻き込まないと大きな変化は起こせません。産業構造の変革を実現できる持続可能なビジネスを目指して、創業当初から大きく変えてきたのが落選企業への対応です。

当社のシステムでは、マッチング企業として全国から50〜100社の候補企業を募ります。しかし、最終的に残るのが1〜3社。数十社が落選します。その落選企業、そこを推薦したコーディネータに次回からも継続して参加してもらえるよう落選理由を記したレポートを提供しています。まず発注者側に落選させた理由を書いてもらい、当選した企業との違い・弱みを表にして渡します。この作業をマニュアルで行うのではなく、それまでに入力した情報が自動で集約されるシステムによって行い効率化を図ることで、各社に手厚いサポートを提供できています。このように持続可能な仕組みこそが、今後の発展につながると思います。

Spiberが目指す“クモの糸”の産業化

この度のノミネート、一同大変嬉しく、そして有難いことと受け止めております。私たちは、クモの糸をはじめとした構造タンパク質素材の実用化・産業化を進めると同時に、世界規模で価値を生み出せる新産業の拠点に必要なインフラ整備、街づくりを並行して進めています。新産業と、それを支える街づくりを、2つのベンチャー企業が両輪で進めているという点は、世界的にみてもユニークだと思います。

私たちSpiberは、自動車やアパレルなどの産業分野における直接的な事業パートナー企業のみならず、完全地域主導・地域資本の不動産開発ベンチャーであるYAMAGATA DESIGNを中核とした地元企業群、そして市・県・政府といった行政機関と、垣根なく価値観を共有しながら、相互補完的に事業を進めています。

共有している価値観とは、直接・間接を問わず、個人が社会に対して生み出せる価値(貢献)を最大化していくことが、個人の存在価値・存在意義を最大化していくことであり、個人の幸せを実現する一番の近道である、という考え方です。事業や組織も、これを実現するための手段の一つと考えています。今後も、組織にとらわれず個人個人の信頼関係を大切にしながら、本当に価値のある事業を構想・実現して参りたいと思います。

関山 和秀 Spiber 取締役兼代表執行役 Photo by Tetsuo Koike

 

<ニッポン事業構想大賞>

世の中に必要とされる事業を構想し、社会を活性化している人物を表彰する制度。選出および審査は、事業構想大学院大学の社会人大学院生が中心に、修了生、教授、ゲスト講師が行った。詳細は事業構想大学院大学のホームページにて掲載する。

 


2016年度入試 出願受付中

事業構想大学院大学は、社会で必要とされる事業の種を探し、事業構想を考え構築していくMPD(事業構想修士)を育成する、クリエイティビティを重視した、従来の枠を超えた新しい社会人向け大学院大学です。1学年30人の少人数制、平日夜間と土曜日に授業を行い、院生全員が社会人です。
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