2015年2月号

MPDサロンスピーチ

成熟社会こそ自らの変化を 小が大に勝つ「非価格競争力」

落合 寛司(西武信用金庫理事長)

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資金需要が落ち込み、どの金融機関も軒並み貸出金の伸びはマイナスとなっている。オーバーバンキングである日本で右肩上がりの成長を見せるのが、西武信用金庫だ。理事長の落合寛司氏が、その成長の舞台裏を語った。

変革期に活躍できる人物像を「何事も“ポジティブ”に捉え、“プロ意識”が高く“自ら仕事をする”、さらに“スピード”や“遊び心”がある人」と語った

成熟社会での生き残り

長期間続いたデフレにより、停滞した日本経済。その影響を「1000円のものが800円でしか売れなくなった。さらに市場の縮小により、これまでは1万本売れた商品が、7000本しか売れないというダブルパンチ。

これにより企業は大きく収益力を落とした」と説明するのは、西武信用金庫理事長の落合寛司氏。現在は、世界の経済の主役が先進国から新興国に変わった変革期。高くてもよりよいものを作れば売れた時代から、新興国主役の“安くてそれなりのもの”が求められるようになってきた。

「そのため、生産コストの削減が必須となり、生産拠点の海外進出や非正規雇用が進み、産業の空洞化が起こり日本はジリ貧の状態になっている」と分析する。苦しい経営状況は金融機関でも同じだ。成熟社会では、収益拡大も難しく、資金需要は落ち込む。その結果、日本ではオーバーバンキング状態となり、1991年から2003年の間に357の金融機関が潰れていった。

さらに生き残った金融機関も軒並み貸出金の伸びはマイナス。この厳しい経営環境の中で、落合氏は2010年に同金庫の理事長に就任すると、金融業界において“奇跡”とも呼ばれる成長へと導き、注目を集めた。2014年3月の預貸率は全国平均が約50%という中で、71.5%と高い実績を持つ。

さらに、不良債権比率は約2.8%、延滞率0.1%。(業界平均0.92%)と全国の信金はもちろん、メガバンクも含めた金融機関全体を見渡しても、トップクラスだ。成功の要因は、同金庫のとった『お客様へのコンサルティング機能の強化』という戦略だった。

「原点回帰」で付加価値ビジネスに転換

落合氏は大手にできず、小さな組織にしかできないこと、つまり「自分たちの非価格競争力をどう持つか」を徹底的に考えた。「その答えが原点回帰でした。私たち信用金庫の設立趣旨は相互扶助であり、利用者保護が目的です。それを徹底的に追求する決断をし、ビジネスモデルの変革に着手しました」力を入れたのが『お客さま支援センター』の開設だ。

「相互扶助の金融業として、地域の困った中小企業にお金をちゃんと貸す。貸した相手が経営不振になると私たちも潰れてしまいますので、お客さまの問題点や課題を解決するお客さま支援センターに力を入れる。言ってしまえば当たり前のことを当たり前にやったということです」

金融業がコンサル機能を持つという発想は、落合氏が理事長に就任する前から業界全体で言われていた。しかし、相談業務は利益を産まず、短期的に見るとコストばかりがかかる非効率な業務。そのため、金融機関の行うコンサルは実効性が極めて低かった。

それでも「大手では非効率となることも、工夫次第では効率に変えられる」と規模の小ささを逆手に取ってコンサル機能の充実に邁進した。「課題は自社だけで解決しようとしてはいけません。特に中小企業は人不足だから問題がどんどん先送りになってしまう」。

西武信用金庫・理事長落合寛司氏

同金庫の『お客さま支援センター』では、内部だけでなく、東京大学などを含め外部に1000を超える組織とパートナーシップを結び、外部人材を活用することで、あらゆる課題解決に対応できる体制を構築した。企業の相談は販路開拓や経営革新、事業承継や再生計画策定、海外進出など多岐にわたる。「企業からの相談に対しては、相談内容だけでなく、どのような経営者や企業に、どのような人材を提供するべきかという判断が重要。専門家ネットワークだけでなく、専門家の目利きと言ったノウハウが当金庫の強みになっています」

人事戦略が変革を後押し

続けて変革期に活躍できる人材について、「世の中や社会やお客様が悪いという他責タイプではなく、自分が変われば変えられると思う“自責”タイプ。そして、何事も“ポジティブ”に捉える人。そして“プロ意識”が高く“自ら仕事をする”タイプ。さらに“スピード”や“遊び心”が大切」と語った。同金庫はそれらの人材を揃え、活躍させる人事戦略も優れている。優秀な人材を確保するため、一人あたりの人件費は業界内でも高い。中途採用も40歳以上は前職で年収1000万円以上の人材でないと採用しない方針もある。

「給料の高い安いは、払っている名目賃金ではなく、実質賃金で見る必要があります。1000万円払っている職員はそれ以上に利益をもたらしてくれる優秀な人材。しかし450万円の職員は自分の給料分も利益を上げていないこともある。能力が高いから給料が高いというのは、スポーツ選手の年俸と同じです」と、実質賃金を重視する。

また、ボーナス査定も同役職でも250万円以上の差をつけるなど成果を出した人を評価する制度を徹底している。それ以外にも定年制の見直しや、若手職員を積極登用する立候補制度など、職員の競争意識を高める人事制度が同金庫の変革を大きく後押しした。ビジネスモデルの転換という決断、それを後押しする人事戦略の構築にリーダーシップを発揮する落合氏。経営者としての成功のキーを次のように語った。

「トップが一つの事象をピンチと見るか、それともチャンスと見るかが大事です。変革期には何もしない方が、リスクが大きいこともあります。自然界は強いものが生き残るのではなく、変化したものが生き残っています。強かった恐竜やマンモスは生き残れなかったが、小鳥は生き残っている。企業も同じです」落合氏の包み隠さず何でも語る姿勢に、参加者からの質問が積極的に飛び交う会となった。


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