研究でうみだす事業アイデア 事業構想と創造的リサーチ思考

新しい事業をうみだすという冒険を支援する「創造的リサーチ思考」。情報の収集と編集、仮説形成と思考実験、実験と結果の公表という研究者の「発見」「発明」のプロセスをたどることで、事業アイデアを発見する。

事業構想は“冒険的な”営み

事業構想は、一つの冒険である。自分自身の手で新しい事業を始めることは、真に冒険的な営みであり、新規企業をベンチャー(冒険的)ビジネスと呼ぶことはそのニュアンスを適切に表現している。では、一人の冒険家として、これから新しい島に向かおうとするとき、皆さんは地図を持たずに航海に出るだろうか? その先にあるのは、青い海か、赤い海か。行ってみなければ分からない。そんな冒険心(Venturesome)こそが、ベンチャービジネスに必要とでもいうのだろうか。

コロンブスが大西洋航路を発見したのは、偶然と冒険心だけの産物ではない。綿密な研究と常識に縛られない着想力がその行動をひきだしている。命がけの冒険であるからこそ、万全の備えが必要であり、あたらしい島に向かう事業構想家は、地図を準備し、天候をよみ、十分な備えをして航海にでるべきである。誰も行ったことのない島であれば、正確な地図は手に入らないし、天候も不確実である。しかし、分かっている部分の地図だけでもあれば、悪天候の際の退避場所も確保できるかもしれないし、必死のおもいでたどり着いた先が元の場所などと愕然とすることもない。

事業構想家に、実行力が求められるのは言うまでもない。しかし、「実行」を「実効」に転換するものが「研究力」ではないだろうか。冒険をするからこそ、実効的な計画が必要であり、そのためには綿密な研究が不可欠である。

多くの冒険的な事業構想家がその事業をうみだす際に、自分自身の手で「研究」をしている。事業アイデア創出のきっかけとしての「研究」という活動に着目し、「創造的リサーチ思考」という枠組みを提案したい。

「研究」とは知識を増やすことではない

事業構想家に、なぜ「研究」が必要なのか、疑問に思われる方もいるだろう。むしろ「研究」でイメージするのは、知識だけが膨大に増えて、行動できなくなってしまっている姿かもしれない。しかし、研究者は、過去何千年と「新しい知識の発見と社会課題の克服」に貢献してきた。その思考方法は、同じく新しい事業によって社会に貢献する事業構想家にも有益なものであると思われる。

一般的には、研究は以下のような流れで進んでいく。まずは、自分自身で問題についてじっくり考察し、予備調査を実施する。その上で徹底的に先人がおこなった研究の検討や情報収集をおこない、自分が取り組もうとする分野の状況を正確に理解する。

「何が知られているか(既存の知識)」について、文献調査や討議、予備的な調査によって丹念に調べることで、「何が知られていないか(新規の知識)」を明確にする。その上で自分自身の研究目的と研究のテーマを定め、自分がどのような問題を解決しようとしているのか、どのような新しい知識を創造しようとしているのかを定めていく。そしてそのうえで、設定した問題やテーマに対して、仮の答え(仮説)を立てる。

通常それは、抽象化された定性的・定量的な「モデル」という形式で表現され、そのモデルが現象を説明できるかどうかで妥当性が判断される。そのため実際に実験や調査をおこない、データで検証し、さらに自身の研究から何を言うことができるのかを明らかにする。最後は、その結果を論文や学会発表の形式で公表することで、研究に対するフィードバックを得て、さらなる研究につなげていく。

研究でうみだされた知識を直接的に事業化することはもちろんおこなわれている。たとえば、医療の世界では、基礎研究がベースとなり、新しい治療法などが発見され、有効性を評価する試験などを経て、実践的な治療薬や治療法として事業化されていく。あるいは、大学内の研究成果をベースにベンチャー企業が立ち上がる、あるいは産学連携で大学の技術が事業化されるなど、研究が事業に転化する例は数多くみられる。

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