「三方よし」のビジネスモデル 未来に永続する事業の必須条件
近江商人の「三方よし」のひとつに、「世間よし」という考え方がある。社会に対して長期的な展望で貢献する事業となっているか。事業を構想していく上で、常に考えるべき「社会的意義」について考察する。
事業構想の社会的意義
これまで事業構想における「アイデアの発・着・想」から「構想案の構築」まで、連載を続けてきた。前回の「構想案の構築」において基本的なビジネスモデルの設計をおこなうことを記したが、その際に意識すべき重要な観点について、今回は深掘りしてみたい。それは「事業の社会的意義」である。前回お示ししたビジネスモデルハウスの中に、「社会的意義」を記載する欄がある。ビジネスモデルの一部として、社会的意義を想定することに、違和感を覚えられる方もいるかもしれない。今回はその「社会的意義」について考えてみたい。
事業とは、ある目的をもって組織的・継続的にとりくむ仕事をさす言葉である。したがって、事業を構想する際には、目的、組織、持続性は必須の要素となる。まず事業の目的は社会にとってよきものでなければならない。さもなければ「事業」ではなく「悪業」となる。社会が必要とするものを生み出し、社会の発展に寄与するものでなければならない。すなわち事業には社会的意義がなければならない。
さらに事業をおこなうには組織が必要となる。一人でできる仕事には限りがある。事をなすには組織がなければならない。マネジメントの大家ピーター・ドラッカーはいう。
「企業をはじめとするあらゆる組織が社会の機関である。組織が存在するのは、組織それ自体のためではない。社会的な目的を実現し、社会、コミュニティ、個人のニーズを満たすためである。組織は目的ではなく手段である。したがって問題は、その組織は何かではない。その組織は何をなすべきか、あげるべき成果は何かである。」
「持続性ないし継続性も事業には欠かせぬ要素である。いかによき事業であってもほんの一時的なものでは意味がない。継続してこそ社会的な役割をはたすことができるのである。そのためには自走できる仕組みとしての収益が必要となる。」
「人を幸せにし、社会をよりよいものにするには、組織がよい仕事をしなければならない。財・サービスを提供して物的な豊かさをもたらさなければならない。人を生き生きと働かせ、人の心に豊かさをもたらさなければならない。」(出典:『マネジメント』)
これらの言葉を見ていると、事業は社会の中に「いきもの」のように生きている。いかにして事業を社会の中で息づかせるか、ここに事業が生きつづけ、社会へ貢献しつづける鍵がありそうである。
日本の商人道における社会的意義
これまでの連載で、事業構想において未来を考える重要性を説いてきたが、ここで少し時代をさかのぼってみる。現代のビジネス環境はあまりに複雑で、事業が社会の一部であることを体感するケースはそれほど多くないかもしれない。しかし、例えば、江戸時代の日本の商人道を見てみると、人と人のより直接的な関わりの中で、この社会の中のいきものとして事業の性格をよりはっきりと見ることができるように思う。
古来、日本においては事業の社会的意義が非常に重視されてきた。売り手よし、買い手よし、世間よし。いわゆる「三方よし」は、高島屋や伊藤忠商事、住友財閥などわが国を代表する企業のルーツとされる近江商人の経営哲学をあらわす言葉としてあまりに有名である。
近江とは琵琶湖の周辺、現在の滋賀県に相当する地を意味する旧国名であるが、江戸から明治にかけて、数多くの大商人を輩出した地でもある。彼らのビジネスは「持ち下り商い」、すなわち上方の商品を地方へ、地方の商品を上方へ販売しながら持ち帰る両方向の行商が基本であった。それらはやがて卸行商、そして全国各地の出店を拠点にした「諸国産物廻し」へと発展し、さらに両替商などさまざまな事業へと多角化していった。
行商はもとより、出店も近江出身者でかためるビジネス手法は、いやおうなく当地における「よそもの意識」を醸成する。それゆえ適正な利益と顧客満足に加え、地域や社会への貢献がその経営理念として深く根づいていったと思われる。ある近江商人の系列で伝承されている「商売の十教訓」にも、「商売は世の為、人の為の奉仕にして、利益はその当然の報酬なり」という一条がある。
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