2014年7月号

地域未来構想 青森県

「新しい公共」を全国に発信

佐々木正昭(青森県土整備部橋梁・アセット推進グループマネージャー)

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青森県は全国に先駆けた社会インフラのアセットマネジメントの導入や、地域を巻き込んだ「環境公共」事業の提唱など、一歩先を行く政策を展開。少子高齢化や財政縮小の時代のモデルとなる、新しい「公共」を推進している。

豊かな里山や海を守るため、農・林・漁業が連携した「環境公共」の取り組みが始まっている(名久井岳)

アセットマネジメントで橋梁維持費を半減へ

「傷んでから直す」ではなく、「痛む前に直して、できるだけ長く使う」という、アセットマネジメントの考え方。社会インフラの大量更新時代が迫る中で、青森県は全国に先駆けて橋梁管理にアセットマネジメントを導入、2006年に運用を開始した。

「青森県は塩害や凍害により、橋梁の損傷が激しいエリアです。財政改革のための公共投資の40%削減を目指していた2003年、『早く始めて長期的な効果を出せる』予防保全を取り入れようと、職員提案がきっかけとなり導入が始まりました」と県土整備部橋梁・アセット推進グループマネージャーの佐々木正昭氏は話す。

橋梁管理に劣化予測のITシステムを導入している自治体は他にもあるが、青森県の場合、もの(ITシステム)に加えて仕組み(マニュアル)、人(人材育成)を含めたトータルマネジメントシステムとして運用していることが特徴だ。

システムの根幹となるのが、青森県がゼネコン大手の鹿島と共同開発した橋梁マネジメントシステム。これは橋梁の劣化予測から中期的な予算シミュレーション、さらに「どの橋の、どの部位に、いつ、どんな対策を行うか」という最適な維持管理シナリオまで抽出できる。

あわせて、従来は作業員による図面起こしが必要だった橋梁の点検作業にタブレット記入システムを導入したり、作業員の健全度評価に差が出ないように事象・写真見本をハンドブックにまとめたりと、橋梁管理の総合的な効率化に取り組んだ。

試算によれば、従来の事後保全的な維持管理を続けると、2012年から50年間のライフサイクルコストは1344億円かかる。「予防保全を取り入れ、06年からの5年間で集中投資を行ったことで、50年間のコストは669億円に低減できると考えられます」。縮減額は675億円にのぼる。「今後は、橋梁以外の社会インフラへのアセットマネジメントシステムの適用も検討する方針です」という。

青森県は「橋梁マネジメントシステムを全国の管理者に利用してほしい」という考えのもとで、ノウハウをすべて公開し、汎用化したシステムをBMSコンソーシアムを通して提供している。

アセットマネジメントの導入で、青森県は橋梁維持管理費を半減できる見込み(城ヶ倉大橋)

里山を守り、産業を育てる環境公共の可能性

日本の原風景とも言える、美しい里山。ここから伝統的な風習や独自の文化が生まれ、観光などの日本の魅力を形成してきた。これらは、その地で農林水産業が営まれ、地域コミュニティが存在してこそ保たれるものだ。現在、里山が急速に失われているのも、少子高齢化などで地域の農林水産業が衰退しているからに他ならない。

「農林水産業を支えることは地域の環境を守ることにつながる」。そんな新しい考え方にもとづき、青森県が提唱しているのが「環境公共」だ。農林水産業の生産基盤や農山漁村の生活環境などの整備を行う公共事業を環境公共と位置づけ、地域資源を次代へと繋げようという取り組みである。

例えば、魚の生息のための藻場や牧場、農業用の用水路などの整備や、農村・漁村の下水処理施設など生活環境を整備することが環境公共にあたる。さらに、将来の地域の担い手である子どもたちなどを巻き込んだワークショップや生態系調査も環境公共の一部として位置づけている。

大きな特徴は、公共事業プロセスへの地域住民、特に農林水産業者の参加だ。行政主導で画一的な計画・設計・施行を行う、今までの公共事業とは根底から異なる。環境公共では、行政は事業の構想段階から地元に目的や概要を伝えたり、地元農林漁業者の発案から事業の構想を練ったりする。さらに工事終了後もその保全や活用に地域と一緒に取り組む。環境公共の主役はあくまでも地域なのだ。

カエルにも優しい環境保全型水路「ハイ!アガ-ル」(環境公共学会HPより)

環境公共は、農・林・水産のアライアンスの促進にもつながっている。今別町の安兵衛川流域では、頭首工(川から農業用水を取るための施設)が魚のそ上を妨げていた。そこで、それまで別々に基盤整備を行っていた農・林・水産業のグループが連携し、魚道を頭首工に設置。漁協が放流したアユやイワナが川で確認できるようになった。さらに水源林にヒバやブナを植林するなど、魚類が棲める環境づくりに向けた連携を深めている。

環境公共を支える技術も県内から数多く発案されている。一例が県と地元企業で共同開発した環境保全型水路「ハイ!アガ-ル」。生態系ネットワ-クの保全で農村の環境を守るために、水路に転落したカエルなどの小動物が容易にはい上がることのできるコンクリート製の水路壁だ。

ほかにも、青森県の特産であるホタテの貝殻を利用した魚礁や河川水質改善など、地域資源を有効活用するアイデアの数々が生まれている。

2011年には環境公共学会が設立され、青森発のコンセプトは全国へ広がりを見せる。自然を守り、産業力も高める公共事業のあり方は、今後ますます重要になるだろう。

地方創生のアイデア

月刊事業構想では、「地域未来構想  プロジェクトニッポン」と題して、毎号、都道府県特集を組んでいます。政府の重要政策の一つに地方創生が掲げられていますが、そのヒントとなるアイデアが満載です。参考になれば幸いです。

※バックナンバーには、そのほかの都道府県も掲載されております。是非ご一読ください。

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