2014年7月号

事業構想学を構想する

発・着・想の作法と手法

小塩篤史、中嶋聞多(事業構想研究所 実践知研究センター)

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「発・着・想」は事業構想の肝である。自分自身が本気で取り組む事業のアイデアをどのようにうみ出し、育てるのか。3つのキーワードを軸に「発・着・想」の基本的な考え方を示したい。

発・着・想のためのキーワード

 

事業構想学は、「事業構想」を「学ぶ」ための学問である。そのめざすところは、事業構想を学問的に捉えることではなく、「事業構想」をめざす人の「学び」を促すための仕組みをつくることにある。そしてその基本コンセプトとして、「発・着・想」「構想案」「フィールド・リサーチ」「構想計画」「コミュニケーション」というプロセスがある。このサイクルをいくども展開することで、社会に貢献する新しい事業をうみ出していく。これまで、その基礎として未来思考が重要であり、さまざまな異なる背景をもったひとびとが集まる場づくりの重要性をのべてきた。今回は、事業構想の肝ともいえる「発・着・想」における基本姿勢についてかんがえてみたい。今回のキーワードは「守破離」と「Think Different」、そして「創造的思考法」である。

アイデアをうみだす発着想

 

「発・着・想」は、発想、着想、想像を意味している。アイデアを発想し、着想し、想像する。アイデア、閃き、気づきがたくさんうまれ、その中から未来を構築する新しい理想の構想案がうまれてくる。発想と着想はどちらも「アイデアをうみ出す」という点で同じ言葉ではあるが、発想は自分自身の中から湧き出してくる思いつきであり、着想は外部にある気づきの種が自分の中におりてくる思いつきである。想像は、実際には経験をしていないことを、心の中に思い描くことである。顧客の気持ち、社会の人びとの姿を想像することは、あらゆるアイデアワークの基礎ともいえる営みである。事業構想の主題となるアイデアをうみ出すためには、絶えず想像し、発想し、着想することが必要である。

 

「アイデアをうみ出す」と聞くと、それは一部の創造的・天才的な人物の営みであるような気がするかもしれない。たしかに、社会全体の価値観を覆すような創造的・独創的な営みは、一部の天才によることも多い。しかし、事業構想の「発・着・想」は一部の天才にかぎられた才能ではない。社会の課題をしっかりと見つめること、日頃からアイデアに対して感受性を持つこと、しっかり情報収集をすること、顧客の気持ちを想像すること、これらの積み重ねの中で、新しい事業構想のアイデアが自然に生まれてくるものである。「発・着・想」こそ事業構想を進めていく上での始点であり、すべての事業構想家が通るべき道である。

 

それでは、「発・着・想」の力は鍛えることができるのであろうか。人間や社会、科学技術、経済活動など社会を構成する基本的な要素への洞察力は、あらゆる活動の基礎であると同時に、「発・着・想」の基礎でもある。日頃から洞察力を磨くことで、多くの課題を発見し、またアイデアを生み出すための基盤が構築される。日々、洞察力を鍛えることが王道である。ただ、「発・着・想」をおこなう上で有益な心構えがある。ここでは、その中で「守破離」という言葉と「Think Different」という言葉をとりあげたい。

「守破離」

 

茶道や華道など「道」のつく分野での経験がある方には馴染みのある言葉かもしれない。「守破離」とは、茶道や武道などの伝統的な分野における修行のプロセスをあらわした言葉である。「守」は、古来受け継がれてきた伝統的な型を習得し、それを守ること、「破」は習得した型を自分なりの創意工夫によって破り、新しい型を作ること、「離」は、自分自身の新しい世界を作り出すために習得した型そのものから離れることである。

【左上】 パブロ・ピカソ(画家)
【右上】 ジェーン・グドール(霊長類学者)
【左下】黒澤明(映画監督)
【右下】アルバート・アインシュタイン(物理学者)

 

「守」を経てはじめて、「破」「離」にいたる。伝統的な型の習得の上にこそ新しい創意工夫やイノベーションの道があることを説いている。茶道や武道などが長きにわたって存続し続けているのは、「守」をおこない続けたがゆえではなく、「破」と「離」を為し続けたためである。時代、時代によって、求められるものは変わりながらも、型を破り、離れることで、伝統芸能として維持されてきたのである。

 

事業構想の「発・着・想」を考える際にも同じことが言えるのではないだろうか。事業は、社会に貢献しながら存続することが求められる。現在、社会に貢献し、事業を存続させている企業の型(モデル)をしっかりと検証し、理解する。いわば、「守破離」の「守」にあたる部分は、あたらしい事業構想のアイデアを考えるうえでも不可欠な通過点である。

 

その型を理解できたうえで、はじめて型を破ることができる。既存の型と自分自身や自社が持っている知的・人的・物的資産をうまく組み合わせることで、自分自身の型をつくる必要がある。それができてはじめて、今度は真に自分自身の特徴的な新しい事業構想をおこなうことができるのではないだろうか。

 

型を守る、模倣という言葉は、一見「創造的」なアイデアの反対のようにも感じる。たとえば、辞書で「創造性」の反意語を調べると、模倣が出てくる。しかし、模倣と既存のビジネスの研究こそが、あたらしい事業の構想の第一歩ではないだろうか。模倣の際に自分自身・自社の特性・個性をいかに加えていくかという点が創造的な模倣と単なる模倣の境目となる。

Think Different(違った考えた方をしよう)

 

では模倣を創造的にするためには何が必要か。その一つの考え方として、「Think Different(違った考え方をしよう)」はとっかかりを与えてくれる。いつもと違う考え方をすることで、アイデアは豊かに、そして珍しくなるからである。

 

「Think Diffrent」は、アップルコンピューターが1997年に広告のキャッチコピーとして用いた言葉である。時代を変革したひとびと、例えばパブロ・ピカソやアインシュタインの写真に「Think Different」の言葉とアップルのロゴが記載されたポスターが作成された。

 

この広告で取り上げられたひとびとは、各分野で革新的・創造的な仕事を成し遂げたひとびとである。その創造性の源泉をAppleは以下のようなコピーで表現した。

  1. クレージーな人たちがいる
  2. はみ出し者、反逆者、厄介者と呼ばれる人達
  3. 彼らはクレージーと言われるが 私たちは天才だと思う
  4. 自分が世界を変えられると本気で信じる人達こそが
  5. 本当に世界を変えているのだから
  6. (Apple 1997年のCMより)
 

世界を変える何かを産みだしてきたひとびとは、やはり普通とは異なった考え方をするひとが多い。普通との「違い」を独創性に転換したとも言えるであろう。普通と違う方法で考えることは創造的な思考の一つの方向性である。

 

実際に「はみ出し者や反逆者」になることは難しいかもしれない。ただ、このメッセージを新しいアイデアをうみだす際の心構えとして受け止める必要はあるのではないだろうか。ちょっと変わっていると思われようが、本気で信じるアイデアをうみだすことの重要性が、Think Differentのメッセージである。この言葉を心にとどめておくと、異なったアイデアを出すことへのためらいが薄れ、積極的に恥をかくことができる。

 

これまでの学問的方法では、「科学的」に考えることが重視されてきた。科学的思考は、厳密さと根拠を何よりも大事にする。しかし、アイデアは必ずしも論理的思考の帰結として現れてくるわけではない。どのように他の人と異なった考え方をするか、アイデアを生み出すためにはまた必要な営みである。科学的思考法、論理的思考法を含んだ事業構想のための新たな思考法が必要である。

創造的思考法

 

その一つの方向として、事業構想大学院大学では、「創造的思考法」という分野をつくりだしている。アイデアを生み出すためには、基礎的な洞察力を鍛えることにくわえて、アイデアを生み出す仕組みやツールも積極的に利用する必要がある。一方で、こういったツールだけでは、現状を打破するアイデアはなかなか出てこない。一つのきっかけとして、アイデア創出を支援する創造的思考法を位置づけている。

 

ここでの基本も「Think Different」である。いかにして通常とは違う視点でものごとをながめられるか。そこで創造的思考法のなかでは、「システム思考」「クリティカル思考」「デザイン思考」「未来思考」などの方法論を用いて、異なった視点で考えることに挑戦している。それぞれの思考法を用いることで、下記のような視点でものを見、考えることでこれまでとは異なった視野を得ることを目的としている。

 

システム思考は、鳥の視点を与えてくれる。システム思考では、それぞれの要素がそれぞれの要素に複雑に絡み合ったシステムとして問題を分析する。たとえば、目先の課題の解決がかえって状況を悪化させるという状況はしばしば観察されるだろう。その背後には、悪化をひきおこすシステムがあり、そのシステム自体を理解した上で課題解決を図らないと本質的な課題解決には繋がらない。この構造を明らかにするための手法としてシステム思考があり、課題解決の分野で広く利用されている。

 

クリティカル思考は、批評家、あるいは探偵の視点を与えてくれる。文字通り批判的思考のことであるが、前提となるバイアスや感情的な判断を徹底的に吟味し、多面的に思考するための方法である。生産的な批判は、健全な批評家による批評と同じくアイデアを改善するきっかけを与えてくれ、徹底した証拠の吟味と思い込みの排除によって、探偵のように物事を深く観察する。アイデアを強固にする上で不可欠の思考法である。

 

デザイン思考は、デザイナー、クリエイターの視点を与えてくれる。デザイナーは顧客のニーズを満たすために様々なツールやデザインの力を使って解決をはかる。人間中心にデザインすることで課題解決をはかるデザイナーの思考形態を形式化した方法である。美的感覚や感性、感情といったこれまでの思考法ではあまり対象としてこなかった部分を中心に据えて、デザイナーのように解決策をデザインすることでより直接的にひとびとのニーズに応える解決策を考える方法である。

 

未来志向は、未来人の視点を与えてくれる。未来思考では、第1回で取り上げたバックキャスティングなどが重要な方法となる。いかにして未来人の視点を自分のものとして感じるかという想像力が非常に重要である。ここでは未来学の様々な方法論を活用し、未来シナリオを定量的、定性的に描き出し、同時に理想的な未来の姿を模索する。この理想形と未来シナリオをベースにして未来の課題から現在の課題や解決策を考えると、現在の縛りから自由になって、本質的な解決策を 見いだす糸口を見つけることをめざしている。

 

さらに一つ、大事な視点を加えるものとして、フィールド・リサーチがある。事業構想のサイクルでは「発・着・想」の先にあるものであるが、「顧客思考」のためにはフィールド・リサーチがかかせない。顧客の視点を言葉だけでなく肌で感じることで、発着想はより豊かになる。

 

これらの「思考法」と「発想法・アイデアツール」をうまく組み合わせることで、より柔軟で多彩なアイデアを数多く生み出すことができるのである。

未来志向による右脳と左脳の統合

 

ここまで取りあげてきた思考方法を「感覚↔論理」「マクロ↔ミクロ」という観点から分類するとおおむね図1のような位置づけになる。システム思考は論理的に社会や集団など比較的マクロなレベルの課題を扱う。クリティカル思考は、徹底的に論理的に、かつ問題を細分化するのでミクロレベルでの課題を扱うことになる。

デザイン思考は、右脳的感覚を重視して、論理を越えた感性に訴えながら、ひとりひとりに焦点をあてて問題解決をはかる。既存の未来学などは、「20○○年の世界」というような形式で感覚的、マクロレベルでのシナリオを扱うことが多い。創造的思考法における未来思考はこの全ての領域を対象とした思考をめざしている。

言いかえると、思考における右脳と左脳の統合であり、論理的かつ、感覚的、そして個人的であり集団的な問題をあつかう思考法である。「現在・過去・未来」という時間の軸をとおして考えることでこれらを統合し、多彩な視角を与える方法論として未来思考は確立される必要がある。

サイクルの始点としての「発・着・想」

 

今回は、事業構想サイクルの「発・着・想」の基本方針に関してのべてきたが、重要なのは「発・着・想」はあくまでサイクルの一部であるという認識である。すばらしいアイデアがうまれれば、それで事業が完成するのではなく、むしろそこからはじまる。

思いついた主題(アイデア)を、仕組み(ビジネスモデル)、思想(社会の一翼を担う)、計画(環境における進化)、表現形式(コミュニケーション手段)をすべて整えていく必要がある。そのためには主題が真に自分自身の腑に落ちていなければならない。

創造的思考法などで取りあげた方法などを活用しながら、徹底的に思考し、自分自身を納得させるアイデアを生み出すこと。これが「発・着・想」において何よりも大切な意識なのである。次号では、より具体的な「発・着・想」をうみだす思考法を検討する。

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