イノベーティブな和歌山への事業構想

「エルトゥールル号遭難事件」(1890年)での県民の献身的な救助活動は、今なお日本とトルコの友好の礎となっている一方、近年では、太地町のイルカ囲い込み漁が国際的な反響を呼ぶなど、和歌山県は、グローバル社会における日本に対する印象形成という点で、一地方自治体としての域を超えた独自の存在感を示している。

また、醤油や鰹節などを生み出して、その技術を全国に移転し、日本食文化の基礎を築いた他、大正年間には、日本における有機化学発祥の地として同産業の基盤を形成するなど、同県は、本来、イノベーティブな気風漲る土地柄でもある。

ところが最近の状況を見ると、そうした側面がやや後退し、若干おとなしい印象を拭えない。そこで、今回、“イノベーティブな和歌山県の復権”に取り組む仁坂吉伸知事にお話を伺った。(取材:嶋田淑之)

仁坂 吉伸 和歌山県知事

創意に富むが油断しやすい
しかし、逆境になるとまた頑張る

─県民気質など、“和歌山ならでは”の特色を教えてください

本来的には、和歌山は恵まれています。高野・熊野という世界遺産に代表される数々の文化遺産をはじめ観光資源は豊富ですし、みかん・梅・柿の生産量日本一など農産物や、マグロ、カツオ、クエ、イセエビなど海産物も豊かです。江戸時代には、“海の高速道路”(江戸・上方航路)が通り、移動効率もよく、だからこそ、紀州藩は徳川御三家のひとつにもなりました。

そんな和歌山には次のような3つの特色があると私は考えます。

「イノベーティブ」。かつお節、醤油をはじめ、実に様々なものが和歌山で誕生し、日本全国へ伝播しました。近代でも有機化学などがそうですし、松下幸之助さんなど偉大な発明家、経営者も大勢出ています。

「油断しやすい」。強欲ではなく、「まあいいや」という気質があります。「技術はよそに出さず守る」といったことをしないため、多くが流出しました。

「排他的でない」。熊野詣などがずっと続いたということは、よそ者も排除しないで、大事にしてきたという事です。

問題は「油断しやすい」点です。これが原因で環境変化への対応は遅れがちとなり、その結果、知事になってすぐ調べたらここ40年間、経済成長率が全県中最低でした。

しかし、実は、本県には「逆境になると強い」という特色もあるのです。

明治維新によって武士階級が没落すると、代わりに商工業者層が台頭し、産業革命がいち早く起こり、繊維・雑貨産業が隆盛しました。そこで油断し、重工業化に乗り遅れてしまった。ところが、戦禍ですべてが灰燼と帰した後、いち早く復興したのも和歌山です。そこでまた油断し、今はだいぶ退潮しました。これからまた頑張る時を迎えているのです。

南海トラフ巨大地震では
一人も死なせない

─「津波」対策を教えてください

和歌山では、1605年、1707年、1854年、1946年に経験した南海トラフの大地震を元に津波対策をを立てていましたが、東日本大震災の後、政府から南海トラフの巨大地震の災害予測が出ましたので、これを元に浸水予想をやり直し対策を練り直しています。

全文をご覧いただくには有料プランへのご登録が必要です。

  • 記事本文残り78%

月刊「事業構想」購読会員登録で
全てご覧いただくことができます。
今すぐ無料トライアルに登録しよう!

初月無料トライアル!

  • 雑誌「月刊事業構想」を送料無料でお届け
  • バックナンバー含む、オリジナル記事9,000本以上が読み放題
  • フォーラム・セミナーなどイベントに優先的にご招待

※無料体験後は自動的に有料購読に移行します。無料期間内に解約しても解約金は発生しません。