カリブ海のビーチを覆う有毒な海藻──経済資源に変わる可能性は?

※本記事は『THE CONVERSATION』に2025年5月15日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています。

カリブ海の海岸線、サルガッサムと波の画像

毎年3月から10月にかけて、サルガッスムと呼ばれる茶色い海藻が大量にカリブ海の島々の海岸に漂着し、ビーチを覆い、海洋生物に被害を与え、観光業や公衆衛生を脅かしています。しかし、地元の起業家たちの中には、この海藻を新たな経済資源として活用できるのではないかと期待を寄せる人々もいます。

西アフリカ沿岸からカリブ海、メキシコ湾にかけて、気候変動により海水温が上昇しています。また、二酸化炭素の吸収によって海水が酸性化しており、これが熱帯大西洋でのサルガッスムの異常な増殖を引き起こしています。

小さなカリブ海諸国はこの影響を最も大きく受けています2024年には2,000万トンもの海藻がビーチに漂着し、経済と公衆衛生の危機を招いています

真っ白な砂浜に堆積する悪臭を放つ海藻は、観光客の足を遠ざけ、観光収入の減少につながっているとみられます。

漁業も打撃を受けています。海藻の大群が漁網に絡まり、その重みで網が破れてしまうこともあり、漁師たちは漁ができず、生計が立てられない状況に陥っています。

陸上に積もった大量のサルガッスムが分解されると、有毒なガスが発生し、グアドループ島などでは住民が避難を余儀なくされています。この有毒ガスは、呼吸器感染症や睡眠時無呼吸症候群、さらには妊娠高血圧症(妊娠中の高血圧)など、深刻な健康問題を引き起こすことが指摘されています。

サルガッスム問題は、気候変動が引き起こす「緩慢な進行」の事象の一つに過ぎません。しかし、山火事や鉄砲水といった突発的な災害に比べると、こうした緩慢な変化にはほとんど注目や対策のための資金が割かれていないのが実情です。

サルガッサムに覆われた海岸
画像

こうした緩慢な影響は、ハリケーンや洪水などの気候変動による極端な気象現象と比べて、その規模を算出するのが難しいという課題もあります。シンクタンクODI Globalの私たちのチームは最近、こうした事象の被害コストを1人あたり2,000米ドル(約1,500ポンド)と推定する研究を発表しました。しかし、サルガッスムによる観光業の年間損失額を計算するのははるかに複雑です。

それでも、小規模かつ地域密着型のソリューション、そして中小企業を支援するための政府政策 -たとえば気候変動対策資金へのアクセス支援など -を通じて、起業家たちは気候変動の時代に地域社会を持続可能に繁栄させる道を模索できます。

たとえば、バルバドスの西インド諸島大学で講師を務めるレジェナ・ヘンリー氏は、サルガッスムを使って自動車用バイオ燃料を製造しています。また、セントルシアを拠点とするアルガス・オーガニクスの創業者兼CEOであるジョハナン・デュジョン氏は、サルガッスムを原料にした植物用トニックを販売し、さらには海藻を紙に加工する方法の実験も進めています。

そのほかにも、地域の被害を最小限に抑えるためのさまざまな革新的な取り組みがあります。

マサチューセッツ工科大学(MIT)の機械工学部門から派生したスピンオフ企業、SOSカーボンの創業者アンドレス・レオン氏は、海上でサルガッスムを回収し、陸に打ち上げられる前に被害を防ぐ専用の船舶型収穫機を設計しました。

ジャマイカなど一部の島々では、通常ハリケーン予測に使われる早期警戒システムを応用し、海流の動きを予測することで、サルガッスムの大群が接岸する可能性を事前に把握できるようにしています。これにより、漁師たちは最大30日前には状況を予測できるようになる見込みです。

スケールアップの壁

とはいえ、小規模ビジネスが立ち上がりつつあるものの、それを地域全体で大規模事業に育てるのは依然として難題です。小島嶼国では、投資家から「事業規模が小さすぎて十分な利益を生まない」と見なされ、資金調達に苦労するのが常です。

ヘンリー氏が最近「Small Island Big Picture」ポッドキャストで語ったように、数百万ドル程度の投資であっても、管理能力の限られた資金提供者にとっては煩雑な事務作業と見なされがちで、彼らはむしろ数億ドル単位の巨額投資に関心を向けがちです。

もう一つの課題は、こうしたサルガッスム活用策の利益をいかに地元のカリブ海諸島に還元し、地域の経済成長や開発に役立てるかという点です。

小島嶼国には、サルガッスムから収入を得るいくつかのチャンスがあります。たとえば、排他的経済水域(EEZ)内で企業がサルガッスムを採取するための許可ライセンスを販売することが考えられます。多くの島々は数百海里にわたる広大なEEZを保有しています。

また、新たなサルガッスム技術を試験・運用する企業に対してもライセンスを発行できます。たとえば、SOSカーボン社は現在、サルガッスムを海底に沈めて炭素を貯蔵する特許技術を申請中です。

果たしてサルガッスムは、今後も迷惑な存在であり続けるのでしょうか?それとも重要な再生可能資源となるのでしょうか?その答えは、まだはっきりしていません。

理想的には、他の再生可能資源と同様に、サルガッスムを所有する小島嶼国は、その所有権から正当な価値を引き出す方法を見つけ、外部企業に採取・販売されて利益を独占されるだけではなく、自国の利益を確保することが求められます。

国内のイノベーター向けに税制優遇や低利融資を整備すれば、小島嶼国はサルガッスムを管理・販売し、その収益を気候変動へのレジリエンス(適応力)向上に活用できるようになるのです。

元記事へのリンクはこちら

The Conversation

エミリー・ウィルキンソン(Emily Wilkinson)
エミリー・ウィルキンソン(Emily Wilkinson)
ODI Global 主席研究員
エマ・トンプキンス(Emma Tompkins)
エマ・トンプキンス(Emma Tompkins)
サウサンプトン大学 地理・環境・開発学部 教授

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