次世代燃料SAFが変える航空産業 脱炭素と国産化を巡る世界競争の最前線
(※本記事は経済産業省近畿経済産業局が運営する「公式Note」に2026年9月3日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)
こんにちは、近畿経済産業局 資源・燃料課です。
皆さんは、「次世代燃料」と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。
SAF(持続可能な航空燃料)、バイオ燃料、e-メタン、合成燃料(e-fuel)、水素、アンモニア──。
2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、私たちの暮らしや産業を支えるエネルギーは今、大きな転換期を迎えています。一方で、これらの燃料がどのような特徴を持ち、なぜ必要とされているのかについては、まだ十分に知られているとは言えません。
そこで近畿経済産業局では、新たな連載企画「次世代燃料Journal」をスタートします。
本シリーズでは、次世代燃料を一つひとつ取り上げながら、「なぜ必要なのか」「どのような技術なのか」「地域や企業にどのようなチャンスがあるのか」を分かりやすくご紹介していきます。
記念すべき第1回は、航空分野の脱炭素化の切り札として世界中で導入が進む「SAF(持続可能な航空燃料)」です。空を飛ぶ燃料の未来を、一緒に見ていきましょう。
次世代燃料とは?
近年、「カーボンニュートラル」や「GX(グリーントランスフォーメーション)」という言葉を耳にする機会が増えました。
その実現に向けて注目されているのが「次世代燃料」です。
次世代燃料とは、化石燃料への依存を減らしながら、エネルギーの安定供給と温室効果ガスの排出削減を両立するために開発・導入が進められている新たな燃料の総称です。
主に、植物や廃食油、廃棄物から製造されるバイオ燃料(例:SAF、バイオエタノール)や二酸化炭素と水素を合成して製造される合成燃料(例:合成メタン)、その他(水素、アンモニア等)に分けられます。
空を飛ぶ燃料が変わる?~SAF(持続可能な航空燃料)が切り拓く航空機の脱炭素~
はじめに
旅行や出張で利用する飛行機。
私たちは普段あまり意識しませんが、航空機は世界中の人やモノの移動を支える重要なインフラです。
一方で、2050年カーボンニュートラルの実現に向けては、航空分野の脱炭素化が大きな課題となっています。
「飛行機も電気で飛べばよいのでは?」
そう思う方もいるかもしれません。
しかし、航空機は重量制約が厳しく、航続距離も求められます。長距離飛行に必要なエネルギーを現時点の蓄電池だけで賄うことは容易ではありません。
鉄道やバスなど他の輸送手段へ完全に置き換えることも現実的ではなく、国際的には「航空を維持しながら脱炭素化する方法」が求められています。
そこで期待されているのが、既存の航空機を活用しながら脱炭素化を進める切り札「SAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)」です。
経済産業省と国土交通省では、2030年に本邦エアラインの燃料使用量の10%をSAFへ置き換える目標を掲げており、官民一体となった取組が進められています。
そもそもSAFって何?
SAFは、廃食用油や木質バイオマス、バイオエタノールなどの再生可能資源から製造される航空燃料です。
SAFが注目される最大の理由は、既存の航空機や給油設備をそのまま活用できる「ドロップイン燃料」である点です。新しい飛行機に買い替える必要がなく、現在の航空インフラを活かしながら脱炭素化を進めることができます。
原料や製造方法によって異なるものの、燃料の製造から利用までを通じたライフサイクル全体では従来のジェット燃料と比較して約60~80%のCO2削減効果が期待されています。
また、航空業界の国際機関であるICAO(International Civil Aviation Organization:国際民間航空機関)では2050年の航空分野脱炭素化に向けて、排出削減効果の約55%をSAFが担うと見込んでいます。
つまり、「航空機の脱炭素化の主役」こそがSAFなのです。
世界で始まるSAF争奪戦
一方で、SAFを巡る動きは日本だけのものではありません。
世界ではすでに、SAFの製造能力拡大や原料確保に向けた競争が加速しています。
現在、世界で最も普及しているSAF製造技術であるHEFA方式では、廃食油などの油脂資源が主要な原料となります。
そのため、各国企業は原料の安定確保に向けて、廃食油の回収事業や油糧作物の開発、原料生産企業への出資などを進めています。
また、欧州や米国を中心に、SAFの利用拡大に向けた制度整備も進められており、航空会社や燃料事業者による取組が加速しています。
こうした動きの背景には、脱炭素化だけではなく、エネルギー安全保障や産業競争力の確保という狙いもあります。将来、SAFの需要拡大が見込まれる中で、原料や製造能力を確保できるかどうかは、各国の産業競争力にも大きく影響します。
SAF普及に向けた3つの課題
一方で、SAFはまだ十分に普及しているとは言えません。
SAF普及に向けては、大きく3つの課題があります。
(1)製造コストが高い
SAFのデメリットは、従来の航空燃料と比べて製造コストが高い点です。
原油から精製する航空燃料よりも製造に手間がかかるうえ、新たな技術開発のためには投資も必要なので、どうしても普及に向けた過渡期のコストは高くなります。
SAFの普及に向けては、サプライチェーン全体で可能な限りコストを抑えていく必要があります。
(2)十分な原料確保
原材料である廃食用油は、世界的な需要増大により国際争奪戦が進んで供給量が不足し、価格が高騰しています。
原料の安価かつ安定的な供給のためには、国産原料の回収拡大や海外産原料の確保などが重要となってきます。
(3)供給量の拡大と確実な利用
2022年時点の世界のSAFの供給量は約30万キロリットル。これは、世界のジェット燃料供給量の0.1%程度とされていますので、より一層の供給量の拡大が必要です。
また、既存ジェット燃料と比較し、SAFは割高な価格とならざるを得ず、需要を生むための利活用の仕組み(航空会社へのインセンティブ(値差支援)、政府調達等)が望まれています。
国産SAFは実現できるのか
経済産業省と国土交通省は2030年までに「本邦エアラインの燃料使用量の10%をSAFへ置き換える」という目標を掲げています。
その実現に向け、
- SAF官民協議会の設置
- グリーンイノベーション基金等を活用したSAFの製造技術開発
- GX経済移行債を活用した大規模SAF製造設備投資支援
- 戦略分野国内生産促進税制
- 原料サプライチェーン構築支援
などが進められています。
現在、和歌山・大阪・千葉・沖縄など全国各地で国産SAF製造プロジェクトが計画・推進されています。
関西から始まる次世代燃料の挑戦~関西次世代燃料フォーラムNEXT~
実は関西は、次世代燃料の社会実装に向けた大きなポテンシャルを持つ地域です。
大阪湾沿岸には製油所や化学コンビナートが集積し、大学や研究機関、スタートアップ企業など、多様なプレーヤーが活動しています。
研究開発だけでなく、製造、供給、利用までを一体的に進められる環境が整っていることは、関西の大きな強みといえるでしょう。
その象徴的な取組の一つが、コスモ石油(株)堺製油所における国産SAFの供給です。
2025年4月には供給が開始されるなど、次世代燃料は「将来の技術」ではなく、すでに社会実装の段階へと歩みを進めています。
近畿経済産業局では、次世代燃料の普及促進や関係者同士のネットワーク形成を目的として、2023年度から「関西次世代燃料フォーラムNEXT」を開催しております。
次世代燃料の普及促進を目指して(近畿経済産業局)
直近では2026年3月に「関西次世代燃料フォーラムNEXT 2026」を開催しました。
3月10日(火)「関西次世代燃料フォーラム NEXT 2026」を開催します!(近畿経済産業局)
企業、研究機関など多様な関係者が一堂に会し、バイオ燃料やSAF、合成燃料などの最新動向や地域における可能性について活発な議論が行われました。
SAFを含む次世代燃料の導入は、供給事業者の取組が進展するだけで成し遂げられるものではありません。実際に燃料を利用される消費者の皆様のご理解やご協力があってこそ成し遂げられます。
本連載が、次世代燃料について触れる機会となり、燃料の脱炭素について考える機会となれば幸いです。
元記事へのリンクはこちら。
- 近畿経済産業局 公式note