新開発のラガー酵母 遺伝的多様性でクラフトビールに未体験の風味も
(※本記事は『THE CONVERSATION』に2024年8月29日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)
私の夏の楽しみの一つは、仕事終わりに友人と一緒にバーで冷たいビールを飲むことだ。ただし、ビールなら何でも良いわけではない。選ぶのは必ずラガービールだ。そして、これは私だけのこだわりではない。すっきりとした爽快な飲み口のラガーは、世界のビール市場の90%以上を占めている。
しかし、すべてのラガービールは似たような味わいで、風味や香りの種類には限りがある。その主な理由は、商品として利用されている酵母の種類が非常に少ないためだ。では、もしこの制約を打破し、全く新しい刺激的な風味を作り出すことができたらどうだろうか?
私たちの最近の研究がその可能性を示した。この研究は、PLOS Genetics誌に発表され、南米パタゴニア産の野生酵母を使って新たなラガー酵母の開発を試みている。
伝統的なラガー酵母の問題点
酵母は単細胞の菌類で、糖をアルコールと二酸化炭素に発酵させる。何世紀にもわたって、人類は意識的にも無意識にも、酵母を使ってワインやビール、パンなどの発酵食品を作ってきた。
サッカロミセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)という伝統的なラガー酵母は、2つの酵母種のハイブリッドだ。1つはワインやエールビールの製造に使われるサッカロミセス・セレビシエ(S. cerevisiae)で、もう1つは木に生息する野生種のサッカロミセス・ユーバヤヌス(S. eubayanus)である。
このハイブリッド酵母は数百年前に培養され始め、冷温環境でのビール醸造向けに改良されてきた。
しかし、この長い品種改良の歴史は、家畜や作物、ペットと同様に、遺伝的多様性を狭めてしまい、ラガー酵母が提供できる風味や香りの範囲が著しく限定されている。これにより、革新の余地はほとんど残されていない。
野生のパタゴニア酵母の登場
数年前までは、新しいラガービールを作ることは不可能だった。というのも、ラガー酵母の母体であるS. eubayanusがまだ発見されていなかったからだ。
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