暴動で再燃する英国オンライン安全法 SNS等への規制強化にさらなる議論
(※本記事は『THE CONVERSATION』に2024年8月14日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)
最近、イギリスで発生した暴動や不安定な状況を受けて、オンライン安全法の再検討を求める声が高まっている。ロンドン市長サディク・カーン氏はこの法律について「目的に合っていない」とし、ニック・トーマス・シモンズ内閣府大臣も、政府がこの法律を改正する可能性があると示唆している。この法律は、前政権下で制定され、ソーシャルメディア運営企業に対する罰金など、最近の暴動に関連する一連の措置を含んでいる。
キア・スターマー首相はこの法律について具体的な発言はしておらず、ただ「この混乱を受けてソーシャルメディア全般について広く見直す」と述べるにとどまっている。彼の報道官は、現時点でこの法律の改正が再検討されているわけではないことを示唆した。
ソーシャルメディアは、全国各地での暴動拡大に重要な役割を果たした。また、オンラインプラットフォームは、誤情報やヘイトが拡散される手段としても利用された。
この法律は、独立したメディア規制機関である英国情報通信庁(Ofcom)が管轄しており、オンライン上の言論を規制し、ユーザーを虐待や嫌がらせ、詐欺行為、ヘイトによる犯罪から保護することを目的としている。
具体的には、ソーシャルメディア運営企業に対して、プラットフォームの安全性に対する責任をより多く負わせることを目指しており、安全性が不十分と判断された場合には、年間売上の10%に達する罰金を科すことができる。
より深刻な場合には、情報通信庁は広告主やインターネットプロバイダーに対して、規制に従わないプラットフォームへの協力を停止するよう求める権限を持っている。この法律は2023年10月に成立し、個別の犯罪に関連する法律は既に施行されている。例えば、重大な害を引き起こす目的で故意にデマを共有することは、現在は犯罪とされている。
しかし、暴動後に人々が不満を感じているのは、この法律の一部が2024年末まで施行されないことにある。これは、情報通信庁がソーシャルメディアやオンライン掲示板、メッセージサービスなどのユーザーに対して情報通信庁が適用できる執行権限やその他の措置などである。もしこれらの措置がすでに実施されていたら、この14日間の暴動の状況はどう違っていたのだろうか、という疑問が生まれる。
おすすめアルゴリズムも法規制の焦点に
主な懸念の一つは、ソーシャルメディア上でおすすめされるコンテンツを決定するアルゴリズムが、暴動に関連する有害なコンテンツ、特に人種差別、ヘイト、暴力的な内容を広めた可能性があるかどうかである。
例えば、暴動の様子をライブ配信するためにTikTokが使われていたことが確認されている。
現在、TikTok、X(旧Twitter)、Facebook、YouTubeといったソーシャルメディアは、ユーザーへのおすすめを選ぶアルゴリズムを通じて利用を最適化するよう設計されており、これらのシステム内で安全性が考慮されることは通常ない。例えば、Xでは、投稿内容に規約違反があるかの監視とおすすめコンテンツの選定には別のアルゴリズムが採用されている。
その結果、監視アルゴリズムが規制するより先に、おすすめアルゴリズムが有害なコンテンツをおススメしてしまうという事態が発生する。
オンライン安全法ではこの課題に対処するため、プラットフォームに対しておすすめアルゴリズムの安全性への影響をテストすることを要求している。つまり、おすすめアルゴリズムに変更が加えられた際には、各社が安全性に関する指標を収集し、アルゴリズム変更が個人の違法コンテンツへの接触を増加させる可能性があるかどうかを評価できるようにする。
おすすめアルゴリズムを設計・改善する際に、安全性を考慮することで、規制チーム(または監視アルゴリズム)が有害なコンテンツを削除する前に、そのコンテンツが拡散される数を減らすことが期待できる。
プラットフォーム側は中立でいたい
オンラインコンテンツの規制に関する主要な課題の一つは、プラットフォーム運営者が「真実の裁定者」と見なされることを避けたがることである。例えば、Xは最近、Trust and Safety(信頼と安全)チームの名前を単にSafety(安全)に変更した。これは、XのCEOであるイーロン・マスク氏が「Trust(信頼)を名前に掲げる組織は信用できない。なぜなら、それは明らかに検閲の婉曲表現だからだ」と述べたことによるものである。
MetaのCEOであるマーク・ザッカーバーグ氏も、2016年の米国選挙後に「Metaは、オンラインで人々が言うすべてのことの真実の裁定者であるべきではない」と述べている。
しかし、最近の出来事が示すように、これが必ずしもマスク氏自身がイギリスでの暴動に関する特定の見解を広めることを妨げておらず、すでに炎上している議論にさらに油を注ぐ結果となっている。
この法律は、この課題に対処するために、情報通信庁を利用して、オンラインコンテンツとアルゴリズムを強制的に規制する。この法律はイギリス政府によって制定されたが、政府は許可すべきコンテンツや禁止すべきコンテンツを決定する権限を持たないため、長期的な法の施行における政治的中立性が確保されている。
英国オンライン安全法はまだデマやフェイクニュースは対象外
現時点では、オンライン安全法にはデマやフェイクニュースに関する法律が含まれていない。このため、カーン市長は現在の形では、この法律は十分ではないと述べたようである。
デマに関する課題は、暴動につながった殺人事件によって明確に示された。事件の後、サウスポートの攻撃者がイスラム教徒の移民であるというデマがいくつかのソーシャルメディアでトレンド入りし、イヴェット・クーパー内務大臣は、ソーシャルメディアがこの内容の拡散に「ロケットブースター」をかけたと述べた。そしてこのデマが、多くの都市の通りで見られた暴力を助長したのではないかという議論が巻き起こっている。
このため、オンライン安全法が完全に施行されるまで、オンライン上で何が訴訟対象になるのかならないのかについて、法的な曖昧さが存在することへ懸念を示す声がある。
しかし同法のすべてが施行され、今回の暴動のような状況でテストされるまで、この法律がどれほど効果的であるかは実際にはわからないだろう。
元記事へのリンクはこちら。
- オリヴィア・ブラウン(Olivia Brown)
- バース大学 経営学部 デジタル・フューチャー科 准教授
- アリシア・コーク(Alicia Cork)
- バース大学 ポスドク研究員