遺伝性難病「ミトコンドリア病」の希望、ミトコンドリア提供技術の豪州最新事情
(※本記事は『THE CONVERSATION』に2024年7月8日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)
ミトコンドリアは、細胞内で食物をエネルギーに変換し、細胞が機能するために必要なエネルギーを供給する小さな構造体である。
ミトコンドリア病(※日本では指定難病のひとつ)は、ミトコンドリアの機能不全によるエネルギー不足で臓器が正常に機能しなくなる、遺伝性の代謝疾患の総称である。ミトコンドリア病にはさまざまな種類があり、その種類に応じて1つ以上の臓器に影響を与え、臓器不全を引き起こす可能性がある。
現在、ミトコンドリア病に対する治療法は存在しない。しかし現在、「ミトコンドリア提供」と呼ばれる体外受精(IVF)の新しい方法が、ミトコンドリア病をもつ家族でもミトコンドリア病を遺伝していない子供を持てるという希望を与えている。
2022年にオーストラリアでミトコンドリア提供を許可する法律が成立した後、科学者たちは現在、ミトコンドリア提供が安全で効果的であるかを確認するための臨床試験の準備を進めているところだ。
ミトコンドリア病とは
ミトコンドリア病には大別して2種類ある。
1つは、私たちが両親から受け継ぐ核DNAの遺伝子欠陥によって引き起こされるものである。
もう1つは、ミトコンドリア自身のDNA(ミトコンドリアDNA)の遺伝子欠陥によって引き起こされるものだ。ミトコンドリアDNAの欠陥によるミトコンドリア病は、母親から受け継がれる。しかし実際の病気のリスクは予測不能で、母親には軽度の症状しか現れていなくても、子供には重篤な症状が現れることがある。
ミトコンドリア病はかなり一般的な遺伝性代謝異常の疾患で、約5000人に1人が罹患する。
症状が軽度でゆっくり進行する人もいれば、重度で急速に進行する人もいる。ミトコンドリア病はどの臓器にも影響を与える可能性があるが、脳、筋肉、心臓など、エネルギーを多く必要とする臓器に、より悪い影響を与える傾向がある。
幼少期に発症するミトコンドリア病は多くの場合、複数の臓器に影響を与え、急速に進行し、予後不良となる。毎年オーストラリアで生まれる赤ちゃんのうち、約60人が命に関わるミトコンドリア病を発症する。
ミトコンドリア提供とは
ミトコンドリア提供は、ミトコンドリアDNA異常を持つ人々にも、欠陥DNAを遺伝させずに、遺伝的に血のつながった子供を持てる可能性を提供する、体外受精(IVF)に関する実験的医療技術である。
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