転職に悩んだらどうする? キャリアを見つめ直す5つの視点を解説

転職が頭をよぎったら、どうすべき?
「今の仕事をこのまま続けていいのだろうか」——
そんなふうに、ふと立ち止まってしまう瞬間は、誰にでも訪れるものです。転職という文字が頭をよぎるとき、私たちは単に職場を変えること以上に、働き方や生き方そのものを見つめ直そうとしているのです。
私はこれまでキャリアコンサルタントとして、さまざまな年代や職種の方とお話ししてきました。そこで気付いたのは、多くの人が「不満があるから辞めたい」という気持ちと、「これからの人生をより納得感のあるものにしたい」という前向きな気持ちの、ちょうど狭間で揺れているということです。
では、実際に転職を考え始めたとき、何をすればよいのでしょうか。
私たちキャリアコンサルタントは、転職などの「転機」の相談を受ける際に、アメリカの心理学者シュロスバーグが提唱した「4Sモデル」という理論を用います。4Sとは、「Situation(状況)」「Self(自己)」「Support(支援)」「Strategies(戦略)」の頭文字で、点検すべき要素とされています。
4Sはキャリア形成においてすぐれた理論で、世界中で用いられていますが、一般の方が取り組むには少々専門的であり、時間と手間がかかってしまうという難点もあります。
そこで今回は、キャリアに悩んだときに、4Sに取り組むよりも先にまず意識してほしい「5つの視点」をご紹介します。
キャリアとライフスタイルを見つめ直す5つの視点
-
1.現状への満足度はどれくらいか
· 今の仕事にやりがいや成長感はあるか?
· 人間関係、待遇、働き方にストレスはあるか?
· このまま続けたときのキャリアパスに納得できるか?
➡ 今の職場に留まる理由と、転職を考える理由を言語化してみましょう。 モヤモヤを整理することで、自分の本音が見えてきます。 -
2.将来のキャリアとどうつながるか
· 今の仕事の経験は、5年後・10年後にどんな価値を持ちそうか?
· 転職によってキャリアがどう展開していく可能性があるか?
➡ 転職が「環境から逃げるため」なのか、「未来への戦略」なのかを見極めることが大切です。 -
3.転職市場における自分の強みを客観的するとどうか
· 現在のスキルや実績は、他社でも通用するか?
· 希望する業界や職種での求人はどのくらいあるか?
· その強みを生かした転職が自分のキャリアにマッチしているか?
➡ 転職エージェントに相談することや求人情報を定期的に見ることで、客観的な立ち位置を把握することできます。 -
4.ライフステージとのバランスはどうか
· 育児、家族、今後のライフイベントはどのような変化がありそうか?
· 年収や勤務地が変わることで、家庭への影響は?
· 家庭との時間や関係性について、転職することでどのような変化がありそうか?
➡ 「理想の働き方」を描きつつ、現実的な生活設計も一緒に考えましょう。 -
5.転職の準備をしながら見極められるか
· 情報収集やスキルアップを始めつつ、すぐに決断はしない
· 転職活動を通じて、逆に今の職場の良さに気づく可能性も
· 内定をもらってから、いまの職場との比較検討をすることも可能
➡ 「すぐ動く」ではなく、「動きながら考える」という柔軟なスタンスもありです。
これらの視点を具体的にどう活用すべきか、ケーススタディを見てみましょう。
ケース① 37歳・Webデザイナー・女性Aさんの場合
37歳で1児のママでもあるAさん。Webデザインの仕事を続けて10年以上が経過しました。子どもを育てながら在宅勤務も取り入れてはいるものの、ふとした瞬間に不安がよぎるとのこと。経験してきたクライアント数や業界の幅などを考えると、どこでも通用するスキルであるはずなのに、なぜか自信が持てていません。「もっと自分に合った働き方があるのでは?」「今の環境に甘えてしまっているのでは?」と悩むこともしばしば。そんなAさんのケースを見てみましょう。
1. 【現状への満足度】モヤモヤの正体を知る。
Aさんの場合、「子どもとの時間を増やしたい」「新しいことに挑戦したい」という前向きな思いがありました。まずは、そのモヤモヤを言葉にして整理することが第一歩です。
2. 【将来のキャリア】変化が激しい業界でどんな未来を描けるか?
Webデザインのスキルは価値がありますが、変化も早い業界です。今の仕事が5年後、10年後の理想の働き方につながるかを考えて「デザイン×○○」の視点でスキルを掛け合わせることが、キャリアの可能性を広げる鍵になります。
3. 【転職市場における強みとは】自分の強みを知る方法。
求人を見るだけでは、転職市場における自分の価値は分かりにくいものです。ポートフォリオの見直しやキャリアアドバイザーへの相談を通じて、自分の強みと課題を客観的に把握しましょう。
4. 【ライフステージとのバランス】転職は目的か、手段か。
子育てとの両立を重視するなら、転職=解決策とは限りません。今の職場で働き方を調整する選択肢もあります。「転職か否か」だけでなく、「どんな働き方をしたいか」という視点で考えることが大切です。
5. 【転職の準備と同時並行】小さく動きながら判断する。
いきなり転職ではなく、副業や学び直しなど小さな行動から始めてみましょう。少しずつ自分に合った働き方を見極めていくことで、きっと納得感のある選択につながります。
ケース② 45歳・メーカー勤務・男性Bさんの場合
長年大手メーカーに勤めている45歳のBさん。転職を意識し始めたのは、同期が役員候補として抜擢されたという噂を聞いた時とのこと。勤続20年、現在は製品企画部門のマネージャーとして、部下の育成や他部署との調整業務を任されています。「責任のある立場にやりがいも感じるが、最近は『自分自身が何を積み上げているのか』に迷いが生まれ、加えて若い頃に磨いていた技術スキルからは遠ざかっている気がする…」そんなBさんのケースです。
1. 【現状への満足度】不満はないが疑問はある。
今の仕事に明確な不満があるわけではなさそうです。ただ、やりがいや成長実感は薄れつつあるのは確か。「この役職のまま、あと20年近く働いていくのか」と思うと、何かが引っかかっているようです。
2. 【将来のキャリア】5年後・10年後の姿を想像できるか。
いまの業務では今後の明確な展望は描けそうもありません。専門性が薄れ、マネジメントだけが自分の価値になっていくような気がして、それが焦りにもつながっているようです。
3. 【転職市場における強み】経験=強みではない。
管理職としての経験はあるものの、それが他社で通用するのかは未知数です。業界や社風に依存している部分も多いと感じているそう。転職サイトに登録し客観的な情報に触れることで、自分の立ち位置が見えてくるかもしれません。
4. 【ライフステージとのバランス】将来設計と乖離する可能性あり。
子どもは高校生になり、家計としてはある程度の安定は確保できています。しかし、大学進学や今後の教育費を考えると、思い切った転職には慎重にならざるを得ないという状況でもあります。
5. 【転職の準備と同時並行】学び直しも視野に。
Bさんは、いきなり転職を決断するよりも「情報収集しながら考える」スタンスを取ることにしました。自己分析を進め、業界動向にも目を向け、必要であれば学び直しも視野に入れることにしました。あくまで転職は手段の一つ。キャリアを見直すには、まずは社内外を問わず動いてみることが大切だと感じたようです。
まとめ
転職は人生を前に進めるための手段のひとつです。正解はひとつではありません。大切なのは、自分の価値観や状況としっかりと向き合い、次の一歩を自分で選んでいくこと。
そしてひとりで悩むのではなく、信頼できる人や専門のコンサルタントに相談してみると、ひとりでは気づけなかった最良の選択肢を知ることもできるかもしれません。
個別相談はこちらから受け付けています。リンク先の下段に申し込みフォームがあります。

- 酒井 信幸
- キャリアコンサルタント/学校法人先端教育機構 社会構想大学院大学 事務局長 兼 先端教育研究所研究員