病院×フードバンクで栄養状態改善 新鮮な食料の無料配布で治療・予防医療に効果

食生活が健康に影響を与えることは、医療機関でも飢餓対策団体でも、以前からよく知られている。現在、両者の連携が始まっている。(※本記事は『reason to be cheerful』に2024年9月20日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)


ボストン医療センター(Boston Medical Center)の地下にある待合室は、ほかの待合室とさして変わらない、椅子やテレビが並んでいる空間だ。しかし、ここで患者が呼ばれると、診察室ではなく予防用フードパントリー(Preventive Food Pantry)に案内される。

その後数分で、スタッフが各患者のニーズに合わせた食料品を準備する。腎疾患を抱える患者にはカリウム含有量が高いオレンジやジャガイモは渡さない。糖尿病患者には全粒粉のパスタや玄米を提供する。そして全員が、野菜や果物など生鮮食品を持ち帰る。

「1日1個のリンゴで医者いらず」との古い格言には真実が含まれている。栄養価の高い食べ物は健康の基礎であることを認識しているから、ボストン医療センターの医師たちはリンゴを処方しているのだ。

食料が備蓄されたパントリーの中で、男性の前に生鮮食品がたくさん置かれている画像
パントリー・マネージャーのラッチマン・ヒララール氏。 Copyright: Courtesy of Boston Medical Center

「食事は、人々が当たり前のように考えている、基本的なものです」とパントリー・マネージャーのラッチマン・ヒララール氏は語る。「人々が正しい食事を摂れているか、私たちは確認する必要があります」。

このパントリー(※食料配布所)は2001年、多くの患者が家庭に十分な食料がないと訴えたことに、医師たちが警鐘を鳴らしたことを受けて開設された。病院の敷地内に設置されたパントリーは、栄養価の高い食料の入手を医療システムに直接取り入れるという、先駆的な取り組みだった。そして大きな影響を与えてきた。パントリーは開設当初、月に500人の利用を見込んでいたが、現在は月6200人以上にサービスを提供している。

この医療センターのアプローチは、医療提供者と飢餓対策プログラムの連携という、拡大しつつあるムーブメントの一環だ。医療に基づいた食事の宅配から、食品処方箋の作成、医療施設内のパントリーの運営まで、さまざまな取り組みがある。専門家は、こうした連携は健康によい影響を与えており、質の高い食材が調達しやすくなり、偏見の軽減にも貢献していると指摘する。

「これは通常のケアの一部です。『薬局に行ったから、治療用パントリーにも行く』とか『慢性疾患に対応した宅配食サービスに登録できた』などです」と話すのは、グレーター・ボストン・フードバンク(GBFB)の会長兼CEOであるキャサリン・ダマート氏だ。GBFBは、この予防用フードパントリー以外にマサチューセッツ州のほかの医療機関とも協力している。ダマート氏は「ケアとの整合性をその場ではかっているのです」と語る。

幼少期から成人期まで、食料不安は健康に影響を及ぼす。飢餓は脳の発達障害、喘息、糖尿病や心臓病などの症状と関連している。研究者は飢餓に関連する医療費が、2014年に米国全体で1600億ドル以上に達したと推計。マサチューセッツ州だけでも19億ドルに上った。

飢餓への対策は、食料の量だけでなく、質も問われる。ヘルシーな農産物や新鮮な肉、乳製品などは高額になりがちで、生活費を切り詰める家庭にとって、こうした食品は手を伸ばしにくい。

しかし、これらは健康な食生活の基礎となるものだ。医療機関や飢餓対策団体は、健康における栄養の重要性について理解はしていたが、連携はあまり進んでいなかった。

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