賢明なブランドは競合他社が危機に陥った時に広告費を抑えるという研究

(※本記事は『THE CONVERSATION』に2025年2月4日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

競合他社が失敗すると、それは脅威であると同時にチャンスでもある
競合他社が失敗すると、それは脅威であると同時にチャンスでもある。

想像してみてほしい。あなたは大手自動車メーカーのマーケティング担当者で、最大の競合企業が数千台のリコールを発表したばかりだ。今、消費者はあなたのブランドの車も安全性に問題があるのではないかと不安を抱いている。あなたは、このタイミングで広告を強化し、市場シェアを奪うべきか? それとも、悪い報道と自社ブランドが結びつくことを恐れ、広告を控えるべきか?

私のようなマーケティング教授の間で「代替ブランド」と呼ぶものでは、このようなジレンマが頻繁に発生する。リコール、顧客情報の流出やスキャンダルなど、あるブランドに対する悪いニュースは、同カテゴリーの商品全体への消費者の信頼を揺るがす可能性がある。

大きな疑問は、競合他社は広告を増やすべきなのか、それとも減らすべきなのか。そして、その調整は売上に貢献するのか、それとも損害を与えるのかということだ。

一見すると、答えは明白に思える。広告費を増やせば、市場シェアも拡大するはずだ。しかし、現実はもっと複雑だ。最近の研究で、自動車ブランド62社の2014年のリコール対応を分析したところ、私たちの研究チームは、ライバルブランドがリコールを発表した際、平均して競合他社は広告費を半減させていることに気づいた。つまり、多くのブランドは競合の危機をチャンスというより、脅威だと捉えていたのだ。

さらに、広告の内容を調査したところ、さらに興味深い結果が明らかになった。競合ブランドが失敗した際、代替ブランドは価格訴求型の広告を平均で25%強化していた。おそらくお得な商品を求める消費者を引き寄せるためだろう。同時に、品質訴求型の広告は平均71%削減されていたが、好ましくない比較を避けるためだろう。

そして、ここが肝心なのだが、この戦略が機能していたということだ。

平均して、競合ブランドのリコールによって、代替ブランドの月間売上は平均35.3%上昇していたことがわかった。そして、広告費を削減したブランドほど、その効果が大きかった。だから競合他社が失速したとき、大声を上げて騒ぐのが得策というわけではない。むしろ、データはよりスマートな対応を示唆している。つまり戦略的に支出し、価格訴求のメッセージに重点を置き、品質の比較に注意を向けさせないようにすることだ。

研究では実際のリコール事例を分析

競合他社が危機に直面した際にブランドがどのように対応するのか理解するため、私たちは実際のケースを分析した。対象としたのはフォルクスワーゲン社のリコールだ。同社は2014年10月にSagitarモデルのブランドで販売した車両、約50万台をリコールした。これは、競合ブランドが広告戦略をどのように調整するのかを研究する絶好の機会となった。

フォルクスワーゲンのSagitarブランドの車両
Sagitarはフォルクスワーゲン社のジェッタの中国販売バージョン。Volkswagen AG

私たちはSagitarの代替となるモデル(30以上のメーカーが販売するAクラスカテゴリーのセダン62車種)を特定し、リコールの前後数か月間の、308のメディア市場での広告費と販売データを収集。そして、広告費に影響を与える可能性のあるほかの変数をコントロールしながら統計分析を行った。

代替ブランドは広告費をどのように調整すべきか

競合のマーケティング危機直面後に、代替ブランドが広告費をどのように調整すべきかについては、先行研究でもさまざまな指針が示されている。自動車業界や消費財業界の事例証拠を見てもまちまちだ。たとえば、2016年にサムスン社がGalaxy Note7のバッテリー欠陥によりリコールを実施した際、競合のスマートフォン・メーカーは積極的に広告を強化し、市場シェア拡大を狙った。

同様に、2010年には、トヨタ社のリコール後、ゼネラルモーターズ(GM)社がトヨタ車のオーナーにGM車に乗り換えるためのインセンティブを提供した。GM社の最高マーケティング責任者は、こういったインセンティブを消費者の安心志向に応えるGMのやり方と位置付けており、トヨタ社のリコール後、GM社やその他の競合ブランドの売上は増加したと報告されている。

しかし、私たちの研究結果は、こうした戦略が必ずしも最適ではないことを示唆している。ときには言葉が少ない方が、より多くのことを伝えられるのだ。

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The Conversation

ヴィヴェーク・アストヴァンシュ(Vivek Astvansh)
ヴィヴェーク・アストヴァンシュ(Vivek Astvansh)
カナダ・マギル大学 マーケティング学(定量分析・アナリティクス) 准教授