メイヴ・ラボ 産学協働で強靭化したワイン用ブドウ苗を世界へ
突然変異種として発見されたワイン用ブドウの新種「Maeve(メイヴ)」。寒暑双方に強く、耐虫・ウイルス性が高く、無農薬栽培が可能なこの品種の苗供給から圃場設計、鳥獣対策を一気通貫で提供するMaeve Terroir Partners & Labs代表取締役の入山義樹氏に話を聞いた。
入山義樹 Maeve Terroir Partners & Labs株式会社 代表取締役/Light Well Partners合同会社 代表社員(東京校10期生/2022年度修了)
赴任先での出合いを機に
魅せられたワインの奥深さ
1989年に東京銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行して以来、国際業務でキャリアを重ねてきた入山義樹氏。海外赴任も多く、ドイツのハンブルクには5年間駐在した。現地スタッフにはゼクトと呼ばれる辛口のスパークリングワインが人気で、社内パーティでも提供された。それがワインに親しむきっかけとなり、ドイツを代表する白ワイン用品種のリースリングや、貴腐ワインとも呼ばれる甘口のトロッケンベーレンアウスレーゼなどへと広がり、日本に戻ってからもワインへの関心は衰えなかったという。
「先輩の勧めでロマネコンティをカリフォルニアに移植したカレラ・シリーズのピノノワールを口にしたときは衝撃が走りました。ドイツの白ワインとはまた違った世界があることを知り、ワインへの探求はさらに深まりました」
銀行員としての後半は海外システムの企画業務を担当。出向転籍したIT企業ではAIデマンド交通や住民接点のデジタル化など、自治体のDX推進に携わった。ファイナンスもITも経験したことが、現在の事業にも生きているという。
仲間と好きなことを!
人生の新たなステージの幕開け
60代を前に、入山氏は「サードキャリアは仲間と一緒に好きなことをやろう」と考え、2021年に事業構想大学院大学(MPD)に入学。在学中の最大の収穫として挙げるのは、人との出会いだ。1年目の前期ゼミではグループで構想をまとめ、おそろいのTシャツで発表会に臨んだ。また、ゴルフ好きな仲間とMPDゴルフ部にも参加し、教員も交えてコースを回るうちに、MPDならではのコミュニティの広がりを実感したという。
もちろん日々の講義も刺激に満ちたものだった。MPDでは2年間の研究成果として事業構想計画書を仕上げるが、入学当初の構想のままで進むケースと、まったく違ったテーマに挑戦するケースがある。入山氏は後者だった。
「当初はIT企業でメッシュWi-Fiの新規事業立上を進めていた時期だったことから、それを活用した広域ネットワークによる災害対策、圃場管理、鳥獣被害対策等の事業化を構想していました。しかし、半導体不足でハード製造が滞り断念。そこで頭を切り替え、地元の茅ヶ崎を起点に仲間をDAO(分散型自律組織:Decentralized Autonomous Organization)で集めて、ワイン造りをするコミュニティ構想へと転換しました。ゼミの指導教官である松本三和夫教授は当初の構想案もご存じなので『切り替えがすごい』と励まし続け、また、重藤さわ子教授には地域創生事業の大切なバックボーンを授けていただき、心から感謝しています」
入山氏が書き上げた事業構想計画書のタイトルは「湘南のワイナリーを活用した住民参加型ワイン造りとシビックセントリックソサエティの創出」。活動のメインフィールドこそ湘南ではなくなったが、構想の骨子は現在に続いている。
新種のワイン用ブドウ
「メイヴ」を世界に広めたい
新たに立ち上げた事業の核は「メイヴ」という新種のブドウだ。ショーナン代表取締役の田中利忠氏が、慶応義塾大学SFCキャンパス脇の農地で育ててきたブドウの苗で、種苗登録のタイミングで突然変異種と発覚。その情報を知った入山氏は飛び込みで田中氏を訪ねた。
入山氏が作成したメイヴ・ラボのロゴ。これをアイコンに、グローバル展開を目指す
「メイヴは後に沖縄科学技術大学院大学でのゲノム解析でも新種と確認され、研究論文にもなっている品種です。寒さにも暑さにも、虫害にも強く、無農薬栽培が可能で、北海道の厳寒地で越冬できる一方、沖縄では年間2回の収穫が可能。さらにブドウの初収穫まで通常は3年かかりますが、2年目で実らせることもできます。ワインを作るにはまず苗が育ってブドウを収穫できてこそですから、その意味でメイヴは他品種にない利点がたくさんあるのです」
2026年2月、入山氏は自身の事業会社であるLight Well Partners(LWP)を立ち上げ、既存メイヴ関連事業者である北海道ブドウ苗木園とショーナンと共に、2026年4月にMaeve Terroir Partners&Labs(ブランド名:メイヴ・ラボ)を設立した(図)。メイヴ・ラボの目的はメイヴの可能性を事業として社会実装することで、入山氏は全体を統括する代表取締役に就任。取締役には北海道唯一の本格的ワイン用ブドウ専門苗木事業を立ち上げた北海道ブドウ苗木園代表の家島直希氏が就任し、メイヴのオーナーである田中氏も参画している。
図 メイヴ・ラボの事業概念図
基本コンセプトは「地域×Maeve(メイヴ)×DAO(分散型自律組織)」による新しいワインエコシステムの構築。苗の生産や販売にとどまらず、コミュニティ形成や栽培支援、ワイン醸造、そしてグローバル展開を目指す
提供:入山氏
「当社ではメイヴの種苗の生産と販売、そして栽培に欠かせないブドウ棚の補助設計や、鳥獣被害対策、収穫タイミングの指導に至るまで、ワンストップで提供します。メイヴにかかわった方にはメイヴファミリーという登録メンバーになっていただき、横連携によるコミュニティ造りも行っています。条件はメイヴを信じて、愛して、大切にしてくれること。そのコミュティでの情報交換により、メイヴのブランド価値を守ろうとしています」
北海道では温暖化の影響でワイナリー開業への関心が高まっており、北海道大学がノウハウを提供しているワインアカデミーには昨年約数百人が集まったという。栽培はもちろん北海道以外でも可能で、神奈川県小田原市の耕作放棄地にはメイヴが千数百本植わっている。そこでは「住民がボランティアで草刈りや収穫を担い、醸造したワインを地元で楽しむコミュニティが生まれました。収穫物は販売もしますが、そのコミュニティ中で楽しむので成立しています。小さくとも回り続ける仕組みです」。
今後の展望としては輸出と観光農園の2軸を描く。協働パートナーである北海道大学には、フィンランドの研究機関からメイヴを育てたいという打診があり、農林水産省およびEUの種苗法上の許可取得に向けて、ウィルスフリー化実現による具体化を共に目指している。まずは引き合いのある東南アジア等の国でなどで輸出実績を積み上げ、最終的にはヨーロッパへの逆輸出を目指す。観光農園についてはトスカーナ地方にある宿泊施設付きのワイナリーのように、地元食材とのマリアージュを提供したいと考える人々がいて、入山氏は構想段階から参画。「これからも仲間のネットワークを生かしながら、メイヴを軸にした地域創生の形を手作りで積み上げていきたい」と締めくくった。
自治体主導で圃場を立ち上げた北海道三笠市がメイヴを採用