実務家教員の知を理論化するために 実践の理論を考える

これまで実務家教員の定義の問題をみてきた。筆者は実務家教員の研究能力を次のように考えている。高度化・複雑化する社会のなかで、さまざまな知やスキルが必要となった。それぞれの学問的な専門分野に裏打ちされた学術知にくわえ、実務実践のなかでつくられる実践知、そして学術知や実践知がどのような場面で、どのように使われるのか知識を活用するためのメタ知識である。実務家教員は、自身の実務実践の経験から実践知を教育可能な形式知にする役割を担っている。

「知識」の基本的な発想

ここで少し言葉の整理をしておきたい。実践知とは、実務実践のなかで生成された知識の総称として用いている。したがって、ここでいう実践知は暗黙知であるか、形式知であるかというのは問わない。のちほど詳しく述べるが、学術的な活動を通じて生成されなかった知識が実践知ということになる。さらに知識について述べておきたい。知識の定義については、さまざまな論者が興味深い定義をしている。筆者は、知識について「いかに成果を出すものか」と定義したい。

たとえば、タクシードライバーが「自分の営業地域で、いつ、どこを流していれば乗客を乗せることができるのか」という実践知をもっているとしよう。ドライバーにとっての成果は、乗客を乗せて売上を伸ばすことである。そこでドライバーは(その知識を知識として認識しているのかを別にして)、その知識にもとづいて業務をおこない乗客を乗せ売上をあげる成果を出している。

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