KKday Japan 観光DXで地方の体験を世界の市場へ

訪日客4,268万人、旅行消費9兆円超。数字の上で日本の観光はこれまでにない好機にある。だがその足元では、手作業に依存した旧来の商習慣が地域資源を市場から遠ざけている。アジア最大級の体験予約プラットフォームを展開するKKday Japan。大淵公晴・日本支社長に、観光インフラの構想を聞いた。

離島で知った「埋もれる地域資源」

 大淵公晴氏が観光を事業領域に選んだ原点は、妻の実家がある鹿児島県・沖永良部島にある。2010年ごろ、現地で体験したケイビング(洞窟探検)に深く感動した。この魅力を広く届けたいと考えたが、調べるほどに、その難しさが見えてきた。

 当時の集客手段は、事業者が月額数万~数十万円の掲載料を負担する固定広告モデルが主流であった。都市部の大型事業者であれば投資回収は可能だ。しかし地方の小規模事業者にとっては、この固定費は参入の壁そのものであった。

 「素晴らしい地域資源がありながら、従来型のビジネスモデルの仕組みによって世の中に伝わらないのです」と大淵氏は振り返る。この課題認識から、2014年に成果報酬型の予約プラットフォーム「アクティビティジャパン」を立ち上げた。事業者に初期リスクを負わせることなく、システムと集客基盤を自社の先行投資で用意した設計だった。

大淵 公晴(株式会社KKDAY JAPAN 日本支社長)

 大淵氏はその後、2018年にライブ配信の17LIVEへ移る。そして2022年3月、KKdayグループの日本支社長に就任した。観光からライブ配信へ、そして再び観光へ。一見すると脈絡のない経歴に映る。しかし、大淵氏が見てきたのは「業界」ではなく「市場の変化」だ。新しいテクノロジーや消費行動によって市場の構造が変わるとき、そこにどのような事業機会が生まれるのか。観光プラットフォームの立ち上げも、急成長するライブ配信市場への挑戦も、その視点では一貫している。KKdayでは再び観光の世界に戻り、地域の現場とグローバルな市場をつなぐ仕組みづくりに取り組んでいる。

「ブームは永遠ではない」という危機感

 数字の上では、日本の観光は好調である。観光庁の速報値によれば、2025年の訪日客数は4,268万人。旅行消費額は9兆4,559億円で、いずれも過去最高を更新した。

 だが大淵氏の見方は慎重だ。「日本のホスピタリティは世界最高です。ただ、そこにあぐらをかくスタンスでは足元をすくわれます。ブームは永遠ではありません。旅行客がいつまで日本を選び続けてくれるかは、わからないのです」と警鐘を鳴らす。

 懸念は数字にも表れ始めた。2026年の訪日客数について、JTBは前年比約3%減の4,140万人と予測。森トラストは2〜5%減の4,050万〜4,200万人と推計する。特定の市場で渡航需要が変調をきたしたことが主な要因だ。量の拡大を前提とした計画は、すでに通用しない局面に入った。

 構造的な課題も残る。日本の観光業は、オペレーションのシステム化が世界的に見て遅れている。ウェブ上の予約窓口は整っていても、その先にある在庫連携や手配業務は人手に依存する例が少なくない。

自前主義を捨て、世界の基盤に接続する

 この遅れをどう埋めるか。大淵氏の発想は明快である。すでに専門のプレイヤーが高度な基盤を築いた領域は、外部に委ねる。海外からの集客、多言語対応、グローバル決済など、すべてを地域内で完結させる理想論では、変化の速度に追いつけないという判断だ。「餅は餅屋であり、やはり得意な部分は得意なところに任せていくべきだと思います。」大淵氏は、こう語る。

 KKdayは92カ国550都市で約35万件の旅行商品を扱う。日本ではリクルート「じゃらん」と連携し、約1万軒の宿泊施設を予約可能にした。カカクコム「食べログ」との連携では、4万2,000軒以上の飲食店を扱う。自前で抱え込まず、出口を増やす分業である。

 供給側を支えるのが、予約管理システム「rezio(レジオ)」だ。オンライン予約、在庫管理、決済、電子チケットを一元管理するSaaSである。2026年6月時点で世界7,000社以上、国内でも2,000社以上の観光事業者が導入する。累計利用者は1,400万人に達した。

 効果は事業者の数字に表れている。クラブツーリズムはKKdayへの掲載後、2025年の参加人数・売上がともに前年比約1.5倍となった。インバウンドに占める台湾・香港の比率は、2023年の約60%から90%超へと拡大している。

KKday JapanのHP画面(同社提供)

現場に根づかせ、地域と世界をつなぐ

 現場の壁は、技術ではなく心理にある。手作業に慣れた地方の観光現場には、変更への抵抗が根強いこともある。大淵氏はデジタル化を強制せず、現場のオペレーション負担を減らす手段として提案する。

 「訪日のお客様は、出発の15日以上前に予約を済ませる方が多いのです」と大淵氏は語る。事前決済とオンライン予約を整えれば、多言語の問い合わせ対応はプラットフォーム側に集約できる。現場の負担を減らしつつ、機会損失を防ぐ。地域への経済効果は、その循環から生まれる。

 地域との接続も進む。2026年4月には東日本旅客鉄道(JR東日本)と業務提携した。JR東日本のネットワークとKKdayの知見を活かし、体験・観光コンテンツの拡充と鉄道パスを組み合わせたバンドル商品を販売する。東北を中心とした地方誘客が狙いである。

 投資も続く。グループは2024年下半期、国内外の投資家から約7,000万ドル(約100億円)を調達した。技術開発とアジアでの事業拡大に充てる。ただし海外発の基盤は、置くだけでは日本の現場に根づかない。大淵氏が自らの職務と位置づけるのは、その結節点である。台湾本社の経営陣と、日本の地域・事業者との間に立つ。

 最後に大淵氏に事業を創出する際に重要な要素を伺うと、同氏は、自身のキャリアを振り返りながら、まず「浮かんだアイデアに熱くなれること」を挙げる。この「熱くなる」とは、自分が好きな領域かどうかではなく、事業としての可能性を感じ、その市場で「勝てる」「戦える」と信じてやり切れるかどうかだという。そして、その事業に感じた可能性をより確かなものにするためには、しっかりと事業者の実際の声に耳を傾け、市場ニーズを確かめることが不可欠だと語る。地域や事業者に寄り添いながら、着地型観光を通じて地域活性に貢献する大淵氏と同社の今後の歩みに注目したい。

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